【シロクマ寄稿文】結婚で一番大事なのはお互い敬意を持ち合うことなんじゃないの?

まじめ ピックアップ 新婚生活

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ブロガー精神科医の熊代亨(通称・シロクマ)と申します。

うまくいっている夫婦に共通しているものってなんでしょうね?

世の中には、お金持ちの異性と結婚して幸せになりたいだとか、ルックスの良い異性と結婚して幸せになりたいだとか、そういった願望を口にする結婚志望者がたくさんいます。

まあ、お金があったほうが良いのは事実でしょう。「貧すれば鈍する」を避けるためにも、低収入なパートナーより高収入なパートナーを選びたいと思う心理は理解できるものです。それなら、高収入な異性と結婚した人は必ずうまくいっているものでしょうか?

全然そんな事はありません。年収は高いけれども金遣いが荒いパートナー、人の意見に耳を傾けずお小言のうるさいパートナーと結婚した人は、たいてい青息吐息です。あるいは、年収の高い夫を"ATM"のようにこき使っておきながら、いつも夫への不平不満ばかり口にして毎日嫌な顔をしている奥さんもいます。ああいう生活を続けていたら、じきに人相まで悪くなっちゃうんですけどねぇ。

夫婦ともども年収やステータスに恵まれた、いわゆるパワーカップルにしても、お互いにいがみ合い、内心で見下し合っている夫婦はあまり幸せそうではありません。せっかく一人でも暮らせる稼ぎがあるのに、わざわざ結婚してお互いの首を絞めあうのは酔狂のきわみだと思えるのですが。

同じく、パートナーの見栄えの良さも夫婦円満の秘訣とは思えません。美男美女は表情がよく映えるものですが、表情が映えるだけに、不機嫌だったり怒っていたりしていると逆におっかなくてかないません。ましてや、パートナーの若々しい美しさに惹かれて結婚したところで、その魅力は歳を取れば失われてしまいます。

収入やルックスの問題を無視するのは難しいとしても、夫婦がうまくいっているか否かは、もっと違ったところで決定づけられているように、私などには思えるんですよ。

お互いに敬意を払い合う結婚生活

恋愛はともかく、結婚生活をうまくやるために一番大切なのは、お互いの自尊心に気を遣って、きちんと態度で示しあうことだと思います。

個人主義が定着したこのご時世、誰もが自分のことが一番大切で、自尊心に敏感な人が増えています。それ自体は、良いことでも悪いことでもありません。

でも、自分の自尊心に敏感になるなら、パートナーの自尊心にも同じぐらい敏感になって、お互いに配慮しなければカップルは安定しないのではないでしょうか。控えめに言っても、結婚相手の自尊心は自分自身のそれと同じか次ぐらいには大切にしても良いはず。自分自身の自尊心ばかり大切にして、パートナーの自尊心をちっとも気にかけないようでは、パートナーの側は嫌な気持ちにならざるを得ません。

どうもこのあたり、勘違いしている人がたくさんいるようなんですよ――友達や職場の同僚の自尊心にはそれなり気を遣えるのに、パートナーが相手になると上から目線が露骨で、自尊心にぜんぜん気を遣っていないのが丸見えな男性や女性。友達や同僚の自尊心に配慮するのも大事ですが、一生を共に過ごす結婚相手こそ、もっと自尊心に気を遣い、もっと配慮するにふさわしい相手ではないでしょうか。

「結婚は人生の墓場」とはよく言われる言葉です。が、そもそも、この言葉をありがたがっている既婚者達の大半は、パートナーの自尊心の問題とちゃんと向き合っていないように見受けられます。パートナーを見下し、"飯炊き婆さん"や"ATM"呼ばわりした挙げ句、思い通りに行動してくれないと不満がるような結婚生活は、そりゃあ墓場と喩えたくもなるでしょう。ですが、パートナーだって同じ人間、同じ自尊心を持った存在なのですから、ちゃんと気を遣って、ちゃんと自尊心にも配慮したお付き合いが必要なのは当然です。

結婚を人生の墓場にしている悪者は、パートナーじゃなくて、相手の自尊心を踏みにじって平気な顔をしている自分自身かもしれないのです。

パートナーに敬意を払うこと。そのためには

パートナーの自尊心を大切にするための秘訣はなんでしょうか。私は、パートナーに対して敬意を払うことではないかと思います。

パートナーに敬意を抱いていれば、「ありがとう」「ごめんなさい」「うまくやってくれたね」といった言葉が自然と口から洩れるようになり、コミュニケーションもスムーズになります。忙しそうに家事を切り盛りしているパートナーを手伝う気持ちにもなりやすいし、パートナーのことを"飯炊き婆さん"や"ATM"呼ばわりすることもなくなるはずです。他方、パートナーを見下していたり馬鹿にしていたりすれば、そういった言葉や態度はよほど意識しない限り出てこないし、なかなか長続きしません。

