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ディカプリオ、カンバーバッチらハリウッドスターが熱演! マイホームが戦場になる「おかしな家族」の物語。『ワンバトル』『ローズ家』『Mr.ノーバディ2』

2025/10/09 更新
隣の芝生はいつも青いー。よその家のものは自分の家のものより、よく見えてしまうという英語のことわざだ。他の家はみんな幸せそうな生活を送っているのに、自分の家だけ恵まれていないように思えてしまう。自分の家庭を客観視できない、人間の心理をうまく言い当てている。

一方、映画の世界では、その逆のパターンがたびたび描かれている。常識はずれのおかしな家族を人気俳優たちが嬉々として演じるホームドラマが、映画館では人気を博してきた。とりわけ今月は、マイホームが戦場と化してしまう、アクション系のコメディ映画が次々と公開される。

レオナルド・ディカプリオが時代錯誤のヤバい父親を演じた『ワン・バトル・アフター・アナザー』をはじめとする、おかしな家族、奇妙な夫婦を描いた話題作を紹介しよう。
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熱愛結婚した夫婦のその後『ローズ家 崖っぷちの夫婦』


ベネディクト・カンバーバッチ、オリヴィア・コールマンが共演した『ローズ家』より
最初に紹介するのは、熱愛の末に電撃結婚したはずの夫婦のその後を描いた『ローズ家 崖っぷちの夫婦』。ベネディクト・カンバーバッチと『女王陛下のお気に入り』(2018年)でアン女王を演じたオリヴィア・コールマンとの共演作だ。英国出身のふたりらしい、ブラックジョークたっぷりなコメディとなっている。

新進建築家のテオ(ベネディクト・カンバーバッチ)とシェフのアイビー(オリヴィア・コールマン)はお互いにひと目惚れし、恋に陥った。結婚したふたりは米国の西海岸に移住し、双子の男女に恵まれる。

テオは地元のランドマークとなる博物館を完成させ、アイビーもシーフードレストランを開業する。誰もが羨む幸せな家庭生活のはずだったが、博物館が嵐によって破損したことからテオは失業するはめに。アイビーが精力的にレストランの経営に励み出し、やがて家庭内に不協和音が鳴り始める。

夫の収入がない分、妻のアイビーは家族のために懸命に働き、レストランは大成功。しかし、多忙になりすぎたため、アイビーは家族と一緒に過ごす時間がなくなってしまう。時間を持て余していたテオは育児を請け負うが、子どもたちはすっかり父親とべったりな関係に。アイビーからしてみれば、大切な子どもたちをテオに奪われたような気分だった。テオが建てた新居での生活は、ギスギスしたものになってしまう。

ゴージャスな新居での生活は幸せとは限らない?


夫婦仲が悪化し、テオ(ベネディクト・カンバーバッチ)は友人である弁護士に仲裁を頼む
カウンセラーに相談したり、夫婦仲を取り戻すために水入らずでのNY旅行を試みるものの、ボタンの掛け違いはなかなか修復されない。友人を招いた新居完成パーティで、お互いの欠点をあげつらうことになる。ここらへんの夫婦の会話は、かなり辛らつだ。

ウォーレン・デヴィートの原作小説は、マイケル・ダグラスとキャスリーン・ターナー共演作『ローズ家の戦争』(1989年)として映画化されているが、ヒット作『哀れなるものたち』(2023年)の脚本家トニー・マクナマラが現代的に研ぎ澄ませた形でアップデートさせている。子どもたちの言動が、夫婦仲を左右するなど、よりリアリティのある家族ドラマに仕上がった。

ジェイ・ローチ監督は、テレビ業界のセクハラ&パワハラ問題を扱った『スキャンダル』(2019年)や、100%おバカ映画『オースティン・パワーズ』(1999年)など両極端な作風で知られている。今回は、社会派ドラマとコメディ要素がほどよくミックスされている。

