【みんなのプロポーズ物語】諦めていた"当たり前の幸せ"に対するあこがれを軽やかに解き放ったくれた、彼のプロポーズ

プロポーズで気づいた、“結婚へのあこがれ”
私でもかなえられるのかも、と光が見えた

_最近SNS上でプロポーズされた事を公開なさいましたが、約半年経って公表した理由はありますか？
あいたむさん（以下AT):私たち（セクシャルマイノリティ）の場合、どちらかが性別を変えないと結婚が現状の法律では無理なんです。
だから、プロポーズしてもその先がないと言うか。実際、周りでも（性別を変えずに）女の子同士のまま「結婚しなくていいよね、そのままでいいよね」と言う人も多いです。
それで公表するまでモヤモヤしていたと言うのもありますね。でも色々考えて、これから少しでも結婚したい、と思っているセクシャルマイノリティの人たちに「こんな人たちもいたな」と頭の片隅にでも残ればいいなと思い、公表しました。

_プロポーズされたときの、正直な感想はどうでした？
AT:自分がプロポーズされるとは思っていなかったので、まずはびっくりしました。
と言うのも今まで付き合っていた人は皆“女の子”で、どちらかと言うと“結婚しなくてもいいよね”と言う考えだったので、結婚＝画面の向こうの出来事だと思っていました。
でもトランスジェンダーの彼と初めて付き合うようになって、ちょっとだけ結婚の可能性が見えてきました。
そこに来てプロポーズをされたので、今まで「自分に関係ない」とフタをしていた感情が一気に解き放たれたと言うか。
「ああ、私やっぱりどこかで、プロポーズや結婚にあこがれていたんだなあ」って。

_プロポーズが、あいたむさんの心を自由にしてくれたんですね。プロポーズの理想はありましたか？
AT:理想と言うほどでもないけど“ふたりっきりで”と言うのが条件でした。私、すぐ泣いちゃうので恥ずかしいし、ふたりっきりの方がちゃんと話せるから、と思っていました。

「どうしても指輪を渡したかった。」
気持ちを形にしてくれた、彼のまっすぐな想いに感謝

_実際のプロポーズの詳細を教えてください！
AT:当日は、千葉方面に「イルミネーションを見に行こう！」と言われ出かけたのですがどう見ても、向かってるのが千葉じゃない（笑）。いつもは段取りが完璧な彼なので、「なんか変だなあ」と思ってました。
結局グランピング場についたんですが、様子が変。ずっと怒ってる感じで。その2日前に胸オペ（乳房を切除する手術）をしたので、それの痛みなのかと問いただしたら、それでもない。いよいよ様子がおかしいと思っていたら、お手紙を渡され.....。
お手紙を読み終えるくらいに指輪と共に「まだ結婚はできないけど、これからもずっと一緒にいてください」と言われました。

_星空の下で！　ロマンティックなプロポーズですね。
AT:彼は、星空の下でのプロポーズのつもりだったらしいんですけど、その日は見事なまでの満月で！　お月さまの光の威力で、星が全然見えなかったんですけど、それでも嬉しかったです。ただプロポーズがお風呂とか全部終わった後だったんですよ。もちろん私すっぴんで。やっぱり写真撮影とかしたかったので、それだけはクレーム入れました（笑）。

_パートナーはプロポーズの準備に、どのくらい時間をかけたのでしょうか？
AT:プロポーズされたのは12月なんですが、指輪を選び始めたのは4月だそうです。
そして指輪を買ったのが10月。もともと準備はしっかりするタイプなんですが、一世一代の事もあり、こんなに力が入っちゃったんだと思います。

_エピソード満載のプロポーズですね。中でも印象に残ったパートナーの言葉ってありましたか？
AT:（身体的な性別変更の途中なので）「今はまだ結婚も何もできないけど、（指輪を）渡したかった。せめて気持ちを形にしてちゃんと伝えたかった」って言ってくれた事が嬉しかったです。

