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ティモシー・シャラメ『マーティ・シュプリーム』、 ブレンダン・フレイザー『レンタル・ファミリー』。実話ベース×日本ロケで話題のハリウッド映画を解説

2026/03/11 更新
ティモシー・シャラメが主演した『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』
ハリウッド期待の若手俳優から、今や映画界を牽引する人気&実力派俳優となったティモシー・シャラメ。『君の名前で僕を呼んで』(2017年)でのブレイク以降、エンタメ系の大作とアート系の作品とバランスよく出演を重ね、性格のよさもあって幅広い層から支持されている。

そんなティモがアカデミー賞主演男優賞に3度目となるノミネートを果たしたのが、『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』(3月13日公開)。同作は作品賞、監督賞など計9部門にノミネートされている。ティモは実在の卓球選手に扮し、6年間にわたってトレーニングを積んだすご技を披露している。クライマックスは、日本での卓球王者との対決となっているのも見ものだ。

同じく日本を舞台にした『レンタル・ファミリー』も現在公開中となっている。こちらは「レンタル家族」を派遣する会社に登録した主人公を、アカデミー賞俳優のブレンダン・フレイザーが演じている。

日本でロケが行なわれた話題のハリウッド映画2本を紹介しよう。
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卓球の世界でアメリカンドリームを目指す主人公


マーティ(T・シャラメ)は人妻のレイチェル(オデッサ・アザイオン)と不倫恋愛中
『マーティ・シュプリーム』でティモが演じる主人公のモデルとなったのは、卓球選手のマーティ・リーズマン(1930年~2012年)。1958年、59年に全米男子シングルスで優勝を遂げたレジェンド的存在だ。スポンジラバーではなく、ハードバットを使う伝統的な卓球スタイルにこだわった。かなりの変人だったことでも知られている。

物語の始まりは1950年代初頭のニューヨーク。当時の卓球はマイナースポーツで、大会に出場するための旅費などを稼ぐだけでもひと苦労だった。叔父が経営する靴屋で働くマーティ(ティモシー・シャラメ)は、詐欺まがいの行為でお金を稼ぐ喰わせ者だ。しかも、恋人のレイチェル(オデッサ・アザイオン)は既婚者だった。

卓球の世界王者になることで、マーティは窮屈なユダヤ人コミュニティーから抜けだそうと考えていた。超自己中で、うぬぼれ屋のマーティだが、ティモが演じると不思議とチャーミングな愛されキャラとなっている。

大人の女性も魅了する無邪気な笑顔


引退した女優ケイ・ストーン(グウィネス・パルトロウ)はマーティに振り回されるはめに
鋭いスマッシュと同様に、マーティは女性にも手が早い。ロンドンで開かれる世界選手権に出場するマーティだが、「スター選手は一流のホテルに泊まるべき」と選手団が泊まる宿舎ではなく、街で一番の高級ホテルへ。そこで出会ったのが、元女優のケイ・ストーン(グウィネス・パルトロウ)だった。大会のチケットを彼女に渡し、猛然とアタックする。

女優業を引退したケイ・ストーンにとって、マーティはうっとうしい存在だ。若いマーティは目を輝かせながら「卓球で世界チャンピオンになってみせる」と豪語する。自分の才能に見切りをつけ、資産家と結婚した彼女は、マーティを拒みながらも次第に惹かれるものを感じてしまう。

自分の才能を信じ、一途に突き進むマーティは、彼に関わった人たちの人生まで大きく揺さぶることになる。

今年30歳になったティモと、23歳年上のグウィネス・パルトロウとのユニークな顔合わせとなっている。グウィネスは『アベンジャーズ エンドゲーム』(2019年)以来となる久々の映画出演。ティモの子犬のようなイノセントな表情は、大人の女性も魅了するものがあるようだ

ギター演奏と同時進行で、卓球のトレーニングも


エンターテインメント性のあるプレイで、卓球界のレジェンドとなるマーティ
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(2024年)でカリスマ的ミュージシャンであるボブ・ディランの若き日を演じたティモは、母親がユダヤ系であることが知られている。

『君の名前で僕を呼んで』が公開される前に、同じユダヤ系であるジョシュ・サフディ監督とティモは会っていた。その後、『アンカット・ダイヤモンド』(2019年)を完成させたジョシュ監督から、ユダヤ系の卓球選手がアメリカンドリームを目指すという本作のアイデアを聞かされたそうだ。

この企画に興味を持ったティモは、6年間にわたって卓球の練習を積んでいる。コロナ禍中も『名もなき者』のギター演奏と並行し、卓球経験者が見ても違和感を感じさせないレベルまでの反復練習を重ねたそうだ。

