言葉や文化の壁をひらりと乗り越える話題作『Michael/マイケル』『急に具合が悪くなる』
2026/06/11 更新
マイケル・ジャクソンがスーパースターになるまでを描く『Michael/マイケル』
「キング・オブ・ポップ」ことマイケル・ジャクソンの伝記映画『Michael/マイケル』が2026年4月より北米ほかで公開され、世界興収8億9,790万ドルの大ヒットとなっている。日本では6月12日(金)より公開されるが、フレディ・マーキューリーの生涯を描いた『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)が記録した9億1,100万ドルの世界興収に迫る勢いだ。
2009年6月25日に50歳で亡くなったマイケルの軌跡を、甥のジャファー・ジャクソンがステージパフォーマンスから普段の口調、仕草まで見事なまでに再現してみせた。「ビリー・ジーン」「今夜はビートイット」「スリラー」「バッド」などの大ヒット曲が次々と流れ、マイケルが大ブレイクしていた時代の熱気を感じさせる。
もう一本注目したい映画は、5月に開かれたカンヌ国際映画祭で女優賞を共同受賞したヴィルジニー・エフィラと岡本多緒のダブル主演作『急に具合が悪くなる』(6月19日公開)。西島秀俊と三浦透子の共演作『ドライブ・マイ・カー』(2021年)でアカデミー賞国際映画賞を受賞した濱口竜介監督の最新作となる。
ふたつの映画のそれぞれの見どころと、意外な共通点を掘り下げてみよう。
2009年6月25日に50歳で亡くなったマイケルの軌跡を、甥のジャファー・ジャクソンがステージパフォーマンスから普段の口調、仕草まで見事なまでに再現してみせた。「ビリー・ジーン」「今夜はビートイット」「スリラー」「バッド」などの大ヒット曲が次々と流れ、マイケルが大ブレイクしていた時代の熱気を感じさせる。
もう一本注目したい映画は、5月に開かれたカンヌ国際映画祭で女優賞を共同受賞したヴィルジニー・エフィラと岡本多緒のダブル主演作『急に具合が悪くなる』(6月19日公開)。西島秀俊と三浦透子の共演作『ドライブ・マイ・カー』(2021年)でアカデミー賞国際映画賞を受賞した濱口竜介監督の最新作となる。
ふたつの映画のそれぞれの見どころと、意外な共通点を掘り下げてみよう。
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幼年期からショービジネスの世界で働き始める
「ジャクソン5」として、5歳からステージに立ったマイケル(ジュリアーノ・クルー・ヴァルディ)
マネージャーである父親・ジョセフ(コールマン・ドミンゴ)の厳しい指導に耐え、「ジャクソン5」はモータウン社と契約し、メジャーデビューを果たす。「I Want You Back(帰ってほしいの)」「ABC」「アイル・ビー・ゼア」「ベン」などを次々とヒットさせ、全米の人気者となっていく。
成長したマイケル(ジャファー・ジャクソン)は大物プロデューサーのクインシー・ジョーンズを招き、初のソロアルバム『オフ・ザ・ウォール』を発表。続く『スリラー』『バッド』も記録的なメガヒット作に。ブラックミュージックという枠を超えて、世界的なスーパースターへと変貌を遂げる。
富と名声を得るマイケルだが、自身のルックスを気にして、顔の整形手術に踏み切る。また、父・ジョセフからは「ジャクソン5」としての活動を優先するよう迫られる。家族の絆を守るべきか、表現者としての自由を選ぶかの葛藤に苦しむマイケルだった。CMの撮影中に起きた火事で頭部に大火傷を負うなど、繊細な心を持つマイケルは孤独感を募らせることになる。
音楽ジャンルの壁を取り払い、新時代のアイコンに
「ジャクソン5」だったジャーメインの息子ジャファー・ジャクソンは本作で俳優デビュー
注目すべき点は、マイケルがエンターテイメント史に残した足跡だろう。『スリラー』からシングルカットされた「ビリー・ジーン」は、MTVで初めてヘビロテされた黒人アーティストの曲だった。それまでのMTVが白人のロックミュージシャン中心の編成だったのを、マイケルはその人気で変えてみせた。
ホラー映画好きなマイケルが『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)や『肉の蝋人形』(1953年)、『蝿男の恐怖』(1958年)を自宅のホームシアターで夢中になって観ているシーンも映し出される。マイケルは『狼男アメリカン』(1981年)のジョン・ランディス監督にコンタクトし、ミュージックビデオとしては異例となる13分間のショートフィルムとして「スリラー」を撮影する。音楽とダンスに映像を加え、三位一体のエンターテイメントへと昇華させた先駆者だった。
