「先立たれたら、困るんです」半世紀以上を共にした夫婦が語る「小さな縁を育てる人生」

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ライターの栗本千尋です。結婚3年目です。

皆さんは、理想のプロポーズってありますか?

私は、「おじいちゃん、おばあちゃんになっても、ずっと一緒にいようね」と言われるのが夢でした。

「おじいちゃん、おばあちゃんになっても一緒にいる」って、簡単なようで、実はとても大変なこと。長く連れ添っていれば価値観が合わないシーンもたびたび出てくるでしょうし、道半ばで離婚してしまうかもしれない。末長く仲のいい夫婦でいるには、どうすればいいのでしょうか?

半世紀以上を共に歩んできた〝超先輩〟に、夫婦円満の秘訣を聞いてみることにしました。

20161118210107.jpg お話を伺ったのは、小倉朝雄さん(右)、まりさん(左)ご夫婦。ご主人が昭和2年生まれの89歳、奥さまは昭和6年生まれの85歳。材木店を営んでいて、ご主人は未だに現役。重い材木を一人で運んでいるそうです。お二人とも、腰も曲がらずめちゃくちゃ若い。

 

親戚同士で、お見合い結婚だった

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ーーお二人はいつご結婚されたんですか?

20161118204534.jpg昭和32年だから、一緒になって、もう59年になりますね」 


ーー半世紀以上! 長いですね。お二人の出会いから伺ってもいいですか?

20161118204824.jpg「もともとは親戚でね。母親同士が従兄弟だったから、又従兄弟の関係なんです」

20161118204534.jpg「それも、お見合い結婚なんですよ。二人とも出身が三重県なんですけれど、主人は戦後、東京に出て材木屋をやっていました。お嫁さんを探しに田舎に戻ってきたときに、叔父さんから『どうだ?』って、私に声がかかったの」


ーーそのとき、奥さんはどう思われたんですか?

20161118204534.jpg「親戚とはいえ、ほとんど会ったこともなかったんでねぇ。それでも『身元もきちんとわかっている者同士だから、いいんじゃないか』って。当時は、断るっていう選択肢もなく、言われるがままだったんです」 


ーー「お見合い」も「親戚同士での結婚」も、今の若い人たちからしたらちょっと想像しづらいでしょうね。

20161118204534.jpg「当時だからこそ、すんなりと『この人と結婚するんだな』って受け入れられましたねぇ」

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ーー結婚式は、されたんですか?

20161118204824.jpg「実家の屋敷でね。普段着で、親戚が集まって挨拶をしたくらいだね」

20161118204534.jpgそのときに初めて主人と顔を合わせたくらいの感じだったんです。顔合わせの後、そのまま主人のうちに泊まって、次の日にはもう東京へ一緒に行ったから」


ーーすごいスピード感ですね。

20161118204534.jpg「ただ親戚だからってことで結婚したけれど、いま思い返してみると、最初のうちはよく泣いていたような気がしますね」


ーーえ、泣いていたんですか......?

20161118204534.jpg東京に出るって、当時は外国に行くくらいの感覚だったから。新幹線もない時代だったしね。田舎者で言葉がわからないし、どうしよう......って。買い物するときは、指を差して『これください』って、やってましたね」 

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ーー旦那さんがどうこうというより、環境の問題で、奥さんにとって結婚生活は不安だらけだったんですね......。

20161118204534.jpg「しかも、サラリーマンでなく、自分で商売やってるでしょう? 主人が外出している間に仕事関係の方から電話がかかってきても、材木の名前もわからないし」 


ーー新婚の甘い期間があるでもなく、すぐに日常がはじまったわけですね。そんな環境のなか、どうして一緒にい続けられたんですか? 私を含め、今の若い世代なら、すぐに音をあげてしまいそうです。

20161118204534.jpg「田舎から出てきて、友達もいなくて、そのあとすぐ子育てもはじまって。あの頃はとにかく夢中でしたからね。でも、隣に住んでいたおばあちゃんが、娘のようにかわいがってくださってね。そういう親切な方がいたから、なんとかやってこれたというのもあるのかな」

 

 

夫婦円満でいる秘訣は「相手を理解して思いやること」

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ーーお互いの好きなところを、教えていただいてもいいですか?

