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【前編】パリ五輪開記念 クセの強さにハマる!様々な愛の形を描くフランス映画傑作選

2024/07/24 更新
イラスト:倉本トルル
2024年7月26日(金)より、パリ五輪&パラリンピックが開催される。フランスの首都・パリでオリンピックが開かれるのは、1924年の「第8回オリンピック大会」以来となる100年ぶり。パリを中心に多彩な競技が繰り広げられるこの機会に、フランス文化を濃厚に感じさせるフランス映画の名作&話題作を紹介しよう。

 フランス映画には大きな特徴がある。巨大資本で製作される米国のハリウッド映画が万人向けの娯楽作品を中心としているのに対し、フランス映画は監督の作家性を強く感じさせ、ひと捻りふた捻りしたユニークな作品が多いという点だ。

 恋愛映画にしても、常識に捉われない多様な愛の形が描かれている。クセは強いが、その分だけ観る者に強烈なインパクトを与えるのがフランス映画だ。世界で最も長い歴史を持つフランス映画の中から、今回は21世紀以降の作品に限定してセレクトしてみた。

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空想好きガールの恋愛物語『アメリ』


©2001 ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
最初に紹介するのは、ジャン=ピエール・ジュネ監督の『アメリ』(2001年)。大きな瞳が印象的な主演女優のオドレイ・トトゥは、本作のヒットで一躍人気女優に。日本でもミニシアター系の公開ながら興収16億円の大ヒットとなり、ミニシアターブームを巻き起こした。人付き合いが苦手な女の子アメリが、片想いの相手に自分の気持ちを素直に伝えるまでを描いた恋愛ストーリーとなっている。

 パリの下町・モンパルナスを舞台にしたお洒落な恋愛コメディなのだが、登場するのは変わり者ばかり。主人公のアメリ(オドレイ・トトゥ)は、相手が気づかれないようにこっそりとイタズラするのが趣味。そんなアメリが想いを寄せる若者・ニノ(マチュー・カソヴィッツ)は、証明写真ボックスに捨てられた写真をコレクションしているというかなりの変わり者。他にも人の部屋を覗き見している老絵描き、梱包用シートのプチプチを潰すのがやめられない録音魔などなど。

 作品内でアメリが働いているのは、モンパルナスに実在する「カフェ・デ・ドゥ・ムーラン」。ノートルダム大聖堂で幼少期に衝撃的な体験をしたアメリは、いい感じの石を拾ってはサンマルタン運河で水切りをして遊び、モンパルナスの丘ではパリの街を見渡しながら「この瞬間、何人がオーガズムに達しているのだろう」と妄想し……と、どのシーンもインスタ映えしそうなスポットばかり。パリならではのお洒落さと変わり者たちの放つ毒気が織り混ざり、独特な香りをこの映画は放っている。

 凝りに凝った映像で知られるジュネ監督は、ハリウッドに召喚され、SF大作『エイリアン4』(1997年)を撮り上げるも、商業的なハリウッドの製作スタイルに疲弊して帰国。気の合うスタッフたちと一緒に、自分の好きなものだけを集めて作り上げたこだわりの世界が『アメリ』だった。ブラックユーモアを愛するジュネ監督ならではの、多種多様な人間標本箱だと言っていい。

 ジュリア・ロバーツ主演映画としてハリウッドリメイクされる企画も一時期あったようだが、幸いなことに実現していない。ハリウッドリメイクが容易にできないところも、いかにもフランス映画らしい。

フランソワ・オゾンが捧ぐ女性讃歌『8人の女たち』


©2002 ジェネオン エンタテインメント
フランソワ・オゾン監督が8人の人気女優たちを起用した『8人の女たち』(2002年)も、愛すべきフランス映画だ。『シェルブールの雨傘』(1964年)のカトリーヌ・ドヌーヴ、『隣の女』(1981年)のファニー・アルダン、『美しき諍い女』(1991年)のエマニュエル・ベアールら豪華女優陣が競演。クリスマス休暇を迎えた豪邸で、主人が何者かに殺害されるという事件が発生。豪邸にいる8人の女たちの中に、犯人がいるというミステリー仕立ての作品となっている。