テレビ中継された「モータウン25周年記念」のステージでは、「ムーンウォーク」を初披露する。ストリートダンスに着想を得た、重力を感じさせないマイケルの滑らかなステップに、番組を見た若者たちは魅了された。マイケルのパフォーマンスが、人種や言葉の違いを軽やかに越えてみせた瞬間だった。
今回は描かれていないが、マイケルが中心的な役割を果たしたチャリティーソング「We Are the World」は、レコード会社の枠だけでなく、民族や国境の壁も乗り越えた画期的なプロジェクトだったと言えるだろう。
スーパースターならではの孤独さ
父親のジョセフ(コールマン・ドミンゴ)は息子たちの才能に気づき、英才教育を施した
チンパンジーのバブルスは登場するが、自伝『ムーンウォーク』(河出書房新社)でマイケル本人が名前を挙げていた女優ブルック・シールズとの交際にも触れていない。現代のショービジネス界は、権利関係が非常にうるさいらしい。
そのため、マイケルとプライベートで接した人物は極端に少なくなっている。マネージャーでもあった父・ジョセフと言葉少なく見守る母・キャサリン(ニア・ロング)の他は、マイケルのボディガードを務めるビリー・プレス(ケイリン・ダレル・ジョーンズ)くらいしかいない。本作のマイケルの姿からは、スーパースターならではの孤独さがひしひしと伝わってくる。
イノセントな心を持ったまま大人になったマイケルは、結局は自分の居場所をステージにしか見つけることができない。大勢のファンの熱気の中で、歌い踊ることだけがマイケルにとって“生”を実感できる場だった。
本作では「聖人」として描かれているマイケルだが、製作が噂されている続編ではスキャンダルに見舞われるキャリア後期がどう描かれるのかも気になるところだ。
パリで運命的に出会うふたりのヒロイン
ヴィルジニー・エフィラと岡本多緒が共演した『急に具合が悪くなる』
そんなマリーは、パリで舞台公演中の演出家の真理(岡本多緒)と出会う。舞台と客席との境界を取り払った、真理の自由な演出はとても魅力的だった。公演を終えた真理を「自由の庭」に誘い、マリーは朝まで語り合うことになる。
言葉や文化の違いを飛び越えたシスターフッドものとして、気持ちよく物語は進んでいく。お互いの過去や悩みも打ち明け、意気投合するマリーと真理。真理には残された時間に限りがあったが、マリーとの出会いを喜び、「自由の庭」で行なうレクリエーションの指導員のひとりとなる。
誰にでも開かれた自由な世界
「ユマニチュード」はコミュニケーションに重きを置いた新しい介護メソッド
真理が演出した舞台は自由さに溢れ、精神医療の世界を描いただけでなく、舞台と客席との境界もなくしてしまう。「不可能」を「可能」にすることをテーマにした作品だ。さらには、介護される側とする側の垣根も取り払っていく。「自由の庭」では介護を受ける側だった高齢者たちが主体的に参加する新しい試みが始まり、今までにはなかった活気が満ちてくる。重い責任感を背負ってきたマリーたち職員の表情も、自然とほころんだものとなる。
フランス語と日本語が交じり、時に聞き慣れない専門用語も出てくるが、多少聞き逃しても気にしなくていいだろう。マリーと真理の間にはゆったりとした時間が流れており、屈託のないふたりのやり取りに身を委ねるだけでも、作品内容は自然と理解できるに違いない。最後には別れも待っているが、湿っぽさがまるでないのもいい。
今回紹介した『マイケル』『急に具合が悪くなる』は、言葉や文化の違いを軽やかに乗り越えて楽しむ自由さがある。スクリーンの世界へと想像力を羽ばたかせる心地よさこそ、映画という表現の醍醐味ではないだろうか。
文=長野辰次
作品データ
監督/アントワーン・フークア 脚本/ジョン・ローガン
出演/ジャファー・ジャクソン、ジュリアーノ・クルー・ヴァルディ、コールマン・ドミンゴ、ニア・ロング、ケンドリック・サンプソン、マイルズ・テラー、ローラ・ハリアー
配給/キノフィルムズ 6月12日(金)より全国公開
Ⓡ, TM & ⓒ 2026 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
https://www.michael-movie.jp/
『急に具合が悪くなる』
原作/宮野真生子・磯野真穂
監督/濱口竜介 脚本/濱口竜介、ルディムナ玲亜 撮影/アラン・ギシャウア
出演/ヴィルジニー・エフィラ、岡本多緒、長塚京三、黒崎煌代
配給/ビターズ・エンド 6月19日(金)より全国ロードショー
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https://www.bitters.co.jp/soudain/
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