20161118204534.jpg「好き嫌いなく、出したものをきちんと食べてくれるし、とにかく健康で。『具合が悪いから寝てる』なんて、言ったことないんですよ」

20161118204824.jpg「そういう意味では、食事での不安はひとつもない。感謝していますよ、普段は表に出さないけどね」

20161118204534.jpg「あとはね、真面目なところ。『ご主人は真面目でいいわね』って、近所でも評判なんですよ。人にも優しいしね」

20161118204824.jpgいや、ダメ男ですよ。近所でもダメ男で通ってる(笑)」 

ーー主観でこんなに近所の評判が違うって......(笑)。お二人みたく夫婦円満でい続けるために、秘訣みたいなものって、ありますか?

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20161118204824.jpg相手を理解するよりしょうがないよね。あとは、思いやり。それさえあれば、なんとかなるんですよ」 

ーー「思いやり」って、言葉にすると簡単ですが、お二人を見ていると、お互いに見返りを求めずに、心から思いやっているように感じます。お孫さんからもお二人の印象を伺ったんですが、『お互いの領域に踏み込みすぎないのが円満のコツでは?』と仰っていました。

20161118204534.jpg「そうですね、家のことは私がして、お店のことは主人に任せていて」

20161118204824.jpgお互いに任せている部分は、口を出したり文句を言わないね。信頼して任せているから」

20161118204534.jpg「自宅と事務所が繋がっているでしょ。だから何十年もの間、ほぼ毎日同じ空間で過ごしているけれど、不満を言ったこともないし、喧嘩もしないですねぇ」

20161118204824.jpg「でも、家の中のことを全部任せているせいで、お茶の場所もわからないから、先立たれたら困っちゃう」 


ーー奥さんには長生きしてもらわないといけませんね(笑)。

 

 

結婚してこれまで嬉しかったこと、辛かったこと

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ーー結婚生活の中で、一番嬉しかったことは何ですか?

20161118204534.jpg「娘が二人いるんですけれど、結婚何周年かのときに、伊豆旅行をプレゼントしてくれたんです。嬉しかったですね」

20161118204824.jpg「切符も全部手配してくれて、久々に二人で行ってくるようにってね。下の子が中学生のときだったかな?」 


ーーえ! 大人になってからだと思ったら......。中学生でそんな気の利いたプレゼントをしてくれるなんて。どうすればそんな子に育つのか教えてほしいくらいです。

20161118204534.jpg「でも、そのときは商売がうまくいっていなくて。せっかく手配してくれたけど、二人とも旅先で使えるほどのお金を持ってなくてね。主人と一緒に、『どうしようか』って話したのを覚えてますよ」 20161110102835.jpg

ーー自分たちで商売をやっていると、普通のサラリーマン家庭よりも、夫婦二人三脚で乗り越えなければならない壁が多そうですね。

20161118204534.jpg「そうねぇ。この家を建て替えたときに妬みを買ってしまって、職人さんたちがみんないなくなったことがありました。『台湾檜(たいわんひのき)』という高級な木材を使って、設計士さんもつけて、ちょっと無理してお金をかけたんだけど。『あいつら儲けてるに違いない』って妬まれてしまったんでしょうね」

20161118204824.jpg「普通の住まいだったら、こんな洒落たことしなくても良かったんだけどね。材木屋の事務所が自宅とつながっているから、モデルルームのような感じで、『こんなのが造れますよ』っていうのを表現しようとしたら......」 


ーーそんなことが......。どうやってその状況を打開したんですか?

