折り紙作家に聞く、誰よりも目立つポケットチーフのたたみ方

おやくだち ピックアップ 結婚式のアイテム

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こんにちは、結婚式スタイルで登場したライターの有井太郎です。


みなさん、友人の結婚式に参列したら、やっぱり目立ちたいですよね? 


「ねえ、新郎の友人席にいるあの男性、一人だけオーラ別格だよね?」とか、「はぁー。カナコのウエディングドレス姿、本当にキレイ......。アケミもそう思うよね? ねえ? ちょっと、どこ見てんの! あ! またあの有井って人見てる! カナコに集中しなさいよ!!」なんて事態に陥りたいです。


ただ、女性はドレスやアクセサリーで個性を出しやすいけど、男性はスーツ・タキシードが中心だから難しいもの。しいて言うなら、ポケットチーフの折り方を個性的にして目立つしかありません。


ならば、"折り方"のプロである折り紙作家の方に、チーフの折り方を聞いてみよう! ということで、今回はとある方のところに行ってきました。

折り紙作家で舞台演出家でもある西田シャトナーさんです!

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【西田シャトナーさん】

学生時代から現在まで、400以上の作品を残す折り紙作家(ホームページには50作品以上を掲載)。2009年からは折り紙の個展も開いている。舞台演出家・劇作家でもあり、劇団「惑星ピスタチオ」の脚本・演出で90年代の小劇場界を席巻。舞台『弱虫ペダル』の脚本・演出も手がけるすごい人。

ホームページ:http://www.n-shatner.com

Twitter:https://twitter.com/nshatner?lang=ja


まずは読者のみなさんに、西田さんがどれだけスゴい折り紙作家なのかわかってもらうため、過去作品の一部を紹介します。


【海亀の子】

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海亀の子 - 西田シャトナー公式サイト【Nishida Shatner Art Institute】


【エイリアン・ヴィクター】

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エイリアン・ヴィクター - 西田シャトナー公式サイト【Nishida Shatner Art Institute】


「裏磐梯のダリの象」

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裏磐梯のダリの象 - 西田シャトナー公式サイト【Nishida Shatner Art Institute】


はい、これ、本当に折り紙なの? と疑うほどの高クオリティ、ご覧いただけましたでしょうか。今日はこんな素晴らしい作品を作れる西田さんに、ポケットチーフで折り紙をしてもらうという、技術の無駄遣いの最高峰のような企画をお届けします。



折り紙作家に「チーフで折ってください」なんて気軽に言ってはいけない

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ーー今日はよろしくお願いします! 作品の実物を見せていただきましたが、僕の考えている「折り紙」とはまったく別物でビックリしました。こういった作品は、完成までにどのくらいの製作時間を要するのですか?

f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「すでに折り方が定まっている作品の場合で、折り始めてからいったんの形ができるまでに5~10時間。成形して完成するまでに平均3日くらいですかね。創作にはもっと時間がかかります」

ーー制作時間も一般的な折り紙の次元と違う......。

構想し始めてから最終的な形になるまでに、もっとも時間を費やした作品は何ですか?

f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「さっき見せたエイリアンで、20年くらいかな......」

ーー20年!?


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「高校2年のときに初めて作って、それからバージョンアップを重ねて2009年頃にこの形になりました。どんな作品も、たいてい何年もかけてバージョンアップしてゆきます。形を少しずつ変えたり、内部構造を洗練させてより小さな紙で折れるようにしたりして、『折り効率』を上げていきます。ちなみにこのエイリアンは、150cm×150cmの紙一枚で折って全長50センチメートルになります。折り効率は良い方です」


ーー異世界すぎる......。

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ーーあの、実は今日は「結婚式で目立つチーフの折り方」を教えていただければと思いまして......。この白いチーフで、折っていただけませんか......。


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............。


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「あの、一応やりますけど、でも、チーフじゃ折り目がつきにくいし、サイズも小さいから、全然うまくできないと思いますよ。もちろん努力はしますけど」


――あ、そうですよね......。無茶なお願いをしてしまい、すみません......。


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スッ......

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サササッ......

