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超ポジティブな生き方に惹きつけられる『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』 『We Live in Time この時を生きて』

2025/06/10 更新
誰かに背中を押してもらいたいと思うときはないだろうか。自分の中ではすでに心は決まっているものの、新しい挑戦に躊躇している自分もいる。信頼を寄せる人に「君ならできるよ」と励ましてもらうのがベストだけど、いつも都合よく声を掛けてもらえるわけではない。そんなとき、映画鑑賞が役立つことがある。映画の中のスーパーポジティブな主人公に刺激を受け、自分も一歩踏み出してみようという気になってくる。映画にはそんな力がある。

キム・ゴウン主演の韓国映画『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』は、世間の目を気にすることなく、楽しいこと、ひとを愛することが大好きな超行動的な女の子の物語だ。もう一本、フローレンス・ピュー主演のイギリス&フランス合作映画『We Live in Time この時を生きて』の主人公も、過去や未来に捉われずに何よりも今を大切に生き、全力で家族と仕事を愛し抜こうとする。彼女たちの真っ直ぐな生き方に、勇気づけられる人は多いはずだ。
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ソウルで暮らす若者たちの恋愛事情


男女間の友情を描いた『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』
韓国で2019年に刊行され、ベストセラーとなったパク・サンヨンの小説『大都会の愛し方』(亜紀書房)を映画化したのが、『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』だ。原作は作家を目指すゲイの男性を主人公に、ソウルで暮らす若者たちの恋愛事情を描いた物語となっており、映画は原作の第1章「ジェヒ」をベースにしている。主人公の親友となるジェヒと友情を育む青春編となっている。

ジェヒ(キム・ゴウン)とフンス(ノ・サンヒョン)が大学で出会うところから、映画は始まる。フランスからの帰国子女であるジェヒは、行動がやたらと目立つ存在だった。はっきりと自己主張し、気に入った男性には自分から積極的にアタックする。男子学生の人気は高かったが、女子たちからは距離を置かれていた。

一方のフンスは、自分がゲイであることを隠し、なるべく目立たないように過ごしている。正反対の性格のジェヒとフンスだったが、クラスから浮き気味な点では共通していた。

恋多き女とゲイとのルームシェア


クラブで遊んだ翌朝、迎え酒を楽しむジェヒとフンス
ある晩、繁華街でフンスがフランス語の男性講師とキスしているところを、ジェヒに見られてしまう。他にもクラスメイトが遠目でその様子を目撃しており、フンスはゲイではないかと教室で噂される。フンスが追い詰められている際に、救いの手を差し伸べたのがジェヒだった。「昨日は楽しかったね」と、あたかもジェヒはフンスと交際しているように振る舞った。

行動派で、我が道を突き進むジェヒだが、「尻軽女」と中傷されることも多かった。落ち込むジェヒをフンスは飲みに誘い、親しい飲み仲間となる。

フンスの母親(チャン・ヘジン)は息子がゲイであることに悩み、宗教に救いを求めていた。自宅に帰りたくないフンスは、ジェヒがひとり暮らししているアパートで過ごすようになる。やがて2人はルームメイトに。お互いの恋愛事情を打ち明け、クラブで踊り明かした翌朝は部屋で迎い酒するという、自由気ままな青春を謳歌する。

異性ながら、無二の親友となっていくジェヒとフンス。だが、男性であるフンスは兵役に就かねばならず、ジェヒも大学を卒業し、企業に就職することに。それぞれの道を歩み始める時間が近づいていた。

「男尊女卑」に抗う韓国映画のヒロインたち


恋多き女・ジェヒは、産婦人科医から「不道徳な生き方を改めろ」と責められる
韓国の若者たちの青春を描いた『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』は恋愛ドラマではなく、男女間の友情ものとなっているところが新鮮だ。また、近年の韓国映画はジェンダーをテーマにした作品が話題を集めている。

チョン・ユミ主演作『82年生まれ、キム・ジヨン』(2019年)は、韓国の女性たちは出産や子育てのために職場でのキャリアを諦めなくてはいけないという実情をあぶり出した。とりわけ、夫(コン・ユ)が「家事や育児は僕も手伝うから」と会社に勤めるジヨンに子づくりを持ち掛けるシーンに、女性からの非難が集まった。「手伝う」という一見理解ありげな言葉は「女性が家事や育児をするのが当たり前」が前提となっているからだ。

