東中野にある美容室は夫婦どころか子どもも含めた「本当の親族経営」だった|夫婦で営む小さな店
2025/09/04 更新
※この記事は2016年にKekoon powered by マイナビウエディング にて配信されたものです
共働きや専業主婦など、結婚生活にもさまざまな形があります。とくに「憧れるけど、実際は難しいんでしょ?」と思うのが、夫婦でお店を経営すること。ふたりで協力し合いながらお店をまわす姿は微笑ましくもあるものの、大変なことも多そうです。
Kekoon(ケコーン)の「夫婦で営む小さな店」シリーズ第三弾。 ひとつのお店をふたりでやりくりする夫婦の様子をお届けします!

ライターのカツセマサヒコです。
高校1年のころにカットモデルになりたくて表参道を15往復した結果、外国人からラッセンのパクりみたいな画を売られそうになったことがあります。

夫婦で営んでいるお店に取材する当企画。今回はJR中央線・総武線「東中野駅」から徒歩5分ほどのところにある美容室「ICH・GO東中野店」にお邪魔します。こちらで美容師を務めるご夫婦、かなりドラマチックな馴れ初めを持っているとのこと。ぜひ伺ってみたいところです。

今回取材させてもらう志村麻紀さん(左・48歳)、恒明さん(右・64歳)ご夫婦。夫婦歴25年を超えるキャリアから伺える余裕のある表情がすてき。先輩夫婦にズバズバと聞いていくことにします。
Kekoon(ケコーン)の「夫婦で営む小さな店」シリーズ第三弾。 ひとつのお店をふたりでやりくりする夫婦の様子をお届けします!

ライターのカツセマサヒコです。
高校1年のころにカットモデルになりたくて表参道を15往復した結果、外国人からラッセンのパクりみたいな画を売られそうになったことがあります。

夫婦で営んでいるお店に取材する当企画。今回はJR中央線・総武線「東中野駅」から徒歩5分ほどのところにある美容室「ICH・GO東中野店」にお邪魔します。こちらで美容師を務めるご夫婦、かなりドラマチックな馴れ初めを持っているとのこと。ぜひ伺ってみたいところです。

今回取材させてもらう志村麻紀さん(左・48歳)、恒明さん(右・64歳)ご夫婦。夫婦歴25年を超えるキャリアから伺える余裕のある表情がすてき。先輩夫婦にズバズバと聞いていくことにします。
目次
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出会った瞬間、「赤い糸で結ばれてますよね?」
麻紀さん「子どもたちにすごくバカにされるんですけど......。私がお客さんとして、当時この人が働いていた美容室に、たまたま行ったんですよ」
カツセ「おお、お客さんと美容師さんって、ありがちだけど理想的な展開じゃないですか。それでそれで?」

麻紀さん「お店でこの人を見た瞬間、『あ、この人と結婚するかも』って思ったんです」
カツセ「急展開すぎませんか」
麻紀さん「笑っちゃうような話なんですけどね(笑)、その当時まだ私は19歳で彼氏もいたし、もちろん結婚にも焦ってないし。でも、初めて入るお店を開けた瞬間に、『あたしこの人と結婚するんだ、赤い糸で結ばれてるんだ』って思って」
カツセ「田舎の女の子が初めて都会のイケメン見たって、そんなリアクションしないですよ」
麻紀さん「おめでたかったのよねぇ、きっと。そしたらその人が私の担当になるものだから、もう言わなきゃと思って『私たち、赤い糸で結ばれてますよね!?』って、その場で聞いた記憶があります」
カツセ「取材開始5分で山場を迎えてる気がする。旦那さん、さすがに戸惑ったんじゃないですか」

恒明さん「そうですね、さすがに赤はないから、『いやいや、ピンクでしょ』って言ったよ」
カツセ(そこじゃない)
麻紀さん「ふざけてますよね(笑)。でもね、ピンクだったので、脈あるじゃんと思って(笑)」
カツセ「おふたりともポジティブ具合がエベレスト級じゃないですか」
借金まみれの新婚生活
麻紀さん「私が19歳のときに付き合って、22歳で結婚したから、付き合って約3年後かな」
恒明さん「当時、僕が37歳。年の差婚だったから、なかなかご両親が認めてくれなかったんだよね」
麻紀さん「あと、私は東京にいて、彼は実家のお義父さんの体調が悪い関係もあって山梨で美容室を開いてたから、遠距離恋愛だったんだよね」
カツセ「あ、じゃあ旦那さんは独身時代にお店を開かれたんですね」
恒明さん「そうそう。結婚してから彼女が僕のお店に入って、ふたりで始めたんです」