20161118204534.jpg「しばらくして、『やっぱり小倉さんのところの材木がいい』って戻ってきてくれる人も出てきてね。そういう方がいたから、これまでなんとかやってこられました。主人の性格もあって、儲けに走らず、良心的な価格で売っていたことも良かったのかな」

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20161118204824.jpg「儲け主義に走っちゃうと、どうしても周囲への対応が悪くなることがあります。大変なときもあったけれど、今日までやってこれたのも、周囲のみなさんのおかげ。いろんな方に恩返ししていきたいっていう気持ちは、いつもあります」

 

 

後輩夫婦に伝えたいこと

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ーー現在ではお見合い結婚より恋愛結婚が主流になっていますが、そんな時代のことをどう思いますか?

20161118204534.jpg「そうねぇ、娘たちも好きな人を見つけて結婚したけど、羨ましいとは思いますよね。やっぱり、好きな人と一緒にいられるのが一番だからね。でも、お見合い結婚でも、こうやってずっと長く一緒にいますから。私はこの人で良かったんだなって思っています


ーーそうですね、とてもお似合いです! これから結婚する人や、若い世代の夫婦に向けて、末長く仲良しでいられるためのアドバイスをください。

20161118204824.jpg「そんな、人にアドバイスだなんて。自分のことだけで精一杯です(笑)」 

20161118204534.jpg「私たちなんかは昔の考えだから、参考にもならないだろうけれど。でも、せっかく縁があって結ばれたんだから、早くに別れるのはもったいないと思っちゃいますよね。いいときばっかりじゃないんだし、お互いに辛抱することも、時には大事かな」

ーー結婚生活って、楽しいことばかりじゃないですもんね......。最後に質問させてください。生まれ変わっても、また一緒になりたいですか?

20161118204534.jpg「それこそ四六時中一緒にいますけど、やりづらいと思ったこともないですし、いいかもしれませんね」

20161118204824.jpg「今の若い人は『生まれ変わっても』なんて思うかもしれないけどね。そんなこと、恥ずかしくて言えないです(笑)。でもまぁ......他の人は僕のところに来てくれないだろうから、きっと一緒にいるんでしょうね」

 

 

おわりに

20161109145418.jpgご主人はどうしても奥さんの話になると照れてしまうようで、言葉少なではあったのですが......「他の人は来てくれないでしょうね」という言葉は、「愛してる」なんかよりも静かで深い、素晴らしい愛の言葉だと思いました。

お孫さんの話では、ご主人は奥さんのことを「嫁に来た当時は、街で噂になるくらい美人だった」と評していたり、こっそり奥さんの若い頃の写真を持っていたりしたそう。表には出さないけれど、とても大好きなんだなと実感しました。

インタビュー後、手を繋いだところを撮影させていただきましたが、結婚当時ですら手を繋ぐことはしなかったそうで、ご主人は「冥土の土産になったわ!」とおっしゃっていました。そんなこと言わず、ぜひ長生きしてほしいものです(笑)。

今回お話を伺って、小倉さんご夫婦は、とても〝ご縁〟を大切にされている印象を持ちました。それこそ、小さな縁を、良縁になるまで育てているような。
結婚のこともそうですし、商売のことやご近所付き合いに至るまで。現代は出会いの選択肢も多く、「もっといい縁を、よりいい相手を」と思ってしまいがち。でも、そのせいで、実は小さく実っていた小さな縁を見逃していることがあるのかもしれません。

奥さんは、「インタビューされるなんて、せっかくだから記念に」と、お赤飯を炊いて持たせてくださいました。本当に美味しかったし、温かい気持ちになりました。こういう心遣いが、良縁を育てるということなのかなと思います。

私たちは、生きている間にどれだけの縁を大切にできるでしょうか。




【書いた人】

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栗本千尋
青森県八戸市出身のフリーライター。
カルチャー誌や旅行雑誌をメインに、たまにWEBで執筆。プライベートでは一児の母。最近は子育てをテーマにした記事も書くようになりました。





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