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レディー・ガガとホワキンが共演 『ジョーカー2』 危険なラブロマンスの落とし所はいかに?

2024/10/08 更新
映画史上、もっとも危険なラブストーリーと呼びたい。凶悪犯として逮捕されたジョーカーことアーサーは、収監先の精神病棟で謎めいた女性・リーと運命的に出会い、そして恋に堕ちていく。ずっと孤独な人生を歩んできたアーサーの世界は、恋愛体験によって一変することになる。

ホワキン・フェニックスとレディー・ガガが共演した『ジョーカー フォリ・ア・ドゥ』(以下『ジョーカー2』)が、いよいよ10月11日(金)より劇場公開される。はたして、この危険な恋愛に身を委ねることによって、アーサーは最悪な人生から救われるのだろうか。また、アーサーに近づくリーは何者なのか? レディー・ガガとホワキンとの歌唱シーンも大いに盛り込まれ、見どころの多い上映時間138分となっている。
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生きる希望を失ったアーサーの新しい出会い


ホワキン・フェニックスは前作でアカデミー賞主演男優賞を受賞
前作『ジョーカー』(2019年)を、まずはざっと振り返っておこう。アーサー・フレック(ホワキン・フェニックス)は派遣ピエロとして働き、認知症ぎみの母親の介護をしながら慎ましい生活を送っていた。人気コメディアンのマレー(ロバート・デニーロ)に憧れ、いつかは自分も一流のコメディアンになることを夢見るアーサーだった。

緊張すると笑いが止まらなくなる神経症を患っているアーサーは、市の福祉サービスであるカウンセリングに通い、精神安定剤をもらっていた。だが、福祉予算は削減され、カウンセリングと薬を打ち切られてしまう。さらには勤務中のトラブルが原因で、派遣ピエロの仕事は解雇されるはめに。悩みを相談できる友人も恋人もいないアーサーは、精神的に追い詰められていく。生きる希望だった「コメディアンになる」という夢さえも踏み躙られ、アーサーは凶悪ピエロのジョーカーへと変貌する。

酒に酔って狼藉を働くエリートサラリーマンたちを射殺したアーサーは、その後も犯行を重ね、警察に逮捕されることに。だが、街の人々はアーサーのことを「市民の怒りを代弁したヒーローだ」と称えた。そして、一連の事件から2年後。アーカム・アサイラム(刑務所)と裁判所を舞台に、レディー・ガガ演じるリーとの「フォリ・ア・ドゥ」(フランス語で『ふたり狂い』の意味)が始まる。

どこにも居場所のない似たもの同士


リー(レディー・ガガ)との出会いが、アーサーの運命を大きく変えることに
収監されていたアーサーは、ぼんやりした日々を送っていた。看守らに小突かれ、バカにされても、薄いリアクションしかしない。地下鉄駅近くの階段で、ジョーカーメイクで踊っていた前作では超人オーラを放っていたが、痩せ細ったアーサーは別人のようにしょぼくれていた。

裁判では、5人(母親も含めれば6人)を殺害したアーサーに責任能力があったかが判決の争点になりそうだった。アーサーが精神面で問題があるのかどうか、専門医が分析することになる。精神病棟に向かったアーサーは、そこでリー(レディー・ガガ)と出会うことに。目と目が合った瞬間から、お互いに惹かれるものを感じる2人だった。

その後も精神病棟で、アーサーとリーは逢瀬を重ねていく。リーはアーサーのことをよく知っていた。アーサーを主人公にした再現ドラマを20回は見たという。リーも家庭に居場所がなく、親から精神病棟に押し込められたと身の上を語る。誰からも愛されない、似たもの同士の2人だった。恋に堕ちるのはすぐだった。

ドラマを盛り上げるバカラックの名曲


リーとアーサーは2人だけの世界に陶酔していく
ずっと孤独だったアーサーは、前作ではアパートの隣に暮らすシングルマザーのソフィー(ザジー・ビーツ)を恋人だと妄想していたが、ようやく本当の恋人ができたのだ。獄中にいながらアーサーの人生はバラ色に染まっていく。リーとの面会時間は、2人だけの夢の世界だ。ミュージカル劇の主人公のように、ラブバラードを歌い上げるアーサーとリーだった。

トッド・フィリップス監督が前作に続いて、脚本&監督を務めている。前作が世界興収10億ドル越えの大ヒットになったことから、セットは超ゴージャスになった。また、フィリップス監督は『アリー/スター誕生』(2018年)のプロデューサーでもあり、レディー・ガガが女優として高い評価を得ることに貢献している。フィリップス監督の期待に応え、ガガはリー役を演じながら見事な歌唱力を披露している。ホワキンもジョーカーメイクで、一流のエンターテイナーぶりを発揮している。ミュージカルパートだけでも、充分に見応えがある。

