11月22日「いい夫婦の日」に観たい配信ドラマ ふたりで過ごす、ちょうどいい幸せ『今日もふたり、スキップで』

夕食を作るのが面倒なときは……

結婚して3年となる妻と夫。妻はドラッグストアで働きながら、趣味でネットにアップしていたエッセイが出版社に気に入られ、たまに原稿依頼が来るようになった。夫はエンジニアとして会社勤めしている。お互いにそこそこ忙しいが、夫婦仲は良好。

夫婦仲円満の秘密を探るべくドラマを視聴してみると、この夫婦はかなりゆるっとした生活を送っていることが分かる。第２話「ていねいな暮らしっつーやつは」では、仕事から戻った妻は冷蔵庫に常備してある缶酎ハイを開け、美味しそうにグビグビと飲み干す。

台所に溜まっている皿洗いや夕食の準備などやるべきことは山積みしているが、アルコールが入って気持ちよくなった妻は、そのままソファーで寝てしまう。

夫が帰ってきても、夕食を作るのが面倒くさい。そんなときは超手抜き料理だ。インスタントラーメンで済ませてしまう。スタジオジブリの人気アニメ『崖の上のポニョ』（2008年）のリサが作るラーメンには玉子とハムが入っていたが、それもなし。素っ気なく大鍋で茹で上げたラーメンだが、同じテーブルでふたりで分け合って食べていると、なぜか美味しく感じられてくる。

美味しいコーヒーを淹れるコツ

自分ひとりで食べるより、ふたりで食べると美味しく感じるのはどうしてだろうか？　このシーンを見て、フィンランドにある食堂を舞台にした映画『かもめ食堂』（2006年）のことを思い出した。日本食の食堂を営む小林聡美演じる主人公に、ふらりと現れた地元の男性客が美味しいコーヒーの淹れ方を伝授する。美味しいコーヒーを淹れるコツとは「コーヒーは自分で淹れるより、人に淹れてもらった方がうまい」という実にシンプルなものだった。

即席ラーメンでも、同じことが言えるのではないだろうか。自分ひとりで作って食べるラーメンより、他の人が自分のために作ってくれたラーメンのほうが美味しく感じられる。まして、愛するパートナーが作ってくれたものなら、なおさらだ。

愛する妻の作ったラーメンを美味しそうにすする夫。満足げな夫の表情を眺める妻の気持ちも満更ではない。ズボラな夕食シーンに、この夫婦ならではの愛情が感じられる。


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矛盾した夫の言動への対処法

ずっと一緒にいれば、当然ながらケンカすることもある。第１話「狭小寝具生活」では、妻の寝相が悪いと夫は苦情を口にする。「じゃあ、別々に寝よう」と妻が切り出すと、夫は「それは嫌。一緒に寝たい」と反対する。夫の言うことは矛盾している。

そんなパートナーの矛盾した言動を、『今日もふたり、スキップで』は好意的に取り上げる。理屈に合わない夫の反応を、妻は否定せず、珍獣の生態を観察するかのように受け止める。ここまでの境地に至れば、夫婦仲は当面は安心だろう。

夫の妻の扱い方も、目を見張るものがある。便秘気味で顔がむくんでしまう妻をいたわり、夫が妻のお腹を丁寧にマッサージする様子が第４話「顔を見ればわかる」では描かれ、ふたりの親密さを感じさせる描写である。

仰向けになってお腹をさすられる妻の無防備な姿は、犬や猫がお腹を見せる、飼い主への安心と信頼のサインを思わせるものがある。優しい獣医のような心持ちでいることも、夫婦関係を長持ちさせる秘訣かもしれない。

初デートで味わった妻と夫の気持ちいい体験

第４話では、この平凡かつちょっと変わった夫婦の出会いも描かれている。大学時代にSNSで知り合った妻と夫はしばらくは遠距離でメッセージのやり取りを重ねていたが、一度会おうということに。ぎこちなくあいさつを交わした後、喫茶店でランチを食べ、公園に出掛けて芝生でひと休みする。

