世界トップシェア! 2万本の糸を編み上げるレース工場に行ってみた

こだわり カツセマサヒコ ピックアップ 結婚式のアイテム

こんにちは。ライターのカツセマサヒコです。

結婚式と言えばウエディングドレスだと思うんですが、ウエディングドレスって多くの男性から見れば大体同じように見えるのに、実はとても奥が深くてバリエーションも豊富なんですよね。

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たとえばこの写真に写っているモデルさん。着ているドレスのレースの模様がとても細かくてオシャレですよね。このレースの模様や使い方がちょっと違うだけで、数万種類のウエディングドレスが作れると思うんですが、そもそもレースってどうやって作られているんでしょうか?

女性なら見慣れているかもしれませんが、男の僕としてはレースを見る機会すらあまりないですし、もはや謎だらけです。まさか全部ミシンで編んでるの? それって果てしなくない?? 

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そんな疑問を解消するために、今回はレース作りの製造工程を見に行こうと新大阪から電車で約20分かけて甲子園口駅にやってきました!

なんでもここにレース界の最大手、「栄(さかえ)レース」さんがあるそうです。


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栄レースさんまでは、駅からタクシーで10分程度移動します。タクシー運転手に「栄レースまで」と告げたら、「あーはいはい」とすぐに進み始めました。ここらへんではメジャーな会社らしい。

世界的に見ても圧倒的なシェア

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タクシーに揺られること約10分。栄レースさんに到着しました。

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工場とオフィスは同じ敷地内にあるようで、全体像がつかめないほど大きそう。中に入ると、総務部の方が会議室に案内してくださり......

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レースのデザインを担当しているグループ会社「宮城レース」のデザイン室課長・中西則行さんを紹介いただきました!

ーー中西さん、今日はよろしくお願いします!

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「はい、よろしくお願いします」

ーーまず率直に聞きたいんですけど、栄レースさんってレース業界の最大手らしいじゃないですか。どのぐらいすごいんですか?

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「レースは作り方によっていろいろな種類があるんですが、中でも多くの職人が手をかけて繊細な作りを実現する『リバーレース』を扱っている会社は、日本では弊社だけなんです。海外ではフランスやイギリスも作っていますが、リバーレースを使ったインナーウェアのシェアでは、弊社および関連会社が世界一です」

ーーえ? いま僕、世界一の会社に取材してるってことですか?

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「言い方次第では、そうなります」

ーーマジですか。完全に舐めてた。

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「そもそもリバーレースは、イギリスのジョン・リバー氏という人物が開発した機械で作られています。今この機械は世界に200台ぐらいしかなくて、そのうち約87台を弊社が所持しています

ーー持ちすぎでしょ。

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「リバーレースを作るにはたくさんの職人の腕が不可欠なんですが、育成するのが難しい。弊社では海外の工場でも職人を育てられる生産体制を整えてきたので、それだけの設備を活かすことができたんだと思います。

職人がいなければ、機械も回りませんから。おかげさまで、下着に使われているリバーレースの65%は、弊社及び関連会社で作ったものです

ーー下着の65%? じゃあ僕がこれまで死にもの狂いで口説いてやっとこさ見ることができた女性の下着も、実は6割は栄レースさんが絡んでるってことですか?

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「もしかしたらそうかもしれないですね」

ーー圧倒的すぎてこわい。

年間700点のデザイン開発

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ーートップシェアってすごい生産量だと思うんですが、1年間で大体何点くらいのデザインをしているんですか?

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「弊社では現在、2種類のレースを扱っています。『リバーレース』が500柄、リバーレースより少し目が粗い『ジャガトロニックラッセルレース』が200柄合計で年間700柄ほどですね」

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ーー思ってたよりもめちゃくちゃ多い!! ひとつのレースを作るのに、そんなに時間はかからないものなんですか?

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「リバーレースの場合は、デザインしてから完成するまでに1カ月くらいかかるんですよ」

ーーえ! そんなに時間かかるのに700点も作ってるんですか!?