もちろん世の中には、どうしたって敬意を抱きにくい人物もいますし、相手の敬意にタダ乗りして自分だけ得をしようとする悪者も混じっています。ですが、そもそも結婚とは心の紳士協定が結べそうな者同士で取り結ぶもので、少なくとも、そのような見込みのある者同士で取り結ぶものでしょう。

年収の高さやルックスの良さなら誰でもすぐにわかりますが、「お互いに敬意を払って、助け合って生きていける相手かどうか」はすぐにはわかりません。ただ、恋愛結婚にしろ婚活結婚にしろ、現代の結婚にはパートナー候補と一緒に時間を過ごしてみる猶予期間(モラトリアム)がありますから、お見合い結婚時代よりは、そのあたりを判断しやすいとは言えます。

お互いを見下し合うカップルの結婚はまさに「人生の墓場」なので、いかに自分が敬意を抱けるパートナーを見つけられるのか、また、パートナーになるかもしれない人に敬意を抱きやすい特徴を見つけられるのかに、もっと注意と意識を払ったほうがいいのではないでしょうか。

敬意は育てるもの・身に付けるもの

これから結婚しようかと考えている人のなかには、自分自身の自尊心には敏感でも、他人の自尊心には鈍感だと自覚している人がいらっしゃるかもしれません。自分が大切過ぎて、他人に敬意なんて抱いていられない、なんて人もいらっしゃるでしょう。そういった人達には何が必要でしょうか。

私は、「敬意は練習あるのみ」だと思います。

人間、とりわけ思春期を迎えて感性がビンビンになった若い男女は、どうしても自分中心主義に陥りがちで、自分自身の自尊心で頭がいっぱいになりがちです。これは中二病同様、一種の"はしか"みたいなもので、精神の病気というわけではありません。

他方で、他人のことを凄いと思ったり一目置いたりする機会も思春期以降にはたくさんあります。先輩に敬意を払う・仲間の自尊心に注意を払う・師匠と呼べる人物に巡り会うetc......。そういった日々を積み重ねることによって、「他人に対して敬意を払う」という気持ち自体もこなれていき、習熟していけるのです。

人間の心理発達をモデル化したE.エリクソンという心理学者によれば、若い頃の人間関係の積み重ねは、後に異性と親密な関係を築いていく基盤になるとのことです。自分自身の自尊心を高めるための道具としてパートナーを求めるのでなく、自尊心を持った同じ人間同士でパートナーシップを築いていくためには、これまでに積み重ねてきたさまざまな人間関係やコミュニケーションが案外大切だということです。

勉強やスポーツが上達するためには経験蓄積が欠かせないのと同じように、実は、自尊心を尊重したり尊重されたりするのも経験蓄積が欠かせません。たとえば、他人に敬意を抱いたことがほとんどない人がいきなり異性に敬意を抱こうとしても、過剰に異性を理想化して迷惑がられたり、理想どおりに振る舞わない異性に勝手に失望したり、なかなかうまくいきません。一般に、他人に敬意を抱いた経験の少ない人ほど相手に多くの期待を求めてしまいやすく、期待どおりに振る舞って貰えないと不平不満を感じがちです。反対に、他人に敬意を払うベテランな人ほど相手の振るまいが期待どおりと感じやすく、不平不満を避けやすくもなります。

ですが、友達関係や上下関係などで経験を積み重ねていれば、「他人に対して敬意を払う」気持ちそのものも、他人の自尊心に配慮するための実際の振る舞いも、上達する余地があります。いまは敬意を払うのが"下手な"人でも、ちゃんと意識して経験を積み重ねていけば大丈夫。

夫婦関係は最も内輪な人間関係なので、友達や職場の人間関係よりも甘えの気持ちが先立ってしまいやすいという点では、難易度が高めかもしれません。家庭外では自尊心に配慮したお付き合いが出来る人でも、家庭内ではそれができない人が多いのものそのせいだと思われます。しかしだからこそ、敬意を払う・相手の自尊心に配慮するといった経験をいかに積み重ねてきたが、当事者それぞれに問われるのではないでしょうか。

これまでの男女交際でうまくいかなかった人、とりわけ元交際相手から「あなたは上から目線で付き合いきれない」「あなたは自分のことしか考えていない」と言われたことのある人は、「敬意を払う」をもっと意識してみてください。断っておきますが、特別な人や完璧な人を大仰にありがたがるような敬意じゃなくて、間近にいる人に「ありがとう」や「うまくやってくれたね」と言いたくなるような敬意ですからね? そういう、デイリーで尽きることのない夫婦関係へのプロセスとしても、日頃の人間関係は大切にして頂きたいと思います。

【著者紹介】

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熊代亨(@twit_shirokuma)
精神科医。
「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、ブログ『シロクマの屑籠で社会適応やサブカルチャーについて発信中。通称"シロクマ先生"。
近著に『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)、『「若作りうつ」社会』(講談社)など

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