ひたむきに役づくりに取り組む姿勢も、ティモが多くの人に愛されている要因だろう。

マーティの前に立ち塞がる日本人選手


長回しでのラリーシーンの撮影にも挑んだティモシー・シャラメ
ロンドンの世界選手権では、日本人選手のエンドウに敗れてしまうマーティ。リベンジを果たすために、東京大会を目指す。ところが、それまでの詐欺まがいの行為が露見。さらに恋人のレイチェルの妊娠も発覚し、八方塞がりとなってしまう。無一文状態ながら、マーティは東京で宿敵・エンドウとの世界一決定戦に挑む。

日本人選手のエンドウを演じたのは、聴覚障害を持つ川口功人選手。2025年の東京デフリンピックに出場し、卓球男子団体銅メダルを獲得しているリアルな卓球競技者だ。

クライマックスとなる対決シーンは、東京・上野恩賜公園でロケ撮影が行なわれ、GHQによる統治が終わって間もない東京の様子がリアリティーたっぷりに再現されている。米国からの独立を果たしたばかりの日本の威信を背負うエンドウ、アメリカンドリームをつかもうとするマーティの互いに負けられない熱戦が繰り広げられる。

オスカーはマイケル・B・ジョーダンとの一騎討ち?


ティモは役づくりのために、身体もアスリート体型に仕上げた
1950年代といえば、『雨に唄えば』(1952年)や『ローマの休日』(1954年)などが大ヒットしたハリウッド映画が花ざかりの時代。米国文化の黄金期でもあったわけだが、ユダヤ人のマーティは労働者階級でもがき続けていた。マーティが卓球界での成功にこだわるのは、ユダヤ人差別や貧困から抜け出すためだった。

閉塞的な状況を突き破り、広い世界に触れるための手段としてマーティが選んだのが卓球だった。卓球にさほど興味がない人でも、マーティが自由を求めて闘う姿は共感できるはずだ。

『君の名前で僕を呼んで』『名もなき者』に続く3度目のノミネートとなった今年のアカデミー賞主演男優賞では、賞レースを牽引したティモは有力候補となっている。

『罪人たち』のマイケル・B・ジョーダン、『ワン・バトル・アフター・アナザー』のレオナルド・ディカプリオ、『ブルームーン』のイーサン・ホーク、『シークレット・エージェント』のワグネル・モウラとオスカーを競う、3月15日(日本時間の3月16日)に発表されるアカデミー賞の行方に注目したい。

日本に実在する「レンタル家族」派遣サービス会社


現在公開中のブレンダン・フレイザー主演作『レンタル・ファミリー』
2024年のアカデミー賞で最優秀主演男優賞に選ばれたのが、『ザ・ホエール』(2022年)のブレンダン・フレイザーだった。アクション大作『ハムナプトラ 失われた砂漠の都』(1999年)などで活躍したブレンダンが、『ザ・ホエール』では体重272kgの巨漢に大変身を遂げ、ファンを大いに驚かせた。どんな役にもなりきってみせる役者魂に脱帽させられた。

オスカー俳優となったブレンダンが、次回作に選んだのが日本出身のHIKARI監督の『レンタル・ファミリー』(現在公開中)だ。全編にわたって日本で撮影が行なわれ、柄本明、平岳大、安藤玉恵、真飛聖らと共演している。

タイトルとなっている「レンタル・ファミリー」とは、日本に実在する代行サービス業のこと。親戚に代わって結婚式に出席したり、友達のいない人のために誕生パーティーを一緒に祝ったりする。

日本には代理家族を派遣するサービス会社が多数あることが知られている。岩井俊二監督の『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016年)なども、このレンタル家族を題材にしていた。

結婚式での「代理花婿」は成功するか?


森田望智が演じる花嫁と、フィリップは結婚式を挙げることに
主人公のフィリップ(ブレンダン・フレイザー)は、日本で暮らす売れない米国人俳優。東京で安アパートを借り、映画やドラマのオーディションを受けているものの、いい役には巡り会えない。そんなフィリップに急な仕事の依頼があった。フィリップはどんな役かよく分からないまま黒いスーツを着て、とある日本人の葬式に参列することに。

これが、多田(平岳大)が経営する会社「レンタルファミリー」での初仕事だった。

中年米国人のフィリップには、思いのほかニーズがあった。ある日のフィリップは紋付袴に着替え、花嫁・佳恵(森田望智)の結婚相手を演じる。佳恵からの依頼で、結婚式当日だけ花婿を演じてほしいというものだった。