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「はい」


――うおおおー! こんなヘナヘナなチーフでもツルがの頭がピンと立ってるー!! チーフとしてどうなんだ胸ポケット入るのかって問題はさておきすごいー!!!!


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「やっぱりこういうの、折っていても、楽しくもなんともないんです。布も、こんなことされるために布やってるワケじゃないと思うんですよ。きっと喜んでないと思う。だから全然ダメですね」


ーーえ......あの、はい......すみませんでした......。



折り紙作家の本領発揮

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ーーたびたびのお願いで恐縮なのですが、今度はチーフではなく、折り紙で何か折っていただくことはできますか......?


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「せっかく来てもらったのに、『チーフじゃダメ』じゃ、記事にならないですもんね」


ーー本当にその通りでして......。一応、市販の折り紙も用意したのでぜひ!


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............。

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............。


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「これは、使わないです」


ーーえ! どうしてですか!?


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「いわゆる『おりがみ』用紙として市販されているものは、私は折り紙を折る紙としてお勧めしません。美しく仕上がりませんし、折った作品に耐久性もない。美しく折ることも、保存することも、前提としていない紙です。」


――知らなかったです......。


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「なるべく自分で紙を探すべきです。新聞紙でも、何かの包み紙でもいいんです。市販の折り紙用紙を使う場合でも、両面同色の紙を選ぶと美しい作品に仕上がりやすいですよ。今日のところは、私が自分で探してきた紙で折らせてください」


ーーかしこまりました......。


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ということで、西田さんが作品を折り始めます。


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「今からこの紙でユニコーンを作ります。ユニコーンは、最速30分くらいでできるので」


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ーーユニコーンを折り紙で......想像つかないです。ちなみに、使われているこの紙は?


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「これは、京都にある和菓子屋さんの包み紙です」


ーー和菓子屋さんの包み紙!?


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「薄くて強度があり、手触りもよく、とても良い紙です」


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f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「包み紙は面白いものが多いですよ。、わりと折り紙に向いているものが多くて、毎回チェックしてますね。これもその和菓子屋さんでたまたま見つけて、あとで紙の製造会社を教えていただきました。紙を探すことはとても楽しいですし、重要なことです」


ーー(にもかかわらず、チーフでお願いした僕って......)


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話をしながらも、どんどん折っていく西田さん。


ーーちなみに、こういう作品を初めて折るとき、最初から最後まで手順が頭に浮かんでるんでしょうか? たとえば「こんな折り方をすればユニコーンがつくれる」という手順がすべて頭の中でイメージされて、それから折り始めるんでしょうか。


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「それもよく聞かれるんですけどね。創作する段階の話をすると、最初から手順が浮かんでいることなんてないですよ。『なんとかならないかな』『この形を折り紙で再現できないかな』といろいろな折り方を試して、トライ&エラーを重ねるうちに、少しずつ『もしかしたらできるかもしれない』となっていくんです。何日もかけて挑んだけど結局できなかったというケースもたくさんありますよ」


ーーてっきり手順が浮かんでから作り出すのかと思っていました。


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「なので、作品が完成したことに対して、自分が一番驚いている。その創作の難しさを一番知っているのは自分ですから」


ーーそういった折り紙の思考過程は、演劇にも活きているんですか?


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「活きますね。自分の場合、折り紙も演劇も、不可能に挑戦し、それを可能にするという冒険です。折り紙で不可能を成し遂げた経験があるから、演劇でも不可能に直面した時に諦めずにすみます。むしろ一見不可能と思えることにチャレンジしたくなるんです」


ーーそんな深く壮大な世界だなんて、想像もしていなかったです......。


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着々と姿を見せつつあるユニコーン

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かなり細かくインタビューに答えていただいたにも関わらず

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ほぼピッタリ30分で、完成!!


