こんにちは、少女漫画に詳しいライターの和久井香菜子です。
私は2年ほど前から障がい者女子たちのための情報誌「Co-Co Life☆女子部」でボランティアの編集スタッフをしています。そこで驚いたのが、ここのスタッフやサポーターには障がい当事者で既婚者がたくさんいること。もちろん、子どもを持っている人も多いです。
Co-Co Life☆女子部 | Co-Co Life☆女子部 ~こころのバリアフリーをめざすコミュニティーサイト~
"障がい者"とは
「身体障害・知的障害・精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害があり、障害および社会的障壁によって継続的に日常生活や社会生活に相当な制限を受ける状態にある人」(goo国語辞書)
障がいがあると、家事や出産、育児に支障が出ることもあるはず。世間一般で言う「理想の結婚生活」が送れるのかという疑問から、結婚に反対されたり、否定的に捉えられたりすることもあるのではないでしょうか。
目に見える形で「障がい」と言われている人たちが、自分とどのように向き合い、どのような結婚生活を送っているのか。実際に障がいを持つ既婚者にぶっちゃけて話を聞いてみることにしました。
今回お話を伺うのは「Co-Co Life☆女子部」の編集長・元山文菜(もとやまあやな)さん(左)と、スタッフの神原健太(かんばらけんた)さん(右)です。お二人ともそれぞれ健常者の方と結婚されています。
元山文菜さん
臼蓋形成不全による変形性股関節症。骨盤がしっかり育たなかったため、軟骨がすり減り、大腿骨の根本(骨頭)と骨盤がぶつかって、どんどん骨の形が変形していく障がい。昨年、人工関節に入れ替えたが、そのため感染に弱く、虫歯などには注意が必要。空港の金属探知機ではもれなくブザーが鳴るので「身体に金属が入っています」という証明書を持っている。年下の男性と5年前に結婚、3歳の娘がいる。
神原健太さん
生まれつき二分脊椎症で、車いすに乗っている。本人曰く「交通事故で背骨をボキッといった人と同じ。産まれたときに背中に脂肪のコブがあり、それは取ったが、とぎれてしまった神経はそのままだった」とのこと。都内の企業でSEとして働き、Co-Co Lifeではサイト関連の業務を担当。会社員の女性と知り合い、2年ほど前に結婚した。
障がいを持ちながら結婚すること
「神原さんは生まれつき車いすに乗っているのですか?」
「生まれつきというか......生まれたときから車いすに乗っているわけじゃないんで、ベビーカーから車いすに乗り換えた感じですね」
「元山さんは、一見、障がいがあるように見えないですが......」
「診断がついたのは23歳のとき。小さい頃から、走ると股関節がガクッとなるし、あぐらは長時間かけないしで、おかしいなとは思ってたんですが......。今までとは違う、別の世界に来てしまったとショックでした。恋愛もできないと思いました。当時は友達の恋愛相談も聞くのが辛かったですよ」
「結婚は本人同士の話だけでは済まず、家族親戚を巻き込むものですが、周りから反対されたりしなかったですか?」
「障がい者と結婚するって言うと『仕事してないけど、ロックバンドで音楽やってます』みたいな男が急にやって来て『結婚相手です』っていうのと同じようなものですよね。明らかにマイナスポイントの1つです」
「(わあ、マイナスだってハッキリ言っちゃうんだな......)」
「不便なことは多いし、プラスのポイントにはどうしてもならないです。音楽やってて仕事はしてないけど、『考え方によっては頑張ってるよね!』ってことにはならないでしょ? だから何も情報がない中、『結婚相手は車いすの人』と言われたら向こうの親が戸惑うのは当たり前です。嫁さんに半年くらいかけて少しずつ話をしてもらいました。
「確かに、親世代は特に偏見が強そうですものね」
「でも、会えばキャラをわかってもらえるので、特に問題はなかったです。向こうのご両親が親戚に手紙を書いて説明してくれたので、親戚にも歓迎されました。嫁さんのおじいちゃんが103歳なんですが、最初は反対してたけど、今では遊びに行くといろいろ喋ってくれて、ニコニコして『またおいで』って言ってくれるんです。普段、真面目であまり笑わない人なので珍しいって言われました」
「いい話ですね。100年も生きていたらなかなか考え方って変わらないのかと思ってしまいますが」
「これまで障がい者と関わったことがないと、考えを変えるのは大変だろうなって思いますよ。でも時間をかけて少しずつでも理解をして欲しい。何もしないと理解してもらえないから。さじ加減は難しいですけど」
「なるほど、元山さんは?」
「うちは特に問題になったりはしなかったですね。普通に出会って、普通に生活をしていたので......今も夫は、私の障がいについてピンと来てないみたいです」
「元山さんはお子さんがいらっしゃいますが、子どもを作るときに葛藤はありました?」
「いえ......単に気がゆるんでできちゃったんです。結婚式が終わって新婚旅行中に気が大きくなって、そのへんがおろそかになっちゃって(笑)」
「あっはっは。わかります、わかります」
「わかるんだ(笑) まあ、旅先って気が大きくなっちゃいますもんね......」
障がい者は、「清く正しく美しい」?