今年3月に日本でも公開されたコ・アソン主演作『ケナは韓国が嫌いで』(2025年)は、やはり韓国社会は男性中心で回っており、女性たちは職場では男性上司、家では親の言いつけに従わなくてはいけないという抑圧された環境にあることを訴えていた。28歳のOL・ケナは恋人と家族に別れを告げ、海外へと飛び出していく。英語が得意ではないケナは新しい環境に苦戦するが、ゼロから挑戦していくことに喜びを見出す。

日本以上に受験戦争が厳しく、高学歴が求められる韓国では、大企業に就職できないと「負け組」の烙印を押されてしまう。「ヘル朝鮮」と自嘲的に語られる韓国社会において、女性たちは伝統的な儒教文化の影響で、よりシビアな状況に今なお置かれているようだ。

喫煙所をめぐるジェヒの攻防


安藤サクラや河合優実を思わせる、独特な雰囲気があるキム・ゴウン
男尊女卑な社会に、ジェヒはキッパリとNOを突き付ける。ジェヒが新卒入社した企業では、勤務中の喫煙休憩が黙認されており、喫煙所に集まっていた男性社員にだけチームリーダー(男性)は連絡事項を伝えていた。女子社員には知らされていなかったことからトラブルが生じる。責められるのはチームリーダーのはずなのに、連絡事項を確かめなかった女子社員が逆に責められる。

そんな理不尽な職場に、ジェヒは黙っていられない。男子社員だけのホモソーシャルな空間である喫煙所に、ジェヒは堂々と乗り込む。くわえ煙草で「連絡事項があれば、私から伝えますから」とチームリーダーに笑顔で話しかけるジェヒだった。おそらく女子社員に聞かれると困るような話題も口にしていたのだろう。喫煙所に集まっていた男性社員たちは、すごすごと去っていくことになる。

ジェヒのかっこさよさに、思わず見惚れてしまう。

「女性映画人賞」に選ばれたキム・ゴウンの等身大の演技


同世代でピッタリ息が合ったキム・ゴウンとノ・サンヒョン
ジェヒ役を演じたキム・ゴウンは、『ウンギョ 青い蜜』(2012年)で鮮烈な女優デビューを果たし、人気男優コン・ユと共演したTVドラマ『トッケビ 君がくれた愛しい日々』(2016年~2017年)でトッケビの花嫁を演じ、幅広い世代に人気を得るようになった。今回のジェヒのような屈託なく直情的な役が、とてもよく似合う。ジェヒの設定と自分の年齢が同じということもあって、等身大の主人公像をはつらつと演じている。

フンス役のノ・サンヒョンは、本作での演技が評価され、韓国最大の映画の祭典「青龍映画賞」の新人賞などを多数受賞。「2024年今年の女性映画人賞」ではキム・ゴウンが演技賞、イ・オニ監督が監督賞を受賞した。

主人公たちの10年間にわたる友情が描かれており、原作にはないオリジナルエピソードも多く盛り込まれている。なかでも、ジェヒがフンスに投げ掛ける言葉が印象に残る。出会って間もないころ、フンスは自分がゲイであることをジェヒに知られる。「一緒に課題をやろう」と持ち掛けられたフンスは、「俺の弱みを握ったからか?」とジェヒの申し出を疑う。

フンスの反応が理解できず、ジェヒは「あなたらしさが弱みだなんて、おかしいよ」と返す。ジェヒのこの台詞に、フンスは救われる。利害関係のない両者のやりとりを見て、学生時代の親友の顔を思い出す人もいるのではないだろうか。

未来よりも、今を大切に生きる主人公


フローレンス・ピューとアンドリュー・ガーフィールド共演『We Live in Time』
すでに公開中の『We Live in Time この時を生きて』も、主人公の前向きさが勇気を与える作品だ。新進気鋭のシェフであるアルムート(フローレンス・ピュー)と平凡な男性・トビアス(アンドリュー・ガーフィールド)の出会いの場は、なんと交通事故現場だった。妻から別れを告げられ、不用意に車道を渡ろうとしていたトビアスを、アルムートは車で撥ねてしまったのだ。

最悪な出会いだったが、病院から退院したトビアスをお詫びにと、アルムートは自分が腕を振るうレストランに招待する。イケイケなアルムートと何事においても慎重派のトビアスは正反対の性格だったが、お互いに惹かれ合う。トビアスの離婚が決まり、正式に交際、結婚することに。

