ライターのミノシマタカコと申します。
私は普段クルマに乗りませんが、仕事の関係で周りにはクルマ好きがたくさんいます。中には一人で4台もクルマ持っていたり、山奥にガレージをつくったり......独身のクルマ好きは自由にクルマにお金をかけていて、みなさんとても楽しそうです。
しかし結婚後もクルマ趣味を維持しようと思うと、自動車税や駐車場代、メンテナンス費......と、ただでさえ高コスト。新しいクルマを手に入れるとなると更にお金がかかります。結婚後に財布の紐が固くなる夫婦も多いけど、クルマ好きの人たちは、結婚後、クルマへの愛をどう維持しているのでしょうか。趣味のことでパートナーとトラブルになったりしないんでしょうか!?
今回はそんな趣味と結婚の関係について、結婚・出産を機に愛車をスカイラインからSUV、そしてミニバンに買い替えたという小林誠さんにお話を聞きました。
【取材した人】
小林誠さん(38歳)/ 3歳と0歳の子供を持つ父親。3歳のときからトミカを握りしめ、趣味が高じすぎて、転職を機に憧れていたクルマ企業に入社してしまったという筋金入りのクルマ好き。現在もクルマ関係の仕事をしている。
あぶない刑事に憧れ......レパード、スカイラインを乗り継いだ20代
「まずは私の愛車遍歴を見ていただきたいんですけれども」
「うわ、台数が多い! どれが最初のクルマなんですかね?」
「これですね。レパード前期型。13万円で買いました」
「ほおお、これが......」
「はい。で、次がレパードの後期型で35万円。その次もレパードで、4台目までがレパードですね。最後に買ったJY33型は、98万円で買って同じ価格で売れました」
「なんでレパードばっかり?」
「幼稚園のときに『西部警察』、小学校の時に『あぶない刑事』を見て、日産車の洗礼を受けたんですよ。日産車はかっこいいっていう」
「なるほど。だから写真の背景が闇取引してそうな倉庫だったんですね」
「はい。その流れで買ったのが『はみだし刑事』で柴田恭兵さんが乗っていたR34スカイライン。でも、それにはサンルーフがついてなかったんですよ。僕ってサンルーフないと死んじゃう人なんです」
「え、死んじゃうの?」
「ええ。だからその次は、同じスカイラインでもサンルーフ付きのプレミアムセダンを買いました、これが200万」
「どんどん値上がりしてる!」
「はい。しかも、裏ではレパードも隠し持っていたんですよねえ。これにはナンバーを付けず、でかいミニカーとして洗車したり眺めたり座ったり......(うっとり)」
「あの......それって楽しいんですか?」
「楽しいです!! トミカのでっかい版を持っているような感覚だと思ってください。あとで高く売れるかもという投機的価値もあります」
「トミカの代わりにしちゃ高すぎて手が届きませんよ、普通! あと、かなり台数ありますけど、どれくらいの頻度で乗り換えてたのですか?」
「だいたい1年おきです」
「車検を待たずに乗りかえちゃうんだ。しかも、毎回似たようなクルマを選ぶっていう」
「クルマのチョイスは『あぶない刑事』『はみだし刑事』からの影響が大きいですね。あとは好きな俳優でもある渡辺謙さんがCMで乗っていたクルマとか。劇中でパトカーとして登場していた車種も好きですね。1年で乗り換えるけど、クルマ選びの方向性はぶれていません」
「女性に対しては一途なんですか? それとも、クルマみたいに1年で乗り換えたりしちゃうタイプ?」
「僕は浮気性じゃないし、女性は大事にしますよ。クルマをコロコロ変えるのは、優しさなんですよ。きれいなうちに次に送り出してやろうっていう」
「そういう考え方もあるんだ...(笑)。じゃあ、この頃お付き合いされていた女性はクルマ趣味に対してどんな反応をされてたんですか?」
「4台目5台目あたりは、彼女をつくるより、こういうクルマを派手に乗りこなして、自分を高めることを大事にしていましたね。独身貴族きどって、スーツ着て、髪もリーゼントにしてサングラスかけて、さらに穴あきの手袋もして。当時は乗るスタイルを大切にしていましたね。すべてはモテたいという欲求につながるのですが」
「そ、それはモテるのか!? でも、すごく楽しそうです!」
奥様とのデートはスカイラインV36
「奥様とはどうやって出会ったんですか?」
「30歳くらいのとき、このままだと婚期を逃すと思って某大手検索サイトのお見合いサービスに入会したんですよ。迷いはあったけど、婚活は人生において必要不可欠だと思ったので。奥さんとの出会いはそれです」
