もしもおとぎ話の登場人物が婚活女子だったら【ナナオクプリーズ・星井七億】

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シンデレラ

結婚しなければならない、とシンデレラは思いました。毎日意地悪な継母たちにいじめられていたシンデレラは、高収入のイケてる男と結婚することで逆転ホームランを図ろうとしたのです。

「いいかい、シンデレラ。私達は舞踏会に行くから、しっかり留守番しているんだよ」

「そんな、お母様。私も街コンに行きたいわ」

「お前なんかが舞踏会に行けるわけないだろう。私たちが帰ってくるまでに掃除を済ませておくんだよ」

「ああ、お母様達がうらやましい。私だってきれいなドレスがあれば街コンに行けるのに」

「さあて、今夜の舞踏会にはどんな素敵な男性がいるかしらねえ」

「お願いお母様、私も街コンに」

「舞踏会だって言ってるだろ!」

留守番を言い渡されたシンデレラがさめざめと泣きながら床と自分を磨いていると、魔法使いのおばあさんが現れてこう言いました。

「なんて不憫な娘なんだろう。私がお前に魔法をかけて舞踏会に連れていってやろうね」

「魔法なんて待ってちゃダメ。婚活は行動力。女子だって自分から動かなきゃ!」

おばあさんを無視してレンタルのドレスとガラスの靴を身に着けたシンデレラは、メイクを施して舞踏会へ向かいました。するとそこにはとっても魅力的な王子がいたのです。

「王子ってことは身元や収入はしっかりしてるでしょ、ルックスは、うーん......及第点かな。あとはフィーリング!」

他の客を押しのけて王子の前へやってきたシンデレラ。その素早さたるや、まるでハゲタカかチーターの如し。

「王子、一緒に踊っていただけませんか? あとご趣味は? 好きなタイプは? 長男? 変な性癖なんて持っていませんよね?」

シンデレラは目の色を変えて質問ラッシュ。王子はいささか引き気味でした。踊りに関しては日課であるベリーダンスが功を奏しました。

夢中になって時間を忘れたシンデレラがふと時計を見てみたところ、すでに時刻は十二時直前。このままではメイクという名の魔法が解けてしまいます。アラフォーにはなかなか厳しい時間帯なのです。

シンデレラは大急ぎでお城をあとにしました。その際、お城の中にガラスの靴と、ガラスのゼ●シィと、ガラスのLINE IDをうっかり忘れてしまいました。

待てど暮らせど王子からの友だち申請は来ませんでしたが、城に残されたガラスの靴の持ち主を探して、王子が街へやってきました。町の女性が次々とガラスの靴に足を入れる中、当然ながらシンデレラの足がジャストフィット。

すると、王子が満面の笑みで言いました。

「やあ、持ち主が見つかってよかった。実は来月、フィアンセである他国の王女と結婚することになったのですが、あなたにも参席してほしい。この間のベリーダンスが忘れられなくてね。式の余興で是非披露してください!」

こうして王子は年下のフィアンセと結婚し、結婚式でブーケを取りそこねたシンデレラはチワワを飼うことにしましたとさ。

浦島太郎

結婚しなければならない、と乙姫は思いました。海の底にぽつんと佇む龍宮城。ひとりでクリスマスに明石家サンタを観るのはもうまっぴらごめんだと思ったのです。

乙姫はこれまでに多くの人間の男を龍宮城へ誘い込んで伴侶にしようとしたのですが、オラオラ系の男が好きな乙姫の恋はいずれも惨敗。魚類にも手を伸ばし、オラオラ系ならぬボラボラ系やタラタラ系とも交際してみましたが、結果は同じでした。

ワイルドな男はもう結構。今度は草食系であっても心優しい男にしようと思った乙姫は画策しました。まずは亀を地上に送って子供にいじめさせ、亀を助けた正義感のある男が現れたら、その男を龍宮城に引きずり込んで手籠めにしようと思ったのです。

数日後、乙姫がゴムに穴を空けていると、亀が人間の男を連れて来ました。桐谷健太似の色男は名前を浦島太郎と名乗りました。

このチャンスを逃す手はない。すでに脳内でキャンユーセレブレイトが流れていた乙姫はなんとか浦島を接待し籠絡するべく、贅の限りを尽くしました。

豪華な食事にタイやヒラメの舞い踊り、辺りを見渡せば絵にも描けない美しさ。いじめられていた亀を助けただけで、ここまでの施しをしてもらえるなんて。浦島は大変満足しました。

酔った浦島に乙姫が訊いたところ、現在伴侶はなく飲む打つ買うとは無縁の生活を送る真面目でお固い性格。収入面が不安定ではあるものの、お金持ちである乙姫には問題がありません。むしろ逆玉の輿を匂わせることで、浦島の心を掌握できるのではないかと睨んでいました。

ですが来る日も来る日も一向に、浦島が乙姫を求めてくる気配はありません。美女として知られる乙姫の高いプライドにも傷がつき、そろそろ強引に既成事実を作ることを考えていると、ついに浦島が地上に帰ると言い出したのです。乙姫は焦って浦島を引き止めました。

「待って、浦島さん。次はいつ面接(デート)できますか?」

「いいえ、僕はもうここには戻りません。地上にたいせつな人を残しているんです」

「もしかして、ご両親や他のご家族のことかしら。でしたら全員龍宮城へ連れていらして。そして、みんなで家族になりましょう。私、家事のほうならちょっとしたもので......」