佳恵の両親は、フィリップを本当の花婿だと信じている。喜ぶ佳恵の家族を騙していることに良心の呵責を覚えるフィリップだが、佳恵からは感謝された。結婚を口実に海外で暮らすことで、両親の重圧からようやく解放されるからだ。日本の家族の在り方が理解できないフィリップは複雑な気分だった。

さらにフィリップは、シングルマザーの瞳(篠崎しの)からの依頼で、彼女の娘・美亜(ゴーマン・シャノン眞陽)の父親を演じる。名門小学校を「お受験」するためには、両親そろって面談を受ける必要があるというのだ。

「レンタル家族」が日本で人気の理由


顧客の瞳(篠崎しの)に頼まれ、「代理父親」として小学校の面談を受ける
実在する「レンタル家族」の経営者を取材したことがある。彼自身も「レンタル父親」をたびたび演じ、運動会シーズンなどは1日に何件もの依頼を掛け持ちするという。リピート指名されることも多いらしい。

レンタル家族が今の日本で人気なのには理由がある。それは顧客の注文に応えて、「理想の家族」を演じてみせるからだ。顧客はさまざまなタイプがそろった登録者の中から、自分好みの「レンタル家族」を選ぶことができる。派遣された「レンタル父親」や「レンタル彼氏」は、怒ったり、不満をこぼしたりはしない。あくまでも「理想の家族」を明るく、アドリブで演じ続けてくれる。劇中のフィリップのように、売れていない役者もかなり登録しているという。

日本は世間体を気にする社会だ。また、本当の家族がいても本音で語り合うことが少ないのではないだろうか。「レンタル家族」は日本ならではのサービス業なのかもしれない。

取材した経営者によると、顧客の子どもが小さい頃から「レンタル父親」を演じ続けているケースもあり、どのタイミングで実の父親ではないことを告げるのかは難しいという。「お父さん、本当はレンタルなのよ」と打ち明けるタイミングを、顧客は先延ばしにしてしまいがちだとも経営者は語った。

自身のアイデンティティーを見つめ直す主人公たち


父と娘を演じていくうちに、次第に仲良くなるフィリップと美亜
虚実が入り混じる「レンタル家族」の世界を描いた『レンタル・ファミリー』では、慣れない父親を演じるフィリップが、美亜と連れ立ってお祭りに参加するシーンがひときわ印象に残る。都内の神楽坂でロケ撮影されたこのシーンは、神楽坂大通りで毎年催されている「化け猫フェスティバル」の様子を伝えている。

他の参加者たちと同じように、フィリップと美亜も猫に仮装をして、フェスティバルを楽しむ。ずっと父親に見捨てられたと思っていた美亜はフィリップにすぐには心を開かなかったが、お祭りがきっかけで打ち解けていく。

血はつながっていないフィリップと美亜だが、お互いに再会を喜ぶ父と娘として記憶にインプットされていく。

フィリップは俳優としては低迷していた。そんな彼がレンタル父親を演じたことで、家族の気持ちを理解するようになる。レンタル家族の仕事を通し、自分自身を見つめ直すフィリップだった。

『マーティ・シュプリーム』のマーティも母親の束縛を嫌い、生まれ育ったユダヤ人コミュニティーから抜け出すのに懸命だった。レイチェルの妊娠も認めようとしないマーティだったが、七転八倒の末に自身のアイデンティティーを受け入れることで成長への第一歩を踏み出していく。

家族という存在はあまりにも身近すぎて、うんざりしてしまうことも少なくない。そして、家族の問題は生涯にわたって付いてくる。ティモシー・シャラメ、ブレンダン・フレイザーというハリウッドの名優たちの演技を楽しみながら、家族との付き合い方を考えてみるのはどうだろうか。

『マーティ・シュプリーム』『レンタル・ファミリー』作品データ


『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』
監督・脚本/ジョシュ・サフディ
出演/ティモシー・シャラメ、グウィネス・パルトロウ、オデッサ・アザイオン、ケビン・オレアリー、タイラー・オコンマ
配給/ハピネットファントム・スタジオ 3月13日(金)より全国ロードショー
(C)2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.
https://happinet-phantom.com/martysupreme/

『レンタル・ファミリー』
監督・脚本/HIKARI
出演/ブレンダン・フレイザー、平岳大、山本真理、柄本明、ゴーマン・シャノン眞陽、木村文、安藤玉恵、森田望智、篠崎しの、板谷由夏、真飛聖
配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン 2月27日より公開中
(C)2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
https://www.searchlightpictures.jp/movies/rentalfamily
長野辰次【MWJ映画部】
映画ライター。劇場パンフレットや「キネマ旬報」「映画秘宝」などに寄稿する他、美術系情報サイト「アートアジェンダ」などのネットメディアでも執筆。結婚を考えている人向けの話題作、注目作を紹介します。
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