予告編にも流れているが、名曲ぞろいの挿入曲の中でより印象に残るのは、バート・バカラック作曲、ハル・デヴィッド作詞による1965年のヒット曲「What The World Needs Now Is Love」だ。映画『明日に向かって撃て!』(1969年)の主題歌「雨にぬれても」でも知られる名コンビが放ったこの曲は、「世界が求めているもの、それはささやかな愛」という歌詞内容。ロバート・ケネディ司法長官暗殺のニュースが報じられた1968年6月5日、米国のラジオ局はずっとこの曲を流し続けたと言われている。そう、アーサーが求めていたものは、裕福な暮らしでも、コメディアンとしての名声でもなかった。ささやかな愛が欲しかっただけなのだ。

リーという理解者を得て、アーサーは自信満々で法廷へと臨む。ジョーカーメイクで、みずから自身の弁護をすることになる。本作の冒頭で見せていた弱々しい姿のアーサーとは、まったくの別人となっている。傍聴席には、同じようにピエロメイクしたリーの姿もあった。

時間の経過と共に関係性が変わっていく恋人たち


アーサーの影響を受けて、リーも過激に変身していく
報道で頻繁に流れる凶悪犯に関心を持ち、支援活動をしていくうちに恋愛感情が芽生え、獄中結婚に至るという事例は実際に少なくない。世間から非難される危険な恋愛のほうが、当事者たちを熱く燃え上がらせるのだろう。小池栄子が女優としての評価を高めた、豊川悦司との共演作『接吻』(2008年)も獄中結婚を題材にしているので関心のある方にお勧めしたい。本作に通じるものがあると思う。

どこまでも熱く高揚していくアーサーとリーとの危険な恋愛だが、どんな着地を見せるのだろうか。フェロモンを感じ取った身体にアドレナリンが走り、高揚した状態が恋愛感情だと医学的には言われている。一定の期間が過ぎると、フェロモンもアドレナリンも減少し、感情は次第に落ち着くことになる。どんなに熱い恋愛も、いつかはお互いに冷めた感情を持つようになる。

多くのカップルは、恋愛感情が完全に冷めきる前に婚約し、家庭を持つことを選ぶ。そして結婚することで、恋人という一時的な関係性から家族という永続的な間柄へと変わっていく。恋愛感情とは異なる信頼関係を結ぶことになる。過激な愛を貫こうとするアーサーとリーが、最終的にどんな決断を下すのか注目したい。

恋愛の始まりから終わりまでを描いたドラマ


リーが愛していたのは、アーサーではなくジョーカーだった…
『ジョーカー2』の結末については控えるが、リーが愛していたのは実はアーサーではなく、メイク姿のジョーカーであることが映画後半で明かされる。アーサーの裏の顔であるジョーカーを、リーは愛していたのだ。愛する恋人は、自分のすべてを受け入れてくれていると思っていたアーサーは、そのことを見落としていた。狂おしい恋に堕ちた2人だが、お互いに求めていたものにはズレがあった。このズレが映画後半のキーポイントとなっていく。

激しい恋愛ほど、冷静になった際に現実のシビアさを痛感することになる。ジョーカーというアメコミ世界のキャラクターを使ったフィクションの物語ながら、恋愛の始まりから終わりまでをリアリティを持って描いたドラマとなっている。

最後にジョーカーにちなんだ短編小説を紹介したい。時代をこえたロングセラー小説『キャッチャー・イン・ザ・ライ』で知られるJ・D・サリンジャーの短編集『ナイン・ストーリーズ』に収録された『笑い男』だ。ジョーカーの元ネタとなった、ヴィクトル・ユーゴーの古典小説『笑い男』をめぐるエピソードである。子どもの頃に盗賊団によって顔を歪められ、素顔を仮面で隠すようになった義賊「笑い男」の冒険談が、恋する男女の物語の中で劇中劇として語られている。恋の行方が「笑い男」の運命も左右することになる。

この短編小説を読み返すたびに、恋愛は人間を生かす万能薬にもなれば、命すら奪いかねない劇薬にもなることを思い知らされる。恋の行方をコントロールすることはとても難しい。それゆえに尊いものなのではないだろうか。

映画『ジョーカー2』作品情報


『ジョーカー フォリ・ア・ドゥ』
監督・脚本・製作/トッド・フィリップス 音楽/ヒドゥル・グドナドッティル 
出演/ホワキン・フェニックス、レディー・ガガ、ブレンダン・グリーソン、キャサリン・キーナー、ザジー・ビーツほか
配給/ワーナー・ブラザース映画 PG12 10月11日(金)より全国劇場公開 
(c) & TM DC (c) 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

https://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/
長野辰次【MWJ映画部】
映画ライター。劇場パンフレットや「キネマ旬報」「映画秘宝」などに寄稿する他、美術系情報サイト「アートアジェンダ」などのネットメディアでも執筆。結婚を考えている人向けの話題作、注目作を紹介します。
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