早く子どもがほしいと考えていたトビアスに対し、アルムートは「将来のことよりも、今を大事にしたい」と言う。アルムートの主張に押し切られた形のトビアスだったが、ふたりが愛し合った結果、女の子を授かる。

出産シーンが強烈だ。臨月だったアルムートはコンビニで急に産気づき、コンビニの店員たちを巻き込んでの大騒動となる。アルムートだけでなく、出産に立ち会ったトビアス、コンビニの店員たちにとっても、生涯忘れられない体験となる。

家族のために最高の思い出を準備するアルムート


シェフのアルムート(フローレンス・ピュー)は全力で料理に情熱を注ぐ
順調に思えた結婚生活だったが、アルムートの体を病魔が襲う。過去に患っていた癌が再発したのだ。仕事を休み、治療に専念することを願うトビアス。だが、アルムートは驚きの決断をする。治療と並行して、料理界のオリンピック「ボキューズ・ドール」に英国代表として出場すると言うのだ。

医者から余命宣告されたアルムートは、残された時間を全力で生きるようとする。それは、夫・トビアスとまだ幼い娘・エラ(グレース・デラニー)に最高の思い出を残すためだった。

フローレンス・ピューは、リング上で輝く実在の女子プロレスラーを演じた『ファイティング・ファミリー』(2019年)やタフなヒロインを演じたホラー映画『ミッド・サマー』(2019年)など、気丈なキャラクターをハマり役にしている。

『アメイジング・スパイダーマン』(2012年)で知られるアンドリュー・ガーフィールドも、敵味方関係なく人命救助に尽力した衛生兵の実話『ハクソー・リッジ』(2017年)など、自分の意思を懸命に貫く主人公をたびたび演じてきた。

映画の主人公は、観客にパワーを分けてくれる


娘のエラが生まれ、至福の時間を過ごすアルムートとトビアス
『We Live In Time』は時間の流れが過去から現代へ、ではなく、思い出に残る場面を自在に並べ替えた編集スタイルになっている点も注目したい。つらいエピソードもあるが、人生最大のハイライトシーンの輝きによって、むしろ輝きを増幅させるためのものとしての価値を感じさせる。

映画のように自分の人生も、自由に編集できればいいと思う。もちろん、つらい過去をなかったことにはできないが、人間が持つ記憶なら、その人の考え方次第で大きく変わるのではないだろうか。これから最高の体験を迎えることができれば、忘れたい過去を上書きすることも可能なはずだ。アルムートの生き方は、今この瞬間を噛み締めて生きることの大切さを教えてくれる。

映画はあくまでもフィクションであり、そのまま鵜呑みにしてしまうのは危険だが、実人生で悩んだときや行き詰まったときには、映画の主人公たちからパワーを少し分けてもらうのはどうだろうか。映画を観ている観客からの頼みなら、『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』のジェヒも、『We Live In Time』のアルムートも喜んでOKするだろう。

スーパーポジティブで、フレンドリーな彼女たちは「大丈夫!」とあなたの背中を優しく、そして力強く前に押し出してくれるに違いない。

『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』『We Live in Time この時を生きて』 作品データ


『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』
原作/パク・サンヨン 監督/イ・オニ 音楽/Primary
出演/キム・ゴウン、ノ・サンヒョク、チョン・フィ、オ・ドンミン、チャン・ヘジン
配給/日活、KDDI 
6月13日(金)より全国公開
(c)2024 PLUS M ENTERTAIMENT AND SHOWBOX CORP.ALL RIGHTS RESERVED.
https://loveinthebigcity.jp/

『We Live in Time この時を生きて』
監督/ジョン・クローリー 脚本/ニック・ペイン
出演/フローレンス・ピュー アンドリュー・ガーフィールド
配給/キノフィルムズ 6月6日より全国ロードショー中
(c)2024 STUDIOCANAL SAS-CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION
https://www.wlit.jp/
長野辰次【MWJ映画部】
映画ライター。劇場パンフレットや「キネマ旬報」「映画秘宝」などに寄稿する他、美術系情報サイト「アートアジェンダ」などのネットメディアでも執筆。結婚を考えている人向けの話題作、注目作を紹介します。
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