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「こんな感じですかね。このユニコーンは、構造はシンプルです。仕上げの部分で自分の技術とイマジネーションを全開にする作品。ただ立っている姿でも、そこには筋肉や骨格や呼吸があり、筋肉には力の流れがある。今日折ったユニコーンは、なかなかいい感じで、しっかり自分の意思で立ってくれていると思います」

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溢れ出る立体感と躍動感。脚のひづめや立派な首筋、筋肉の着き方までハッキリと見えます。本当に30分ほどで、1枚の紙がユニコーンになりました。紙の選び方から最後の造形まで、僕の知っている折り紙ではありませんでした。



西田さんと折り紙の出会い

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ーーそういえば、西田さんはどんなきっかけで折り紙の創作を始められたのでしょうか。


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「小学生の頃、伝承作品の『鶴』に疑問が湧いたのが最初です。『この鶴はどういう体の状態やねん。足もないし、へんな尻尾があるし』と思い、自分で自分の納得いく鶴を折れないか、工夫をし始めたんです」


――確かに、鶴ってあまり「鶴の要素」がないですね。


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「それが小学校2年生くらいでした。今では伝承作品の『鶴』にも、優れた美しさがあるのがわかります」


ーー小学2年にして、折り紙の魅力に触れたんですね。


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「折り紙そのものは、もっと小さな頃からずっとやっていました。折り紙の本とかを見たりして。友達と遊ぶときには、話が合わなかったり気を遣ったりするじゃないですか。折り紙は気楽です。誰にも認められなくても楽しいですし、ひたすら自分が美しいと思う作品に没頭できますから」


ーーなるほど......。


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「そんなふうに、孤独に折っていたんです。創作も基本、孤独にやっていました。でも、人に認められる嬉しさも、後に感じるようにもなりました。少年の僕が一人で折った作品を、母がきれいに保存しておいてくれて、それがうれしかったし、自分の自信にもつながったように思います」


ーーもっとも時間がかかった作品がエイリアンとのことでしたが、どのようなことがきっかけで作り始めたのですか?


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「エイリアンを折ったきっかけは、高校2年の時のクラスメイトとのやりとりです。当時、友人たちには自分が折り紙をやっていることを言っていませんでした。説明が難しいし、話すと「は? 折り紙?」とか言われるのが面倒なので。折り紙作家の方々とは交流あったりしたんですけれど」


ーー高校生で作家の方と交流してる時点で才能が溢れている......。


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「しかし、ある日クラスメイトと、折り紙について議論する機会があって、つい僕は、折り紙の素晴らしさについて語ってしまったんです。すると、友達はからかって『折り紙がいくら素晴らしくても、なんでも折れるわけではないやろ』と言ったんですね。僕は『折れる』と主張しました。これは強がりではありません。無限に大きくて十分薄い紙があれば、理論的にはなんでも造形できます。現実には、そういう紙がないので難しいんですけど」

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f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「そこでクラスメイトは、『嘘つくな。じゃあ、映画のエイリアンとか折ってみろ』と詰めてきたわけです。今ではその程度の作品、作家たちは皆当たり前に折ります。けれど、当時の折り紙の世界では、まだ技術が進んでなくて。時間さえかければ折れるだろうけど、今日、明日で折れる自信はさすがにない。チャレンジしたら何日、何カ月かるかわからない。それで『折れない』と言ってしまったんです。悔しいけれど仕方がない。でも家に帰ってから、一応試しにエイリアンを折ることに挑戦してみました。すると2時間でできたんです」


ーー2時間で!?


f:id:katsuse_m:20160830102651j:plain「たまにあるんですよね、ごくたまにそういうことが。次の日、クラスメイトに見せたらすごく感動してくれて、それから彼とは仲良くなりました」


ーーいいお話ですね。西田さんの折り紙に対する思いも伝わってきました。今日はお忙しい中、本当にありがとうございました!



まとめ

折り紙というと、子どもの頃、市販の紙でお手本通りに折っていた作業を想像しがち。しかし、西田さんをはじめとする折り紙作家の方たちが折っていたのは、紛れもなく芸術作品、ゼロから彼らが創造したものでした。そしてその作品には、いろいろなストーリーや試行錯誤がこめられていたのです。興味を持った方は、ぜひ折り紙作家の方たちの個展に足を運んでみてください。そして折り紙文化の発展について想いを馳せていただければと思います。

そしてくれぐれも、チーフなんかで折り紙を頼んだり、「オシャレでモテそうなチーフを折って」とか気安く注文したりしないように!!!! 





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