前夜、お互いに緊張してよく眠れなかったこともあり、ちょっと芝生で横になるつもりが気がつくと夕方まで爆睡してしまっていた。実際に会うのは初めてなのに、安心して眠り込んでしまったふたりだった。

相手に緊張を強いることのない関係性が、お互いに気持ちよかった。こうしてふたりの交際が始まった。

一緒にいてストレスを感じないというのは、生活を共にする上でいちばん重要な要素ではないだろうか。


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酒の席でブチ切れた妻の言い分

同じ第４話では、妻は出版社の編集者に誘われて飲み会に参加する。エッセイストとして売り出し中の身なので、最初はおとなしくしていた妻だったが、ベストセラー本をバンバン出しているというベテラン編集者（芹澤興人）が、自分の妻をディスって笑いを誘っていることに我慢できなくなってしまう。

ブチ切れた妻は「自分が結婚した相手のことを悪く言うなんてダサい」と啖呵を切る。ベテラン編集者は「君は若いから。年を取れば分かるよ」と言い含めようとするが、妻は「年齢は関係ないと思います」と反論する。酒の席はしらけたものになってしまうが、妻の発言は200%正しい。そのまま、みんなと同じように愛想笑いを浮かべていれば、後から必ず自己嫌悪に陥っていたはずだ。

ベテラン編集者も、同席者たちも、酔いが覚めてから妻の言葉を思い返すに違いない。パートナーが一緒にいることが当たり前だと思っていると大間違いだ。このベテラン編集者は、自分の足元に咲く花の美しさをうっかり忘れてしまっている。水や空気と同じように、日常生活で当たり前になっているものほどついついないがしろにしてしまいがちだ。

ちょっと抜けているように見えつつも、妻は大切なことを気づかせてくれる。

大人にも必要な保健室の存在

妻の機嫌がなんだか悪い第６話「そういう日だから」も、ぜひ視聴してほしいエピソードだ。この日は休みだった妻は、目が覚めてから何もやる気が起きずにベッドでダラダラしていた。体調が悪いわけではないが、一年のうちに何度かはそういう日が誰にでも訪れる。夫は心配して声を掛けるが、それに応えるのさえ億劫だった。

お昼はカレーを作ると前日に宣言していた妻だが、お米を研いでいたらこぼしてしまい、冷蔵庫にはじゃがいもがなくやる気を失ってしまう。結局、一日何もせず、夜になってから行きつけのバーへとひとりで向かう。化粧するパワーもないので、ノーメイクのままマスク姿でレモンハイをちびちびと静かに飲む妻だった。

このバーのママ（筒井真理子）はいつも明るく、お気に入りの客にはとことん優しいが、若い客に説教を垂れるような不粋な客は追い返してしまうこともある。社会のストレスから逃れたい者たちのための安心領域だ。学生時代に保健室で授業をずる休みすることが多々あった妻にとっては、今ではこのバーが保健室代わりだった。

自宅以外にこうした息が抜ける避難場所があることによって、妻は精神的な安心を得ることができている。夫や職場以外にも、社交の場があることも重要ポイントだろう。バーで話したことは、夫には内緒である。仲のいい夫婦でも、それぞれにプライベートがあってもいいのではないだろうか。

エンディング曲は、くるりの新曲「ワンダリング」

エンディングには、くるりの新曲「ワンダリング」が流れる。くるりの岸田繁が本作の為に主題歌を提供。【wandering】とは、さすらい、放浪という意味の英語だ。

夫婦の関係性には決まりごとやルールはなく、それぞれの夫婦によって異なるもの。また、歳月が経ち、生活環境や家族構成が変われば、結婚当初の関係性とはずいぶん変わってくるに違いない。でも、そんな不定形な関係性を、ふたりで模索しながら、旅先の新しい風景を楽しむように共に受け入れることができれば、こんなにも楽しい暮らしはないだろう。

11月22日（土）は「いい夫婦の日」。この機会に、パートナーと一緒に『ふたりスキップ』を視聴するのはどうだろうか。自分たちによく似たエピソードに、「なんかいいね」と顔を見合わせる瞬間があるかもしれない。

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