【後編】パリ五輪開記念 クセの強さにハマる!様々な愛の形を描くフランス映画傑作選
2024/07/31 更新
イラスト:倉本トルル
盛り上がりを見せるパリオリンピック。フランスの首都・パリでオリンピックが開かれるのは、1924年の「第8回オリンピック大会」以来となる100年ぶり。パリを中心に多彩な競技が繰り広げられるこの機会に、フランス文化を濃厚に感じさせるフランス映画の名作&話題作を紹介しよう。
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禁断の愛の行方『アデル、ブルーは熱い色』

©2014 パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
まだ少女の面影を残す女子高生のアデル(アデル・エグザルホプロス)は、街ですれ違った青い髪の女性・エマ(レア・セドゥ)が忘られずにいた。そのエマとレズビアンバーで再会し、アデルの人生は一変する。同世代の男子とベッドインしても満足が得られなかったアデルだったが、自由奔放なエマとのセックスに今までにない快感を覚えた。
エマは美術学校を卒業し、新進気鋭の画家となっていく。幼稚園の先生になったアデルはエマと同棲し、彼女の創作活動をサポートすることに喜びを見出す。誰からも祝福されなくても幸せなはずの、ふたりきりの生活だったが、実社会で働き始めたことで少しずつ、お互いの歯車が噛み合わなくなってしまう。
“バンドデシネマ”と呼ばれるフランスのコミックを原作した作品だが、運命の相手と出会ってしまったヒロインたちの哀歓が情熱たっぷりに描かれている。同性愛がテーマであること以上に、人と人とはこんなにも熱く愛し合うことができるのかという驚きがある。
女性同士の恋愛感情を描いた近年のフランス映画に、セリーヌ・シアマ監督の『燃ゆる女の肖像』(2019年)もある。18世紀のフランス・ブルターニュ地方を舞台にした、女性画家と肖像画を依頼した伯爵家の令嬢との心の交流を描いたドラマだ。『アデル、ブルーは熱い色』とは対照的な、女性監督ならではの繊細な作品となっている。
生きている人間の数だけ愛もある。多様な愛の形を、徹底追求していくところもフランス映画の魅力だろう。
古き善き時代のパリへの愛『ディリリとパリの時間旅行』

©2020ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
1900年のパリ。「パリ万博」の植民地村の見世物に出演している少女・ディリリは、配達員の若者・オレルと仲良くなり、パリを騒がせる少女誘拐団に立ち向かっていく。ディリリたちに協力するのは、モネやロートレックといった画家、舞台女優のサラ・ベルナーレ、オペラ歌手のエマ・カルヴェ、エッフェル塔を設計したギュスターヴ・エッフェルといった実在の才人たち。芸術の都・パリを舞台に、虚実入り混じった冒険活劇が繰り広げられる。
パリの背景にはオスロ監督自身が4年間かけて撮り溜めた写真がコラージュして使われており、オスロ監督のパリという街への愛情を感じさせる。また、パリの表面的な美しさを描くだけでなく、ベル・エポックの時代から人種差別や経済格差、子どもたちへの虐待があったこともきちんと言及している。差別や偏見に無自覚だったエマ・カルヴァ付きの粗野な運転手・ルヴフが、ディリリと出会ったことで考え方を改めていくくだりに好感を覚える。
好奇心旺盛なディリリと共に、パリへの時間旅行を満喫したい。
ちょっと歪んだ家族愛の物語『真実』

©2020ギャガ
大女優のファビアンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が自伝『真実』を出版し、そのお祝いのために米国で暮らす娘のリュミエール(ジュリエット・ビノシュ)が久々に実家へ帰ってきた。テレビドラマに出演している俳優の夫・ハンク(イーサン・ホーク)と彼との間に生まれた娘のシャルロットも一緒だ。母が書いた自伝に目を通したリュミエールは、嘘だらけの内容に呆れ返ってしまう。
ファビエンヌとリュミエールの母娘関係は、あまりよくない。ファビエンヌは仕事で忙しく、幼いころのリュミエールは寂しい記憶しかなかった。また、母に代わって愛情を注いでくれた叔母のサラが若くして亡くなったのは、母のせいだと思い込み、そのことがわだかまりとしてリュミエールには残っていた。
カンヌ国際映画祭の常連である是枝監督は同世代のジュリエット・ビノシュと交流し、ふたりで本作の企画を練り上げていった。脚本も手掛けた是枝監督はドヌーヴを2度にわたってロングインタビューし、その甲斐あって、毒舌家で周囲を振り回してばかりいるファビエンヌはドヌーヴそっくりのキャラクターとなっている。実際、ドヌーヴにはヒッチコック映画への出演オファーがあり、また25歳で夭折した一歳違いの姉フランソワーズ・ドルレアックもいた。どこまでがドヌーヴの素なのか演技なのか、分からない面白さがある。
フランスで制作され、フランスの現地スタッフによって撮影された作品ながら、是枝監督らしい家族愛の物語となっている。是枝監督いわく「この母娘を描くには、国籍はあまり意識しなかった」そうだ。家族ゆえに不用意な言動で傷ついてしまうこともあるが、大人になって振り返ると、まだ若かった母親たちの苦労や悩みに気づくことも少なくない。また、夫や子どもが新しく家族の輪に加わることで、関係性もずいぶんと変わってくる。
欠点も多いが、どこか憎めないファビエンヌを、『8人の女たち』からさらに円熟味を増したドヌーヴが実に楽しげに演じている。熟成されたワインのようにベテラン女優が尊ばれるのも、フランス映画の美点だ。
人間のダメな部分も含めて愛することができれば、人生をもっと楽しむことができるのかもしれない。我が道を突き進むフランス映画のタフで魅力的なヒロインたちを観ていると、そんな気がしてくる。
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