多くの代償を払い手に入れる結婚。
だからこそ、彼の覚悟を受け入れて私も覚悟を決められた

_プロポーズ後に、あいたむさんの中で何か変化ってありましたか？
AT:私自身はパートナーの性別変更を特に望んでいなかったけど、プロポーズを受けた次の日には、ふたりで性別変更を受け付けている病院に向かいました。
人それぞれですが、セクシャルマイノリティの人たちの中には“結婚したいから性別を変える”という人もいて。
自分たちもプロポーズまでは、別に（性別を）変えなくても一緒にいられればいいよね、という感じだったんですが、プロポーズをされて（して）からは、決意が固まったという感じです。

_パートナーの”ぴ”さんの方は、何か変化ありましたか？
AT:すっきりしたみたいで、仕事を辞めました。
というのも、以前の職場はとても保守的な企業だったので、性別変更が受け入れられにくいというか、変更してから働くというのが想像するだけでも大変で。
本当はそのまま働きたかったみたいなんですけど、彼は、どうしても結婚したいと思ってくれていたみたいで。結婚の為だけに性別変更手術をする、と考えてくれていたようです。

_最近事実婚を選ぶ人や、セクシャルマイノリティの方々にとっては、そのハードルの高さゆえに結婚という選択肢を取らない人も大勢いると思います。そんな中でプロポーズを受けた理由は何ですか？　また、プロポーズって必要だと思いますか？
AT:私がプロポーズを受けたのは、単純に「この人とだったら、死んでいけるな」と思ったから。
私のお店にいらっしゃってくれるお客さまは、ほぼ9割セクシャルマイノリティの方たちなんですが、お客さまたちの中でも、私たちの動画を見て「私も結婚したくなった」と言ってくれたり、「プロポーズを受けたい（したい）」という方が増えた気がします。
ついこのあいだも「プロポーズする」って宣言した女の子同士のカップルもいたり。
背景としては、最近は結婚はできないけれどパートナーシップを組める自治体も増えて来て、プロポーズをしてパートナーシップを組むという人たちも多くなって来てる気がします。そういう意味でも「好き、一緒にいたい」の先にある安心感みたいな物を手に入れるきっかけになるのが、プロポーズなのかなと思います。

_あいたむさん自身が結婚に向けて前向きになった理由ってありますか？
AT:歳っていうのが、あると思います。周りの男女のカップルとかみていいなあと思ったり。でも一番大きいのは、彼と出会って長く一緒に過ごしたのちに、死後の財産とかを考え始めたっていうリアルなやつです（笑）。

やっと立てた結婚へのスタートライン。
今まで諦めてた想いを取り戻すように後悔なく、走り切りたい

_今、結婚に向けてしている準備ってありますか？
AT:結婚式はしたいので、それに向けて準備中です。
都内か海辺しか決まってないんですけど“やっとスタートラインに立てた”という気持ちです。
私たち（セクシャルマイノリティ）って、ついこのあいだまで”結婚式を挙げる”というスタートラインにも立てていなかったんですよ。そもそも結婚できない、という前提だったので。
まだまだハードルはありますが、最近そこに光が見えて来た。
心の中でずっとあこがれていたけど無理だと思っていた夢のスタートラインにやっと立てたので、ぜひやってみたいと思っています。

_特別な式になりそうですね。どちらが仕切りそうですか？
AT:向こうですね。結構がっつり、”THE”みたいなのをやりたいみたいです。
どちらかというと、彼の方が結婚式願望が強くて。式やりたいと最初に言って来たのも彼ですし。もちろん、私もやりたいですけどね。彼の夢がすごいんです。

_結婚式でやってみたい演出とかありますか？
AT:やりたい演出はないですけど、やりたくない演出はあります。
あの、お互いの幼少期からを写真でたどる、みたいなやつ。
高校、大学とかになると、写真の中に彼の元カノとか入ってくる場合があるじゃないですか。それがダメです。私重い女代表なので。

_笑。これから、どんなふたりでいたいですか？
セクシャルマイノリティの人たちのロールモデルじゃないですけど、「ああ、あんな人たちもいたなあ」って思っていただけるような感じでヌルっと生きていけたらなあ、と思います。