「乙姫、あなたの気持ちは嬉しいけれど、実は僕は心に決めた相手がいるのです」

その一言は振り下ろされたハンマーのように、乙姫の頭にガツンと衝撃を与えました。とはいえ、ここで屈しないのが婚活の大事なところ。要は地上の相手以上に浦島を自分に夢中にさせればいいだけの話なのです。乙姫は眠れる女子力を解放する準備をしました。

ですが、浦島が続けた言葉は意外なものでした。

「実は僕......一目会ったその日から、亀さんのことが好きなんです。亀さんのほうも昨日、僕の想いを受け入れてくれました。僕にはもったいないくらい素敵な相手なんですよ」

乙姫の頭にもう一発の衝撃。ここにきての亀の裏切りに、乙姫が視線をすべらせると、頬を赤らめた亀はいつもより頭を伸ばしています。

「そんな、亀とだなんて、種族が違うじゃないの。人間と亀は結婚なんてできないのだから、私と一緒になったほうが」

「種族なんて関係ない。僕は亀さんのことを心から愛している。愛の玉手箱は白い煙をモクモクあげているんだ。地上で派手に結婚式をあげるので、よかったら乙姫も是非参席してください!」

こうして浦島は亀と結婚し、式の余興でタイやヒラメと舞い踊りを披露した乙姫は、龍宮城に帰ってチワワを飼うことにしましたとさ。

鶴の恩返し

結婚しなければならない、と鶴は思いました。周りのメス鶴が次々と良いオス鶴を見つけて幸せへと羽ばたいていく中、仕事に夢中で恋愛を疎かにしてきた鶴は突然の寂しさに目覚め、心にぽっかりと空いた穴を埋めるためにチワワなどを飼いはじめたのですが、人肌、もとい鳥肌寂しさまでは紛らわすことが出来ませんでした。気が付けばいたずらに歳を重ね、人間に化ける妖術まで身に付けてしまうレベルです。

この日は一番の仲良しだった友達の結婚式に参加した帰り。ついに自分以外のメス鶴が全員結婚し、中にはすでに子供までいる者もあり、「また先越されちゃったー」と笑顔をふるまったものの内心の焦りを隠せなかった鶴は引き出物の入ったバックをくちばしにくわえ、愛犬の待つ家へと向かっていました。

するとどうでしょう。ショックを引きずりぼうっとしていたのが悪かったのでしょうか。人間の仕掛けた罠に引っかかってしまい、鶴は絶体絶命のピンチとなりました。

お笑い種ね。私、独り身のまま人間なんかに羽一枚残さずバラバラにされて死んでしまうんだ......と、もはや乾いた笑いしかでてこなかった鶴に近づく影。それはひとりのお爺さんでした。

「おお、可哀想に。今すぐ助けてやろうね。さあ、もう罠なんかに引っかかるんじゃないよ」

お爺さんと目が合った瞬間、鶴の脳内でオールウェイズ・ラヴ・ユーのサビが流れだし、罠から開放されて飛び立った鶴はひとつの決心を固めました。あの優しいイケ老人と、どうか家庭を持ちたいと。

翌日、とびきり美しい人間の娘に化けた鶴はチワワを連れてお爺さんの家へ訪れ、身寄りがないのでここへ住まわせてくれ、そうすればお礼に色々なことをしますとお願いしたのです。優しいお爺さんは鶴とチワワを不憫に思い、家へと招き入れました。

ここにきて、使いみちがないまま終わるのかと思われていた花嫁修業が役に立ちました。炊事洗濯掃除に諸々、全知識フル活用で家事力をアピールする鶴。次第にお爺さんは籠絡され、鶴のとりこになってしまいました。二人......実際にはひとりと一羽は自然と男女の仲へと発展し、いつかお爺さんの腕の中で、鶴は問いました。

「ねえ、お爺さん。いつ結婚してくれるの」

「ああ、今はまだ難しいんだ。そのうち絶対するわい。そのうち......」

煮え切らないお爺さんの態度。私の織った織物を売ったお金で、一緒に幸せに暮らせばいいではないかと思っていた鶴はそろそろゴムに穴を空けることを考え始めましたが、その幸せも長くは続きませんでした。

「ちょっと、お爺さん。この女はなんなのさ。私がいない間に若い女を連れ込んだんだね!」

当然来訪してきたひとりの老婆。それはお爺さんの妻であり、病気で入院していたお婆さんでした。お爺さんは既婚者であることを鶴に黙っていたのです。

感情の赴くままに怒鳴り散らすお婆さん、泣き叫びながら家中に羽をばら撒く鶴、床が凹むほど土下座を繰り返すお爺さん、破かれていく織物、吠えるチワワ、阿鼻叫喚の地獄絵図です。

「男なんて信じた私がバカだった。もう一生ひとりで生きていくわ!」

崩壊していく夫婦関係を見つめて揺るぎない決意を固め、チワワを連れて家に帰ろうとした鶴でしたが、チワワがどこからか持ってきた紙を見て固まりました。それはチワワの結婚式の招待状でしたとさ。

【著者紹介】

星井七億
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ブログ「ナナオクプリーズ」管理人。
http://7oku.hatenablog.com/
著書に「もしも矢沢永吉が『桃太郎』を朗読したら」がある。
Twitter: @nanaoku_h

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■実はマイナビ、婚活サービスもやっている

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