ゴージャスな新居で暮らしていても、そこで暮らす家族は必ずしも幸せとは限らない。どこで暮らすかより、誰とどう暮らすのかがより重要なのかもしれない。

家族のために戦う父親のアクションコメディ『Mr. ノーバディ2』


主人公一家がバカンス先で大災難に遭遇する『Mr. ノーバディ2』
『ローズ家』と同じ、10月26日(金)に公開が始まる『Mr. ノーバディ2』もおかしな家族を描いたコメディだ。一見すると平凡で、どこにでもいそうな男ハッチ・マンセル(ボブ・オデンカーク)が主人公だが、彼には妻や子どもたちには言えない秘密があった。実はハッチは政府機関に属する凄腕のスナイパーだったのだ。

前作『Mr. ノーバディ』(2021年)では、マイホームが戦場になりながらも家族を守るためにロシアンマフィアと死闘を繰り広げている。健気なお父さんの肉弾アクションは共感を呼び、スマッシュヒットに。晴れて、パワーアップした第2弾が制作された。

前作のクライマックスで、ハッチの秘密は家族にバレてしまい、ロシアンマフィアが隠していた札束3000万ドルを調子に乗って燃やしてしまったため、今回はその借金を返済するために休みなく働かせられている。妻のベッカ(コニー・ニールセン)や子どもたちともすれ違いが続き、家庭崩壊寸前となっている。

家族の絆を取り戻すため、ハッチは全員そろってのバケーションに出ることを提案する。父親が家族のために身を削って働いていることを理解するようになった息子も、渋々ながら父親の提案を承諾。高齢者向け施設で暮らしていたハッチの父親・デヴィッド(クリストファー・ロイド)も誘い、一家でリゾート地を目指す。ところが、そこは闇組織を支配する女帝・レンディーナ(シャロン・ストーン)が君臨するヤバい街だった。ハッチは家族を守るために決死の戦いに身を投じる。

続編のテーマは「ワーク・ライフ・バランス」


ジャッキー・チェンばりのスタントに挑んだ主演のボブ・オデンカーク
アクション映画に革新をもたらした『ジョン・ウィック』(2014年)を放ったデヴィッド・リーチ監督が設立した「87ノーズ・プロダクション」の製作だけに、アクションシーンは今回もお見事。かっこいいアクションではなく、痛みが伝わってくるバトルシーンとなっている。働くお父さんは、家を出ると多くの敵と闘っていることを比喩しているのかもしれない。

アクションコメディだった前作に比べ、働き過ぎるハッチが家族と一緒にいる時間の大切さを痛感するホームドラマ色が今回は強くなっている。いわば「ワーク・ライフ・バランス」をモチーフにした続編だ。自民党の新総裁は「全員に馬車馬のように働いてもらう、私自身もワーク・ライフ・バランスという言葉は捨てる」と就任そうそうに発言し、ネット上で波紋を呼んだ。

言うまでもなくなく、仕事のクオリティーを上げるためにも、私生活の充実、安定は欠かせない要素だ。愛する家族からの理解と応援を得たハッチは、前作以上に無敵な存在となっていく。ハッチのことを舐めていると、みんな痛い目に遭うので要注意だ。

笑えて泣ける父娘の物語『ワン・バトル・アフター・アナザー』


レオナルド・ディカプリオがダメ親を演じた『ワン・バトル・アフター・アナザー』
最後に紹介するのは、すでに公開中のポール・トーマス・アンダーソン監督の『ワン・バトル・アフター・アナザー』。レオナルド・ディカプリオ演じる元革命家のパパが、連れ去られた娘を救出するために体を張って戦う物語だ。白人至上主義の変態軍人をショーン・ペン、ディカプリオをサポートする「センセイ」をベニチオ・デル・トロと、共演陣の超豪華さも話題となっている。

石油王の生涯を描いた『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)やカルト教団の教祖を描いた『ザ・マスター』(2012年)など、重量級の問題作を次々と放ってきたポール・トーマス・アンダーソン監督。今回は外国人ヘイトの風潮が強まる世相を背景に、ディカプリオらハリウッドスターたちが繰り広げるコメディタッチのサスペンスアクションに挑んだ。

