こんにちは、ライターの井上こんです。
「恋は人を盲目にするが、結婚は視力を戻してくれる」とは、ドイツの科学者・リヒテンブルクの言葉。
そんなレーシックみたいなことあってたまるかと思いますが、もし私の旦那がFacebookあたりにこれを書き込み、続々と増える男性陣からの「いいね!」にご満悦な表情でも浮かべようものなら、社会の検索窓に「旦那 罰」と打ち込む準備はできています。ただ、現実にはそんな旦那もいないわけで。
さて、今回のテーマは「結婚式前夜×日本酒」。一世一代の晴れ舞台の前夜に、誰と、どんな日本酒を飲むべきなのか、日本酒のソムリエと言われる「利き酒師」のさらに上位資格「酒匠(さかしょう)」の資格保持者である山口奈緒子さんに「結婚式前夜に飲みたい日本酒」についてお話をうかがいました。
【山口奈緒子さんプロフィール】
1990年生まれ。日本酒との出会いは大学生のとき。20歳で利き酒師、23歳で世界で250人しかいない酒匠の資格を取得。現在は、最年少酒匠として日本酒の魅力を伝えるべく最前線で活動する。
日本酒に目覚めたきっかけは、高級和食店のアルバイト
「今日はよろしくお願いします! 女性酒匠ならではの視点で、おすすめの日本酒を教えていただければと思います」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「まずは、山口さんと日本酒との出会いを教えてください」
「きっかけは大学生のときに始めたアルバイトでした。高級和食店だったので、入ってしばらくはホールに出してもらえなくてずっとお皿洗いや雑用ばかりしていたのですが、だんだんそれが悔しくなって。そこで『ここは日本酒のお店だから日本酒を勉強すればいいんだ』と勉強し始めました」
「そこで覚醒された、と」
「勉強してみると、文化も素敵だし、味もおいしいし、日本酒って良いものだなと感じられるようになりましたね。私の世代だと日本酒の良さを知ってる人がまだ少ないので、その魅力を伝えられたらいいなと思っています」
「たしかに、20代前半のころってまだ日本酒の良さに気がつきにくいですよね。大学のサークルで容量重視で飲んで嫌な思い出が残ったり」
「そうみたいですね(笑)」
日本酒はどんな場面で誰と飲むかが大事
「普段は何を基準に日本酒を選びますか?」
「プライベートなら一杯目はさっぱり、そこからだんだんと味の濃いものに変えて、料理に合わせて銘柄を変えています。日本酒にも一種の公式があるんですよ。シチュエーションに合わせるときは、背景や雰囲気、銘柄名など外的要因を意識します。結局のところ、日本酒って楽しければなんでもおいしくなると思うんですよね。雰囲気が味を決めるというか」
「たしかに。いい思い出だとそのときのお酒もおいしかった気になります」
「そうそう。具体的な味より、どんな場面で誰と飲んだかの方が大事だと思います」
「それを聞いて安心しました。実は、山口さんが『知識なきもの飲むべからず!』なタイプだったらどうしようと思ってたんです(笑)」
「あはは。『なんかおいしかったよね~』くらいでいいんじゃないでしょうか」
世界最年少酒匠が個人的に注目しているお酒
「話は変わりますが、いま個人的に注目しているお酒を教えてください」
「福井県にある毛利酒造の『紗利(さり)』がすごく気に入っています。味はもちろん、蔵の方の温かさが伝わってくるお酒です」
「なるほど、山口さんは蔵元さんの酒造りに対する姿勢もご存知ですもんね」
「そうなんです。初めて飲んだとき、その味に感動してブログに書いたら、それを読んだ蔵元さんがわざわざ連絡してくれて。今でもお付き合いさせていただいています」
「蔵元さんにとっても、山口さんのような若い世代の日本酒のプロに発信してもらう機会は貴重ですよね。『紗利』のどんなところがお気に入りですか?」
「香り、初めに口に入れた印象、飲みこむときの味わい、この3つがそれぞれ異なるのに全体がまとまっているところですね。一度で三度おいしいんです。日本酒をテイスティングするときってまず香りから入るのですが、多くは香りから味が想像できちゃうんですね。『こういう香りだからこういう味だよな』と。だから『紗利』には驚かされましたね」
「3つバラバラのはずなのに、しっかり完成しているって確かに不思議。飲んでみたくなります......!