「おお、今どきですね! 最近はSNSからの出会いで結婚する人も多いですからね。じゃあ、出会った頃はどんなクルマに?」
「付き合い始めの頃は、スカイラインV36に乗っていました。デートのときはずっとこれです。ただ、僕の住まいは神奈川県、彼女は東京東部。走行距離が増えるのがいやなのに、送り迎えやら何やらで年間2万キロ走っていましたね」
「奥様は当時、クルマに対してはどんな反応だったんですか?」
「わあ、すごい! って感じですね。当時はそんなにクルマに詳しくなかったんですけど、今はすっかり詳しくなりましたよ。このクルマも気に入ってたみたいですしね」
「あ、奥様もクルマを好きになっちゃった?」
「ええ、洗脳ですよね。一緒にいてクルマについて話していると、彼女も『こういうのが好き』って言ってくれたり。洗脳とはいえ、趣味への理解が深まってくれたのはうれしかったですね。おかげさまで、出会ってから1年半~2年くらいで結婚しようということになりまして」
「わーおめでとうございます!」
「でも、その結婚の直前にクルマがエクストレイルのディーゼル車になるんです。これがまあ、いろいろありましてね......」
結婚、家族を持つことの回答としてSUVへ
「あれだけ愛していたスカイラインを手放したんですか」
「はい。スカイラインV36は鬼のように速かったけど、ガソリン代もかかるし、経済的にはちょっとね。これから子供が生まれるかもしれないことも考えたらどうかなと」
「一気に現実的になりました」
「そうですね。ただこれ、初めて新車で買ったんですよ。これまでは中古でしか買ったことなかったんだけど」
「え、新車!? 高かったのでは?」
「400万円くらい。フルオプションでカスタマイズしました。しかもこれ、黙って買っちゃったんですよ。結婚直前なのに」
「なんと! それは怒られるのでは......?」
「半殺しになりましたね」
「やっぱり......」
「これからライフプラン形成しなきゃいけないときに、なに買ってんだよ!殺すぞ!って。でも、これはクリーンディーゼルだから経済性もいいんだって無理やり説得しました」
「あ、燃費いいんだ」
「そう。さらにスカイラインが持っていたハイパワー感もある。ハイブリットではないけど、このクルマが家族を持つことに対する俺なりの回答だったんですよ」
「かっこいい感じで言ってますけど、一歩間違えたら破局ですよ!?」
「抑えきれないこだわりが出てしまいました」
「無理やり納得させたなら、奥さんの評判も......」
「かなり不評でしたね(笑)。スカイラインは気に入ってたみたいだったので、これはよく、トラックやバスみたいって言われました」
「アバウトな例え(笑)。でも、確かにパートナーがいきなりこのクルマ買ってきたらビックリしますよね。私だったら受け入れられるかどうか......これも1年くらいで乗り換えたんですか?」
「珍しく2年半乗りました。一人目の子供もこのクルマに載せていましたね」
「なんとか危機を乗り切ったみたいでよかったです......!」
出産を機にクルマを変える
「いやーでもエクストレイルはいいクルマだったけど、子供を乗せるには狭かったんですよね。後席のヒンジドアも90度開かないから不便なんです。ベビーカーやオムツをバンバン乗せる感じじゃなかった」
「一応ライフプランも考えて買ったはずなのに!?」
「そう。実際に子育てに使ってみたら思っていたのと違った。それでエクストレイルは手放して、今のちょっと残念なセレナを買うんですけど」
「残念なんですか?(笑)」
「それなりにこだわって買ってますけどね。今ちょうど3年目になりますし」
「最長記録! これも新車で?」
「ですね。350万くらいしました。でも本体自体は250万くらいなんです。オプションをいろいろ付けてカスタマイズしてるからプラス100万円になってます。ホワイトパールやブラックのカラーが多い中、うちのだとすぐわかるように爽やかな水色を選びました。もちろんサンルーフもつけましたよ。その分は1年かけてお小遣いから支払いましたね」
「お小遣いローン(笑)。でもクルマ好きの中ではミニバンなんて魂売っちゃって......という話になりませんか?」
「そこはね、一石投じたいんです。やはりミニバンって、このライフステージでしか乗れないクルマなんですよね。隠居後、夫婦で温泉旅行にいくときにミニバンじゃ、ちょっと悲しいでしょ? 若い独身が乗る雰囲気のクルマでもない。でも家族を守る、プロテクトするためのクルマとしては最高に良い」
「なるほど。家族を守るクルマかー」