 一家の主人が殺されたことに驚き、嘆く女たちだったが、物語が進むにつれ、ドヌーヴ演じる妻は浮気しており、ファニー・アルダン演じる義妹は借金を抱えていたりと、それぞれ殺人の動機があったことが浮かび上がっていく。女たちのしたたかさ、不貞ぶりが明らかになっていくが、オゾン監督はそんな女たちの影や毒の部分さえも、魅力として捉えている。

 ドヌーヴは『終電車』(1980年)で、ファニー・アルダンは『隣の女』と『日曜日が待ち遠しい!』(1983年)で、フランス映画界の“名匠”フランソワ・トリュフォー監督とコラボしており、共にトリュフォー監督との交際歴を持つ。貫禄たっぷりなドヌーヴとアルダンが火花を散らし合うシーンには、フランス映画史の裏側を覗くような面白さがある。

 女優たちにそれぞれ歌唱シーンがあるのも、大きな見どころ。決してうまくない歌と踊りだが、そんなヘタウマ加減が、彼女たちをよりチャーミングに感じさせる。フランスには「シャンソン」という歌曲の歴史があり、フランスの俳優たちは自分の人生や恋愛遍歴を歌に託して語ってきた伝統がある。人生の重みを感じさせながらも、華やかに歌い上げてみせる女優たちの姿は、まさにフランス映画そのものだろう。

 ゲイであることをカミングアウトしているオゾン監督だが、本作からは8人の女優たちとフランス映画への深い愛情を感じさせる。

最愛のカップルに訪れた最悪の悲劇『アレックス』


©2002 KADOKAWA / 角川書店
カンヌ国際映画祭で上映され、途中退場者が続出した問題作となったのは、ギャスパー・ノエ監督の『アレックス』(2002年)。フランスの人気男優であるヴァンサン・カッセルと「イタリアの至宝」と称される美人女優モニカ・ベルッチとの共演作だ。相思相愛の恋人たちが、最悪の事態を迎えてしまう悲劇を、時系列を現在から過去へと巻き戻して見せていく。

 映画は逆回転するエンドロールから始まり、場末のゲイクラブで殺人事件が起きた様子を最初に映し出す。現行犯として逮捕されたのは、ゲイクラブに初めて足を踏み入れたマルキュス(ヴァンサン・カッセル)と友人のピエールだった。亡くなった男は顔面をめちゃくちゃに殴打されていた。

 映画はこの事件がなぜ起きたのかを、時間を遡っていくことで明らかにしていく。マルキュスには、アレックス(モニカ・ベルッチ)という美しい恋人がいた。しかし、マルキュスは一緒に出掛けたパーティでアレックスと口論となり、彼女をひとりで帰してしまう。

 夜道を歩いていたアレックスは暴漢に襲われ、レイプされた挙句に美しい顔をぐしゃぐしゃにされてしまう。マルキュスが駆けつけたときには、血みどろ状態のアレックスが救急車で運ばれるところだった。怒り狂ったマルキュスは、復讐のために夜のパリを走り回り、暴漢を探し出す。

 時間はさらに巻き戻り、マルキュスとアレックスがベッドで愛し合う様子が描かれる。アレックスは妊娠し、マルキュスはもうすぐ父親になるはずだった。そんな幸せの絶頂から、マルキュスは最愛の恋人が重傷を負っただけでなく、怒りと憎しみに任せて人生そのものまで破滅させてしまうどん底に堕ちてしまう。どんなに幸せなカップルも、ささいな過ちからすべてを失いかねないという現実味のある恐怖が『アレックス』では描かれている。

 俳優たちの演技がリアルなため、非常に生々しい暴力シーンになっており、日本ではR18指定となった。観る人を選ぶ作品だが、撮影当時は実際に結婚していたベルッチとカッセルが愛し合う姿はとても美しい。

 愛し合う恋人たちが輝けば輝くほど、映画とちがって人生は決して巻き戻すことはできないというシビアな現実を思い知らされる。ご覧のみなさんは、後悔のない人生を送ってください。

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長野辰次【MWJ映画部】
映画ライター。劇場パンフレットや「キネマ旬報」「映画秘宝」などに寄稿する他、美術系情報サイト「アートアジェンダ」などのネットメディアでも執筆。結婚を考えている人向けの話題作、注目作を紹介します。
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