ちなみに今回は、『結婚式前夜』というシチュエーションに合った日本酒を教えていただきたいのですが、『紗利』はその中にも入るんですか?」
「いえ! 入りません! ちゃんと『結婚式前夜』らしい日本酒を別にセレクトしてきましたので、そちらを紹介したいと思います」
「ぜひ、お願いします!」
1.「結(ゆい)」(結城酒造・茨城県)
結(ゆい) 特別醸造酒吟タイプ うすにごり生原酒 720ml (価格にクール便代+宅配便箱代150円含む)
- 出版社/メーカー: 結城酒造
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「まずは結城酒造の『結(ゆい)』を紹介します」
「名前が素敵! まさに結婚って感じですね」
「結婚=家族と家族を結ぶものだと思うので、まずこれを選びました。この蔵元さんは女性の杜氏(酒造り職人)ならではのきめ細やかな心配りがあって......たとえば、この『結』という漢字をモチーフにしたラベルもかわいいですよね」
「ほんとだ、おしゃれ!」
「私なら和装の式の前夜に両家が集まって静かに飲みたいですね。めでたい場なのだけど、少ししんみりもしつつ......」
「さだまさしの世界観ですね」
「さだ......まさし......渋すぎません......?」
2.「亀泉cel-24(かめいずみ セル24)」(亀泉酒造・高知県)
- 出版社/メーカー: 亀泉酒造
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「続いて『亀泉(かめいずみ)』です。まず亀という名前がポイントです。日本酒には亀や鶴といった縁起のいい漢字がよく用いられるんですよ。亀は夫婦円満の象 徴でもありますしぴったりかなと。味はジュースのように飲みやすくて全然日本酒っぽくないですね。実は、このお酒の甘酸っぱさと私が持つ新婚のイメージが ぴったり合うんですよね。ほら、新婚って気持ちが弾んで軽やかな感じがするじゃないですか(笑)」
「甘酸っぱい感情とか、昔のことすぎて忘れました」
「うーん、果実みたいにみずみずしい感じ? って、変態みたいでごめんなさい!」
「そういうの、どんどんください! つまり、浮かれてる二人にぴったりということですね。ということは、式前夜は二人で過ごすイメージですか?」
「はい。パートナーと二人できゃっきゃっしながら飲みたいですね」
「ふむふむ、場所は?」
「ずばり、新居ですね。狭いけれどきれいなアパートのダイニングで、ちょっと高めのバーテーブルで飲むイメージです。ちなみに、日本酒には寝かせて飲んだ方がいいタイプと早く飲んだ方がいいタイプがあるのですが、この『亀泉』はすぐに飲むのがおすすめです」
「亀泉も新婚さんもできたてほやほやが一番ってことですね(笑)」
「そうそう(笑)」
3.「満寿泉(ますいずみ)ゴールド寿」(桝田酒造店・富山県)
- 出版社/メーカー: 枡田酒造
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「次は、『満寿泉(ますいずみ)』です」
「あれ、そういえば「泉」という字がつく銘柄も多いですよね」
「日本酒作りには大量に水を使うからだと思います」
「仕込み水以外にも?」
「はい。道具や瓶の洗浄にも同じ水を使います。とにかく大量に使うので、水が豊富にある地という意味で泉がつくようです。『満寿泉』のゴールドラベルはお祝いに重宝されていて、大吟醸なのでさらっと飲めます。誰が飲んでもおいしいと感じられる、そんな王道タイプですね」
「じゃあ、しっぽり飲むというよりは大勢で飲むようなイメージですかね。お酒でご機嫌モードになった親戚のおじさんが『ちょっと前までこんなに小さかったのになー』とはしゃいだり」
「そうそう。お祝いの場っていろんな人が集まるところなので、クセの強いものよりみんなが飲めるような華やかなお酒がいいですよね。ホテルにある『~~の間』みたいなところで、足の長いグラスで乾杯しながらワイワイと。私もできれば結婚式前夜は家族や親戚と飲みたいので、これを選ぶかも」
4.「達磨正宗(だるままさむね)」(白木恒助商店・岐阜県)
- 出版社/メーカー: 白木恒介商店
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「続いて紹介するのは、『達磨正宗(だるままさむね)』です! これは熟成酒なので今までとは全然違うタイプです。この蔵元さんにはヴィンテージボトルがたくさんあり、生まれ年の日本酒を飲めると人気ですよ。これは父親と娘で飲んでほしいですね」
「待ってました! その組み合わせ!」
「娘は大学進学をきっかけに地方から東京に行き、そこで出会った同級生と結婚するんです。相手は......まぁ普通のサラリーマンですね。父親は結婚に反対こそしてないけれど、娘の顔を見ると思わず涙がこぼれそうになりそれをこらえる......、という親の心境にぴったりかなと」
「すごくいい! しかも、舞台が雪国とかだったらなおよしです。窓の外では雪がしんしんと降っていて、それを見ながら『向こうのご両親とうまくやるんだぞ』ってお父さんつぶやいちゃうの」
「うんうん」
「で、娘も小さな声で『......うん』みたいな。そうしたら、お父さんが『実は、お前が生まれたときにこのボトル......』とか言いながら押入れからゴソゴソ出してきて。ちょっと待って、このストーリー最高じゃないですか?」
「ついにこれを出す日が来たか、みたいな! いいですよね」
5.「ほだれ酒」(越の鶴・新潟県)
- 出版社/メーカー: 越銘醸
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「最後にご紹介するのは、『ほだれ酒』です」
「(ラベルを見ながら)えーと、山口さん。もしもーし......?」
「真面目に選びましたよ? 女性の私が紹介するのも恥ずかしいのですが......個人的にこれから来るかも? と目を付けている蔵元さんのお酒です。まぁ、ちょっと変わったラベルですよね(笑)」
「私は山口さんの新たな顔が見れてうれしいですけど、大丈夫ですか、これ(笑)」
「ラベルはこんな感じですが、子宝祈願のお酒として結婚祝いにもよく使われます。味はすっきりしていて飲みやすいですね。イメージとしては、大学時代から同棲していたカップルが、ずっとつるんでいた仲間を家に呼んでワイワイ飲むのにぴったりかもしれません。『やっと結婚かよ~!』と突っ込まれながら。で、場があたたまったところで仲間のひとりがこれを取り出し、ひと笑い起きてほしいですね。ギャグだけど、ちゃんと意味もあるんだよっていうプレゼントとして」
「そうか、笑いも感動も起こせる日本酒っていうのは確かにいいですね!」
山口さん、ありがとうございました!
結婚式前夜――。親御さんと感謝の杯を交わすよし、ハングオーバー覚悟で独身最後の夜を満喫するもよし。いずれにせよ、めでたい門出にふさわしいお酒を飲みたいですよね。まぁ、私の場合は来世に賭けたいと思います。
これから結婚予定のある皆さんは、ぜひおいしい日本酒ですてきな結婚前夜をお過ごしください!
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