かつては爆弾を使った革命家だったボブ(レオナルド・ディカプリオ)だが、潜伏生活を送っているうちに体重は増え、アルコール漬け、マリファナ常習のダメダメオヤジとなっている。そんなボブが、ひとり娘のウィラ(チェイス・インフィニティー)が拐われたことから再び暴走を始める。とはいえ、ずっとぐうたら生活を送っていたため、体が気持ちについていかない。しかも、以前所属していた革命組織に応援を頼もうと電話連絡しても、合言葉を忘れてしまい、相手にしてもらえないトホホ状態に陥ってしまう。

そんなダメ父を持ち、母親を知らずに育った娘のウィラは、空手教室を開いているセンセイ(ベニチオ・デル・トロ)のもとで心身を鍛え、タフな少女となっている。ダメ父と賢い娘との凸凹親子ぶりが、おかしさを誘う。

PTAの描く男たちは、みんな偏屈で身勝手?


父親の助けを待っておれず、ウィラ(チェイス・インフィニティー)は単身での逃走を図る
大物俳優たちを相手に堂々たる演技を見せたウィラ役のチェイス・インフィニティーは、オーディションで選ばれた新人女優。彼女のコメントが劇中の親子関係を的確に物語っている。

「(父親の)ボブは完全には正直ではなく、(娘にも)心を開いているわけではない。それがふたりの間に溝が生じている原因だと思う」

ディカプリオ演じる父親のボブは、革命運動に勤しんでいたことや母親と一緒に暮らせない理由を、娘に話すことができずにいた。そのために親子関係が危うい状態になっていたことを、チェイスは理解した上で演じていたわけだ。すべての秘密を打ち明けるかどうかは別にしても、実生活での家族との接し方を考えさせる言葉である。

本作でおかしな親子像を描いた監督のポール・トーマス・アンダーソン(PTA)は、ファッション業界を舞台にした『ファントム・スレッド』(2017年)では服飾デザイナーと彼のミューズとなるモデルとの奇妙な恋愛&夫婦関係を描いている。ダニエル・デイ=ルイス演じる服飾デザイナーはかなりの偏屈で身勝手な性格の男だが、女性から見ればほとんどの男は同じように見えるのではないだろうか。

いろんな夫婦、さまざまな家族の内情を、映画を通して覗くことができる。「隣の芝生」は思っていた以上に、複雑かつ不思議な色合いをしていることが分かるはずだ。

公開作品データ


『ワン・バトル・アフター・アナザー』(原題『One Battle After Another』)
監督・脚本・製作/ポール・トーマス・アンダーソン
出演/レオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロ、レジーナ・ホール、テヤナ・テイラー、チェイス・インフィニティ
配給/ワーナー・ブラザース映画 PG12 10月3日より全国公開中 IMAX®/Dolby Cinema® 同時公開
(c)2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
https://wwws.warnerbros.co.jp/onebattlemovie/index.html


『ローズ家 崖っぷちの夫婦』(原題『The Roses』)
監督/ジェイ・ローチ 脚本/トニー・マクナマラ 原作/ウォーレン・アドラー
出演/オリヴィア・コールマン、ベネディクト・カンバーバッチ、アンディ・サムバーグ、アリソン・ジャネイ、ベリンダ・ブロミロウ、チュティ・ガトゥ、スニータ・マニ、ゾーイ・チャオ、ジェイミー・デメトリウ、ケイト・マッキノン
配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン PG12 10月24日(金)より全国ロードショー
(c)2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
https://www.searchlightpictures.jp/movies/theroses


『Mr. ノーバディ 2』(原題『Nobody2』)
監督/ティモ・ジャヤント 脚本/デレク・コルスタッド and アーロン・ラビン
出演/ボブ・オデンカーク、コニー・ニールセン、ジョン・オーティス、コリン・ハンクス、RZA、クリストファー・ロイド、シャロン・ストーン
配給/東宝東和 10月24日(金)よりロードショー公開
© 2025 Universal Studios. All Rights Reserved.
https://www.universalpictures.jp/micro/mr-nobody2
長野辰次【MWJ映画部】
映画ライター。劇場パンフレットや「キネマ旬報」「映画秘宝」などに寄稿する他、美術系情報サイト「アートアジェンダ」などのネットメディアでも執筆。結婚を考えている人向けの話題作、注目作を紹介します。
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