カツセ「プロポーズとかはなかったんですか?」
恒明さん「それらしいことは言わなかった気がするなあ......。比較的早い段階から結婚を考えていたから、自然と進んだような......」
麻紀さん「でも、『お店を出したばっかりだから借金あるけど』って言われた気がする。『借金かあ......』って頭抱えた覚えがあるもん(笑)」
恒明さん「そういうとこばっかり覚えてるからイヤになっちゃうよなあ......(笑)」
麻紀さん「あと、私は東京出身だから、山梨に行くのにも抵抗があったと思うんだよね」
恒明さん「そうだったかも。あと、同時に家も買ったんですよ、山梨に」
カツセ「おお、ローン、また経済的に厳しそうですねそれ」
麻紀さん「そう。借金に借金じゃないですか。新婚早々、ため息しか出ないから、本当に(笑)」
「これが本当の親族経営」
恒明さん「25年かな?」
カツセ「長っ! なんで東京に戻ってこようと思ったんですか?」
恒明さん「東京と田舎とでは、同じ美容室経営でも違った魅力がいくつもあると思ったんです。あとは、子どもが成長してきて、東京で美容師させてあげたいな、と」
カツセ「え、お子さんも、美容師なんですか?」
麻紀さん「あ、というかこの店、家族4人でやってるんです」
カツセ「え?」

恒明さん「長男の優(ゆう・左)と、長女の未侑(みゆ・右)です。全員、美容師」
カツセ「マジですか!!!!」
麻紀さん「驚きました?(笑)」
カツセ「そりゃ驚きますよ。 4人とも美容師で、ほかにスタッフなしでこのお店回してるんですか?」
麻紀さん「そう。前はスタッフさんを雇ったこともあるんですけど、今は4人だけです」
カツセ「夫婦だけならまだしも、お子さんたちまで同じ店とは。さすがに聞いたことない」

カツセ「4人家族で職場も全員同じところって、本当に24時間一緒にいることになりますよね? ケンカとかはないんですか?」
麻紀さん「まあ、なくはないよね? 朝から晩まで一緒だし」
恒明さん「職場で腹が立ったことをそのまま家に持ち帰るしかない訳ですから。口にこそ出さないけど、みたいな」
カツセ「みなさん同じ家に住んでるんですか?」
恒明さん「いや、上の子だけ、ひとり暮らし」
麻紀さん「ようやく出られたって思ってるよ、きっと(笑)」
カツセ「まあ、ある程度の年齢になったらアリですよね。でも、にぎやかそうですね、皆さん同じ職場」
恒明さん「そうですね、いつも共通の話題があるし」
カツセ「『あのお客さんヒドいな』とか(笑)?」
麻紀さん「それはないです(笑)。『店で何かをやろう』って言ったときに、ちょっとご飯食べながら『ああでもない、こうでもない』って気軽に話せるのはいいですよね。はたから見れば家族会議に見えるけど、ウチの場合、家族会議が経営会議だから」
カツセ「今まで聞いた『親族経営』が全部にわかに思えてくる」
恒明さん「時間を気にせず遠慮なく意見を言えるし、家族だから発言に気を使うこともほとんどない。何かを決断するときのスピード感はものすごく早いね、ウチは」
カツセ「一家で店を持つの、大変かと思ってたけど、最強に思えてきました」
家族なのに、休みもバラバラ
恒明さん「そうそう。もう僕も年だし、そろそろ次世代に譲ろうかなと思って」
カツセ「息子さんは、『家族で美容室』って、どういう気持ちでやられてるんですか? 」
優さん「どうですかね、僕は高校出てから美容師になったんですけど、それまでのお店での時間も全て親と共有していたので、これが当たり前というか......。ほかの気持ちが分からない分、家族でやるっていうことへの特別な気持ちがないんですね」
カツセ「この生活が自然だと思ってるんですね」
優さん「これが僕の日常なので、どれくらい特異なものなのか、ちょっとわかんないんですよね......」
カツセ「たぶん、かなり特殊です」
優さん「ですよね(笑)」