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「そうですね。デザイナーだけでも30名近くいますし、人の手がかかっているからできることだと思います。ちなみに、生産工程は8つにわけることができるんですよ」

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①デザイン

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「レースの美しさの鍵を握るのがデザインです。ただ、リバーレースの糸は一方向にしか進むことができないので、デザインするときに糸が一筆書きの動きになるように考慮して作られているんです」

ーー頭がよくないとデザインできなさそうですね......。

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「そうですね。なのであまり複雑なデザインはしにくいのですが、その中でもデザイナーが感性を活かして、日々新しいものを作っています。まれに、本当に凝ったデザインが出ることもありますが、なかなか普段からできるものではありません」

ーー確かにそうでしょうね、コストかかりすぎるもんなあ......。

ほかの工程も、かんたんに説明いただけますか?

②ドラフティング

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「デザイナーが作ったデザインを機械が読み込めるように、設計図のように描き換える作業をしています」

ーーふむ。

③整経

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「『ボビン』に糸を巻き込んで、機械にセットする作業です。1ミリでも位置がズレると糸が絡まってしまいます。とても細かいので職人の腕が問われます」

――なるほど。

④本機織り

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「2万本もの柄糸やネット糸がボビンと絡み合って、模様を作る工程です。レースを作る、という意味ではここが一番『形になった』と思える部分ですね」

ーーほお。

⑤染色

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「レースに色を染める作業です。レースって糸単位では色を染めずに、生地ができてから染めているんですよ」

ーーふーむ。

⑥テンター

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「リバーレースは織っていく過程で一定方向に歪む性質があるのですが、それを矯正して樹脂加工を施す工程です」

ーーなるほどー。

⑦検反・物性テスト

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――なるほどなるほどー。

⑧カッティング・巻き上げ

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「広い巾の状態で作られるレースを、細く断裁し、リールに巻いた状態で出荷することになります」

ーーうーん、なるほどー。

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「以上ですけど、聞いてました?」

ーーはい、レースを作るのは大変ってことだけはわかりました。

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「本当にわかってるのかな......」

超緻密な2万本の糸

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――糸を織り上げるのってすごい細かな作業が発生しそうですが、どういう仕組みでできているのでしょうか?

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「ミシンにも『ボビン』という糸を巻き取る部品があると思うのですが、基本的にはあれと同じように、ボビンに糸を巻き付けておいて、そこから糸同士を絡ませて生地を作っていきます。ただ、レースの場合は糸と糸が緻密に絡まなければならないので、1つの機械に5,000枚のボビンをセットしています」

ーー5,000枚!?

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これがボビン。よく見ると、細い糸がボビンの裏から上に向けてつり上がっているのがわかります。

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糸を絡めたボビンをキャリーに一枚ずつ挟んでいきます。

ーーボビンがこんなに薄くて小さいのに、それが5,000枚敷き詰められてそれぞれが個別の動きをするって、めちゃくちゃ細かいですよね。

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「そうですね。1ミリのズレも許されないので、セットは常に慎重です。ボビンに糸を入れるのも、0.3ミリの隙間ですからね」

ーー想像するだけでじんましん出てきそう。

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「本当は機械が動いているところを見てもらうのが早いのですが、あいにく工場がタイと中国なんですよね......。動いていないものならあるので、そちらに行きましょうか」

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でかい! 工場っぽい!

