盆踊りが婚活パーティ 民俗学からみる日本の結婚文化

まじめ ピックアップ 結婚式ルール・マナー

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ライターの山本莉会です。

皆さん、かつて日本の多くの地域では「結婚しても女性は夫の家に入らず、自分の実家で暮らしていた」ってご存知ですか? ドラマの見すぎで「夫の家に嫁ぐと、もれなく嫁姑戦争が待ち受けている」と思い込んでいた私にとって天国の話かと思えて仕方ないのですが、実はこの形式が庶民の間ではポピュラーな形だったのだとか。

それってどこの地域? 夫はそれで良かったの? 実母がずっと飯炊きしてくれたってこと? つまり結婚後も遊んで暮らせたってこと? など、聞きたいことがありすぎるので、民俗学の教授に会いにいきました。

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佛教大学民俗学教授・八木透先生。『図解雑学シリーズ こんなに面白い民俗学』(ナツメ社)の編著も務めたすごい方。



庶民の女性は「結婚しても実家暮らし」!

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f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「先生、かつての日本女性は、結婚しても夫の家に入らず実家暮らしができたと聞いたんですけど」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「そうですね。古い時代には、結婚しても奥さんはしばらく自分の実家にとどまって、夫が毎晩妻の家に通う『妻問婚(つまどいこん)』が主流でした。もともと、日本の伝統的な婚姻の形はこの妻問婚なんです」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「やっぱり、結婚しても実家から出なくていいんですか......!」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「主に農村や漁村などで顕著に見られた例なのですが、そういった地域では女性も貴重な労働力だったんです。妻問婚だと、3年、長い場合は10年、結婚しても実家から出なかったですよ」

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f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「え、ちょっと待ってください。仮に20歳で結婚したとしたら、30歳になるまで家から出なかったってことですか?」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「女性の労働力の価値が高いところは、比較的長く実家にとどまった傾向があります。たとえば、伊勢志摩。女性は海女で重要な稼ぎ頭です。一方男性は、船の上で海女の手綱を握っているだけ」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「男めちゃくちゃ楽そうに聞こえますね」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「そういう場所での女性の労働力は非常に大きいですよね。子どもが2~3人生まれても自分の実家にとどまったそうです」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「結婚したからといって、重要な稼ぎ頭を外へ出すわけにはいかないということか」

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f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「その後、江戸時代になると、日本は武家社会の影響を受けて家父長制になりました。男性社会になると、結婚と同時に女性が嫁として旦那の実家に組み込まれる『嫁入婚』に移り変わっていったというのが、民俗学の定説です」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「結婚と同時に夫の実家へ嫁ぐスタイルは、武家社会の浸透によるものだったんですね」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「ちなみに、妻問婚では『初婿入り』という儀式がありました。これは庶民が『嫁入婚』になっても残った風習なのですが、いわば男性が女性の親に結婚を認めてもらうための儀礼です。今でも同じことやっていて、プロポーズをするなどして当人同士で結婚が決まった後、女性の親にあいさつへ伺っていますよね」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「『娘さんを僕にください』的なやつですね! あれって、妻問婚の名残だったんですね」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「武家社会の嫁入婚の場合、両者の結婚を決定するのは親です。なので、嫁の親の承諾を取りに行く必要はなかったのですが、庶民は違いますからね。家父長制になり、結婚と同時に女性が夫の家に入るようになっても、お嫁さんの両親に結婚を認めてもらいに行かなければいけなかったんです」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「よりによって残ったのがあいさつのスタイルだけ。妻問婚が残ってほしかったです」



娘が夜這いされても親は気づかないふりをする

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f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「地域によって結婚までのプロセスも違ったとか。お見合いが盛んだった地域もあれば、恋愛結婚が主流だった地域もあったそうですね。私、大阪出身なんですけど、大阪の人は、どんなプロセスを経て結婚していたんですか?」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「盆踊りで仲良くなって、セックスして結婚する流れが多いですね」

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えっ......。

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「大阪に限らず、盆踊りの文化があった地域によく見られるのですが、盆踊りは結婚相手を見つける絶好の機会だったんです」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「婚活パーティのノリだったのか」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「このころの盆踊りというのは、自分のところの盆踊りだけでなく、隣町の盆踊りにも出かけて三日三晩踊り続けるというものなんですけど」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「ハードすぎる」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「その盆踊りの期間だけ村の若い男女が連れだって遊ぶことが許されたんです。隣村の盆踊りに出かける際は、男女でグループになって三つ四つの村を回るのですが、夜道を男女で連れだって歩くわけですから」