「旅行と言えば、つい先日、乙武さんの不倫騒動がありましたね......衝撃でした」
「私もびっくりしました!」
「僕は別に......。世間では障がい者って苦労を乗り越えてきたみたいに美化されてますけど、実際のところ、個性強いヤツ多いから。いいヤツもいれば不倫するヤツだっているし、もっと言えば悪いヤツだっていますよ」
「たしかに......」
「障がい者は清く正しいって思われてるところはありますね」
「乙武さんショックは、そういう美化された障がい者像に由来するような気もしますね。そういえば、乙武さんの奥さんは健常者ですけど、障がい者の結婚相手ってやっぱり健常者が多いのかしら?」
「単純に、知り合う相手は健常者が多いんですよね」
「そうですね。僕がCo-Co Lifeに参加したのも、障がい者の知り合いが欲しかったというのもありました。障がい者ってどんな感じなのかな、と(笑)」
「障がいって身体的に不利なことが多いので、サポートしてもらえることを考えると、私の場合は元気な人のほうが相性はよかったと思います」
「僕の妻も健常者ですけど、障がいあるなし関係ないですね。僕の前の彼女は脳性マヒでしたし。嫁に手伝ってもらおうって意識はあまりないです。結婚を決めたのは、性格的に似ているなと思ったから」
「奥様とはどこで出会ったんですか?」
「それが恥ずかしいんですけど、Co-Co Lifeの打ち上げで。その場にいた4、5人でFacebookでつながったんですよ。そしたら書き込みが自分と似てるなって感じて。SNSのつながりはバカにできないですよ! 一度もケンカしたことないですしね」
「すごいですね~! 私たちもケンカはあまりしないですけど、夫が耐えていそうな気がする。ほんとにケンカしないの?」
「言いたいことは言いますよ。相手にとってイヤなことを言うときは『これはこうした方がいいんじゃない?』って相談をします」
「建設的ですね」
「そこら辺うまく言えなくて没交渉になったりケンカになってるカップルは多そうですよね」
障がい者と結婚すると、相手の負担が大きいのか?
「そうそう、ちょっとお話ししてもいいですか?」
「もちろんです、なんでしょう?」
「Co-Co Life Vol.13で、障がい者の恋愛と結婚をテーマに特集を組んだんです。その取材で、健常者の男性と障がい者の女性のご夫婦2組に取材したんですが、男性が2人とも同じようなことを言っていたのが印象的だったんですよね」
「なんて言っていたんですか?」
「周りから『僕が世話してるんだろう?』とか『障がい者と結婚していい人だね』とか『お世話大変だね』『優しいね』と言われるけど『そうじゃないんですよ』って。健常者でも出来ないことはあるから、それを補い合うのは当たり前のこと。『確かに身体的には僕がカバーすることも多いけど、彼女は壁を乗り越えている強さがある。だから精神的には支えられているのはむしろ僕なんです』って」
「なんとステキなだんな様なのでしょうか!」
「Co-Co Lifeでアンケートを採ると『自分は何もしてあげられない』『世話ばかりかけている』と思っている当事者女子が多いんです。そのため恋愛に消極的になってしまうんだけど、実はそうじゃないんだなって思いました」
「神原さんの奥様はなんて言うんだろう?」
「実は2、3日前に聞いたんですよね。そしたら『あまり深く考えてないなあ、感覚?』ですって」
「えっ!」
「『してあげてる感』は本人にはなさそうです。僕も『やってもらってる感』はないですし。だって、新婚旅行はメキシコとキューバですよ」
「バリアフリー感が全然ない場所ですね」
「バリアだらけ(笑)。でも嫁さんからしたら『私が行きたいって言ったから、車いすくらい運んでやるわ』くらいの感じでしたね。僕自身も、やってもらって申し訳ないという気持ちはありませんでした。でも当たり前ではないので、お礼はちゃんと言うべきだと思っています」
「家事とかはどうですか?」
「自分で出来ることはやりますから、家事は普通の男よりはやってる気がする。ここ、強調して書いといてください(笑)」
「男の『俺は家事やるぜ』は信用ならんからなあ~。例えばどんなこと?」
「今日だったら、庭の草むしり。あと洗濯物を畳んで、掃除機をかけたし。ゴミ出しもやったし......」
「かわいい! 健気だなあ」
「これでちゃんとやってるって認定してもらえます?(笑)」
「大変失礼いたしました! 健常者同士の場合、できる、できないの能力が見えにくいですが、障がい者の場合は、それが顕在化していますね」
「ハッキリしていますね。うちは、できるほうがやれることをやっています。結果、私の方が多くなるんですけど......! でも私は、重たいものは持てないし、掃除機もかけられないので......」
「それは乗り越えられるんじゃないですか? 工夫したらできる家事ってけっこうありますよ」
「本当ですか、すみません!!」