カツセ「でも家族全員が美容師だと、お休みは全然合わないんじゃないですか?」
麻紀さん「合わないです。みんなバラバラ」
恒明さん「フランチャイズの関係で年末年始以外は年中無休だから、お正月だけだよね、全員が休めるのは」
カツセ「寂しいですよね、それも」
麻紀さん「いやいや、もう24時間ずーっと一緒だもん、ひとりにさせてほしい(笑)」
恒明さん「そうだよな(笑)」
麻紀さん「娘と休みが合うときは岩盤浴行ったり、温泉行ったりしますけど、それでもやっぱりお店も家もずっと一緒だと、頻繁には辛いよね」
カツセ「お休みの日にご夫婦ふたりだけの時間がとれたことは、ないんですか?」
麻紀さん「ないです」
カツセ「結婚してから一度も!?」
恒明さん「ふたりとも休んでしまうと、お店がまだ厳しいからねえ」
カツセ「じゃあ今度どうにかして、おふたりがデートする企画でもやりましょうか(笑)」
優さん「見たいな、それ(笑)」
麻紀さん「やだ恥ずかしいから! 絶対に面白がって言ってるでしょ(笑)!?」
恒明さん「でも本当に、ふたりで休んだのって子どもが生まれたときと結婚式ぐらいだし、今後も、息子の結婚式とか娘の結婚式、僕の葬式くらいじゃない?(笑)」
優さん「縁起でもなさすぎるよ(笑)」
「忍耐」と「感謝」! 結婚生活を円満に過ごす秘訣
恒明さん「うーん、『感謝』ですよね」
麻紀さん「『忍耐』ですかねえ?」
カツセ「関係性が分かりやすすぎる」
恒明さん「感謝の気持ちはいつも頭にはあるんですけど、行動に移すのはなかなか難しいんですよね。でもやっぱり、心はいつも感謝してます。喧嘩しても、頭にきていても、そばにいてくれるだけでありがたいなって気持ちはあります」
麻紀さん「たぶん女性は、『だったら形にして』って思いますよね(笑)」
カツセ「そこに対しての、忍耐ですか?」
麻紀さん「そうですね。何か怒りたくなるときがあっても、まあ相手の気持ちも分かるのでしょうがないかって思うんですけど、『しょうがないか』って言わせるときに花の一輪でも持ってきてくれれば、許しやすいじゃないですか。なのに何もないと『だから形は!?』って(笑)」
カツセ「勉強になる」
恒明さん「女性のほうが現実的ですよね、やっぱり」

恒明さん「でも、結婚観はいろいろだと思うけど、僕から言えることは、『それでも結婚は一度した方がいい』ってことかな」
麻紀さん「わかる。とりあえずした方がいいと思います。合わなかったら別れればいいし」
カツセ「おふたりともその答えに行きついてるのは不思議ですね。その『一度は』っていう思いは、何からきているんですか?」
麻紀さん「それこそ、さっきの『忍耐』みたいな話。子どものことでも、夫婦のことでもそうだけど、他者と生きると、自分のことが二の次になる瞬間があるんです。誰かを立てると、自分が引っ込むじゃないですか。それをずっとやっているから、既婚者は自然と忍耐強くなると思うんです」
カツセ「なるほどー。確かにそうなのかもしれないなあ......」
麻紀さん「だから、一度『結婚する』という経験をすると、豊かな人間になれるんじゃないかな、と思っています。」
カツセ「深い......」
恒明さん「子供にしてもそうじゃないですか。『熱いよ』って注意しても伝わらないから、一度やけどしてみるしかないんです。そしたら自分で学ぶでしょ。それと同じで、結婚も一度経験してみることで、良さも悪さも味わって成長できると思うんです」
麻紀さん「いいことばかりじゃないのは、あたりまえだからね」
恒明さん「そうだね。だからこそ、感謝の気持ちが大事かなと」
麻紀さん「それを形で表現されなかったときの、忍耐の気持ちもね」
恒明さん「まだそれ言うの!?(笑)」
カツセ「『感謝』と『忍耐』と、『一度やってみろ』ってことですね(笑)。ありがとうございました!」
おわりに
夫婦どころか家族で営む美容室。その不思議な空間は「よその家庭に入ったような居心地の悪さ」を感じさせず、むしろアットホームに感じられる心地よい空気がありました。それは志村家が常にフラットな姿勢でお互いを想い、美容師としても尊敬し合っているから成り立っているものなのかもしれません。(実際に、営業時間中はお互いに敬語でお話されているそうです)
普段はお休みも合わないご夫婦ですが、職場も家庭も長い間ともにしているだけあり、阿吽の呼吸はさすがのもの。志村夫妻を見ていて、感謝と忍耐の大切さを実感しました。そしてとりあえず、僕も感謝を形で表すところから始めてみようと思った次第です!
最後までお読みいただきありがとうございました!
◎取材協力
ICH・GO東中野店
東京都中野区東中野3-16-12 1F
03-3364-3005
【書いた人】

カツセマサヒコ
下北沢のライター/編集者。趣味はTwitterとスマホの充電。
Twitter:@katsuse_m
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