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そんなん、恋心生まれるに決まってるじゃないですか。

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「先生......」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「そして、仲良くなったら夜這いするんです。女性は実家に住んでいますが、親は夜這いされていることに気づいても、気づかないふりをするという」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「故郷の貞操観念が心配です」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「盆踊りの期間だけ、極端なことを言えばフリーセックスが許されたんです。明治・大正くらいまでですかね」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「それってたとえば、隣村の盆踊りで、隣村の女の子に出会って恋に落ちることもあったんですか? 隣の高校の文化祭に出かけていい感じの人見つけた的な」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「それは、ダメです」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「え、ダメ......?」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「隣の村の女の子に手を出したら、その村の男の子たちが許さないですね。逃げないと殺されるようなことですよ」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「なんか、盆踊りなのにロミオとジュリエットみたい」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「大阪では、気に入った女の子が他の男に横取りされないように、補足料として品物(しるし)を渡していました。この品物を受け取ったら、結婚が確定します。現代で言う結納品のようなものですね。これは他の地域でも見られました」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「結納って言うと素敵に聞こえるけど、その意味が補足料って......」



名古屋の結婚式が豪勢な理由は?

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f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「『初婿入り=親に結婚を許してもらうためのあいさつ』や『しるし=結納品』など、現代にも残る文化っていろいろあるんだなと思ったのですが、他にはどんなものがあるんですか?」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「富山県や名古屋には、『ウッチャゲ』という文化があり、嫁の親にあいさつへ伺う『初婿入り』が、この地域では『どんなクズな男性でも盛大にごちそうを用意し、お金を使って祝わないといけない』とされていました。その名残は、それぞれの地域で『結婚式でお金を使う』という形で残っていますよね」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「だから名古屋の結婚式はめっちゃ豪華なイメージがあるんですね」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「なぜその地域だけそうなのかはっきり分かっていないのですが、どちらも大大名が納めていた地域ですよね。強力な大名が支配していた城下町、という共通点があるので、もしかすると男性が奉られる傾向があったのかもしれません」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「娘のもとにクズな男が来た上、盛大にもてなさないといけない親としては、つらさも倍増でしょうね」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「他には、伊豆諸島、伊勢志摩、瀬戸内海の島も広い範囲などで『隠居』という慣行がありました。長男と婚姻した場合、だいたい2~3年は夫が妻のもとへ通います。その間に長男の親は、自分たちの家の敷地内に一間か二間くらいの小さな離れを建てるんです。完成すると、その離れに親が入って、母屋を譲ってくれるという。この離れを建てて別居する『隠居』という形は、八丈島をはじめ伊豆諸島の島では、今でも傾向として残っています」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「何それ! 私移住します!」

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f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「いいでしょ? しかも、台所も別。本当の意味で、夫婦で母屋を独占できるんです。そして昔のことなので、妹や弟が大勢います。長男が結婚しても、まだ弟妹たちは10代かそれ以下です。舅姑は、その子たちを引き連れて隠居屋に行ってくれるんです」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain「ありがたすぎる...! ありがたすぎて逆に怖いのですが、なんでそこまでしてくれるんですか?」

f:id:katsuse_m:20160824070557j:plain「嫁姑の確執を避けるためでは、と私は考えています。一番大事なのは、台所を分けることですよね。台所を分けないと、何かともめますからね」

f:id:katsuse_m:20160824070359j:plain先生、嫁経験者みたいです



まとめ

親同士が決めた許嫁がおり、ある年齢が来ると夫の実家に嫁入りして姑にいびられる......というのが日本の伝統的な婚姻と思いきや、全くそんなことありませんでした。日本には妻問婚や隠居など、今では考えられない婚姻の形があったようです。

仕事の都合などで「遠距離結婚」になったり、生活スタイルが合わず「別居婚」を選択したりすることも、現代ではそう珍しくありません。もしかするとこれが今後の主流になる可能性だってあることを考えると、親世代と同じ一婚姻の形式にとらわれることなく、自分たちのライフスタイルに合わせて結婚の形を変えることも重要なのかもなぁ~と思いました。




【書いた人】

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山本莉会(やまもとりえ)
プレスラボ所属のライター/編集者。





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