「僕はハンディタイプの掃除機を使ってます。僕も重いものは持てないんで、基本的に力仕事は妻の仕事です。僕は僕でスケボーで洗濯物を運んだりしてます。なにかができないと決めつけないで、工夫すればいいんです」
「元山さんがやれることを増やしたら、元山さんが全部家事をすることになるんじゃ......。それにしても神原さんは本当に自立心が高いですよね」
「僕の親が英才教育してくれて、実家の自室が2階だったんです。階段を這って上り下りしてました」
「えっ! それはスパルタだ!」
「『自分でできることは自分でしなさい』という主義だったんですよね。自分で着替えをするようになった頃は15分かけて靴下を履いてました。神戸の山奥出身なので、毎日30分かけて坂道で車いすを漕いでましたし」
「なんでも手助けをしたがる親は多そうですが、自立を促すいいご両親ですね」
その英才教育の結果、こんなアクロバティックなことまで。現在は「車椅子パフォーマー」としても活動中。
「障がいを受け入れる」ことの必要性
「よく『障がいは個性だ』という話がありますが」
「個性じゃないですよ。面倒くさいこと多いです。でも付き合っていくしかない。障がい者って、自分の障がいを受け入れているか受け入れられないかの大きなラインがあると思うんです」
「そうですね、私もそれ最近気付きました」
「受け入れられていない人は『私なんて』と思ってしまう。このラインを越したら、すごく楽になるのに」
「障がい受容ができていない人は、そうですね」
「僕は小学3年生の頃に、どうやら自分が周りと違うと気付いて、泣きながら親に『なぜ?』って聞いたんですよ。そこから吹っ切れました」
「泣かれたら親御さんは辛いですね......。なんと返事されてました?」
「親がなんて言ったか覚えてないけど、それがなかったら受け入れられなかったかも」
「私がそうでした。けっこう長く、10年くらい受け入れられなかった」
「......ってことは受容できたのは、つい最近ですか!」
「そうなんですよ。2年前にCo-Co Lifeに入って、いろんな人に出会って変わりました。Co-Co Lifeの健常スタッフの人たちって、いい意味で甘やかしてくれないんです。『大丈夫?』とか『手伝おうか?』とか、必要以上に聞かれない。もちろん配慮はありますが、遠慮はされてない感じ」
「必要な手は差し伸べますが、甘やかしはしないですし、本当の意味で平等なんでしょうね。お二人は、結婚してよかったなと思う?」
「はい。全くの他人と一緒に家庭という組織を何十年もかけて作り上げていくプロセスはおもしろいと思う。価値観が全然違うから、なかなか楽しいし、壮大なるプロジェクトですよね」
「僕もよかったと思いますよ。単純に言えば、一人暮らしのときよりも笑っている時間が増えましたね」
「わあ、ごちそうさまです!」
エスカレーターに一人で乗る神原さん。街中を歩いているとき、知らないおばあさんから「大変ね」とリンゴをもらったこともあるとか。「おばあさんからもらったリンゴって、ちょっと怖いですよね(笑)」
まとめ
お話をしてみて、お二人とも、とてもニュートラルだと思いました。実はもう少し、強がりだったり、押しつけに近いことを言われるのかな、と思っていたのです。けれども障がいを「マイナスだ」と言い切り、相手の親戚が受け入れられないだろうことも事実として受容していました。
「障がいがあるけど、いいじゃない!」と押し切らなかったことに、権利を主張するだけではない謙虚さや相手への敬意を感じます。自分を理解してもらうために時間や誠意を尽くすことって、もしかしたら健常者のほうが手を抜いているのかもしれません。
結婚生活に関しても、特別なことはなく、当たり前のことを当たり前にしているだけのように感じました。障がいがあるとかないとかではなく、自分ができることは自分でやる、相手ができないことは補う。人間関係の基本がわかっているのです。
自分と違う価値観を認められず「なんでできないんだ」「なんでしないんだ」とたやすく相手を非難してしまう人は少なからずいます。しかし、誰でも完璧なわけではなく得意不得意があります。「障がい」という名前は、不得意が顕在化していることとも言えます。赤の他人同士が家族になるには、相手の能力を尊重し、自分にできることをやって、補えるところは補わなければ成り立たないのでしょう。
そう考えると、人を障がい者と健常者というくくりで分けることすらおかしい気がします。結局は、人間関係がうまくいくかって、相手への尊重や敬意に尽きるんですよね。
ただ、お二人は身の回りのことは自分でできる、かなり自立している方々です。障がいの状況によっては、自立が難しい人もいるのではないかと思います。それは、結婚という制度、障がい者の恋愛など、いろいろな要素が絡む難しい問題です。
しかし「楽をするために結婚をする」のでは関係が成り立たないのは健常者でも同じです。障がいの種類や有無にかかわらず、自分にできる努力をすることが結婚生活、ひいては人間関係を心地よく続けていく秘訣なのですね。
■あわせて読みたい記事