「今の3歳、0歳、奥さんというライフステージではミニバン以上のものがない。使い勝手もいいし、どんなに雨風が強い日でも守ってもらえる安心感がある」
「確かにそういう意味ではファミリー層が選ぶクルマの選択肢として間違ってないですよね」
「なかには『お前、クルマをあきらめただろう』なんて言う人もいますよ。でもドライバビリティも悪くないし、メーカーが綿密なマーケティングをして作ったスポーティーグレードだし、言われるほど"あきらめたクルマ"ではないんですよ。たぶんもう10年前のセダンくらいの性能も兼ね備えているし、燃費もいい。しかもチャイルドシートを付けていて、ミルクの香りがするようなクルマに乗れているというのは、今しかない幸せ。その幸せを家族と享受できているなんて最高じゃないですか」
「価値観が変わってきた!? じゃあ、奥様の反応も......」
「エクストレイルとは違って好きみたいです」
「いやあ、それはなによりです」
「でも本当は......」
「今すぐ売りたいんですけどね」
「出たー!クルマ好きのエゴ!」
「ただそれをやると家族の幸せをドブに捨ててしまうので、まわりの人から止められています」
「はい、今度は半殺しじゃすまないかも......」
「そうですよね。あ、うちのクルマ見にいきます? 駐車場に止めてあるんで」
「あ、はい! お願いします」
「あぶない刑事」になりたい男
「それにしても小林さん、全然クルマへの気持ち忘れてないじゃないですか。てっきり結婚して落ち着いたのかと」
「ミニバンでもそれなりにこだわってるので、そうかもしれないですね。ただ、ミニバンってね、ダンディズムがないんですよ。これで夜の横浜を運転しても、何もうれしくない。あぶない刑事にはなれないんです」
「あぶない刑事(笑)。その思考もブレませんね」
「だって、クルマはいくつになっても異性を意識するものでしょ。そういう風に思ってるから、一時期子育てに忙しいときは、自分が枯れてしまって仕事的にもダメになった。だからあえてセレナの悪い点を1つあげるとすると、男をダメにする」
「父ちゃん、がんばれー!」
「おっす(笑)。でもね、実際そうなんですよ。いくら家族の満足度が高くても、外に出て誰かと戦ったり、仕事で頑張ったりといった部分では、普段我慢している部分が影響して意欲が削がれることもある」
「守りに入った感じになるんだ」
「うん。ライフステージの途中でしか乗れないとはわかっていてもね。でも最近はお小遣いの範囲で少しクルマをドレスアップさせることで、満たされるようになりました。あと、クルマだけでなく自分の眼鏡もかわいいものを買ったり、靴を買ったりするようになったら、仕事もまた上向きになってきたんです」
「おお。クルマや自分をおしゃれにすることが元気の源になったんですね!」
「ほらこれも、ライトを変えたりしてるんですよ。いいでしょ? 背伸びすることはないんだけど、自分を高めるということは生きていくうえでやはり重要。そのためにも自分にとって、クルマやおしゃれっていうのは大事なんです。そこへのこだわりを忘れてしまったら、僕みたいなタイプは人間的にダメになってしまいます」
「じゃあ、お子さんがもう少し大きくなってきたら、もっと攻めていきますか? っていうか、攻めていくんでしょうね」
「そうですね。限界が近いです。もうすぐ車検だから売っちゃうかも」
「危険(笑)」
まとめ
「クルマが好き」と言っても、音楽のジャンルが細かく分かれているように、そのこだわりも千差万別。『西部警察』や『あぶない刑事』から始まったという小林さんの好きな世界観は、同世代の人はきっと共感できる部分もあったのではないでしょうか。
例えあぶない刑事気分で横浜を走れなくなっても、このライフステージにしか乗れないクルマがある。家族を守るためのクルマを選ぶという考え方は、とても愛情にあふれていてすてきだなーと思いました。クルマ好きは車種が変わってもクルマ趣味を捨てない。趣味の知識やこだわりも、こうやって生かせば家族のためになるんですね。
でも、奥様にだまってクルマを売ってはダメですよ! 小林さん!
【著者紹介】
ミノシマタカコ
フリーライター&WEB編集 / クルマについて勉強中(最近気になるのは旧車)/ 日本参道狛犬研究会 会員 / 落語は三遊亭天どん師匠好き、ヘビ&リクガメ好き。皆様のおかげで生きております。Twitter ID:@minokiti
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