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「これが本機織り用の機械です。全幅は7メートルほどですね。ここにボビンが5000枚組み込まれて、柄糸やネット糸と絡み、合計2万本あまりの糸を使って一気にレースを作り上げていくんですよ」

ーー1枚のボビンに糸はどのぐらい入っているんですか?


f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「約180メートルです」

ーー180メートル!? さっきの小さなパーツにそれだけ糸を巻いてる人がいるってことですか......。

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「そうですね、そこも手作業でやっています。しかも、糸はテンションがないと弛んだり切れたりしてしまうので、180メートル巻いても使うのはその全てではないんです」

ーー労力がかかりすぎてて聞いてるだけでしんどくなってきた。

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「だからレース業界はどんどん会社が減っていってるんでしょうね」

ーー辞めていく会社の気持ちもわからなくないなあ......。

※工場内の様子も写真を撮ろうと思ったのですが、得意先の商品となるレースを作っている場所ばかりで、撮影がNGでした。

工場内は湿度や温度が一定に保たれていて、めちゃくちゃきれいってことだけ覚えておいてもらえればと思います。なんか清潔感しかありませんでした。思ってた工場と違いました。

強みも弱みも、一貫生産ラインにあり?

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ーーリバーレースを作るのにかなりの人手と工数がかかることはわかったのですが、栄レースさんがトップシェアになれたのはほかに理由があるんですか?

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「先ほどボビンの話をしたと思うのですが、このボビンは関連会社で自社開発しているんです。外注すればよいのですが、製造を一から頼める会社はなくて。

一つの会社で製品を作るための機械のパーツまで作っているなんて、普通はないと思います。結果的に、それが参入障壁になって、弊社の強みになったのだと思います」

――なるほど! ほかの企業が今から参入するには、人件費や設備投資のコストがかかりすぎますし、一貫ラインでやれているのは確かに強みなんでしょうね。逆に、弱みとなる部分はあると思いますか?

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「実はそれも、一貫ラインにあると思っているんです。他社に外注してパーツを作っていないので、どこかが壊れたり機能がストップしたとき、全て社内で解決しなければなりません。それにはどうしても時間的なコストがかかりますし、もしも直らなかったら、と考えるとリスクでしかないので......」

ーーそうか、内製化しすぎるとケアしなきゃいけない範囲も増えて、また人件費がかかるんですね。

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「そうですね、それってすごく怖いことなんじゃないかと危機感を持っています」

ーー強みがそのまま弱みになるっていうのは、企業によくある話かもしれないですね......。

社歴25年の間に起きた大きな変化

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ーー中西さんはこの仕事のどういったところにやりがいを感じますか?

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「入社したてのころは今ほどシェアを取れていなかったんです。だから街に出ても自社製品が流通していることはほとんどありませんでした

でも、今では海外に行っても女性のインナーウェアであれば大体は弊社グループのものが並べられている。デザインに携わる部署にいる身として、これほどうれしいことはないんです。

昔と比べてはるかに普及した自社製品を見るときが、いちばん『やっててよかったなあ』と思うときですね」

ーー自分の作った商品が街にでているのを見られるっていうのは、モノづくりをする人にとってはたまらない喜びなんですね......。

ちなみにウエディングドレスやアウターなどに栄レースさんのレースが使われることはまだあまりないのでしょうか?

f:id:katsuse_m:20160129060314j:plain「アウター用に動き出したのがここ数年のことなんです。これからどんどんチャレンジしていって、国内外問わずシェアを広げていきたいと考えています」

ーーそうなんですね! 素人目からしたらわからないですけど、数年後には男性でも身近で見られるようになってるかもしれないですね。

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以上で取材は終わりました!

レースってもっとかんたんに作られているかと思っていたのですが、きめ細かなものを作ろうとすると本当にたくさんの工数と、多くの人の手がかかっていることがわかりました。

栄レースさんは現在は海外に工場を移していますが、この取材をするまで名前すら知らなかった企業が実は世界一のシェアを持っていたことの驚きもさることながら、日本のモノづくりって、まだまだいけるんじゃないのか!? と思わされた次第でした。

あと、とりあえず下着用に使われているリバーレースの65%は栄レースさんのものというのは間違いないようなので、そのあたりも崇拝しながらこれから生きていこうと思いました。すごいな栄レース!!

【取材協力】
栄レース株式会社
http://www.sakae-lace.co.jp/

www.sakae-lace.co.jp

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