女性優位の出会い系パーティだらけ! 結構必死な「蚊」の婚活|動物たちの恋愛事情Vol.3

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「動物の夫婦」について紹介していく本連載。動物の生態は現代でも明らかになっていない部分が多くあります。しかし、モノも情報も感情もフクザツに入り組んでいる現代社会において、動物の夫婦や生態から人間が学ぶことって、実は多いのではないでしょうか。

動物たちの生存本能や母性本能、夫婦や家族の絆について、ライターの木村衣里(きむらいり)が取材していきます。

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読書しながら失礼します。ライターの木村衣里です。

世の中には蚊に刺されやすい人とそうでない人がいると思うんですけど、私はめちゃーくちゃ刺されやすいです。ほんとびっくりするくらい。左肩に2匹止まってたこともあります。

蚊に刺されるとかゆいし腫れるし、さまざまな伝染病にかかる可能性があることも知られています。ぶっちゃけ、全人類の「敵」だと思うんですよね、蚊って。そう考えると、自然とひとつの結論に至ります。


......いらなくない? 蚊。


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ということで、今回はこのやり場のない怒りを、東京慈恵会医科大学の嘉糠洋陸教授にぶつけたいと思います。


f:id:isoooo:20160901025317j:plain嘉糠洋陸(かぬかひろたか)

東京慈恵会医科大学 熱帯医学講座教授。獣医学科出身で専門は寄生虫学。臨床・基礎系講座の教授のポストに医師以外が就いた例は少なく、さらに38歳という異例の若さで教授に就任した。

著書に『なぜ蚊は人を襲うのか(岩波書店)』があり、わたしが冒頭で読んでいたのはこの本。

「『カ』ヌ『カ』」という、蚊を研究する運命(さだめ)を背負って生まれてきたような名前を含め、すごいお方です。



血を吸いにくるのは「人妻」で「妊婦」の蚊

f:id:isoooo:20160901025429j:plain「先生、今日はわたし、怒りに震えていますからね。容赦しないですよ。ぶっちゃけ、『蚊』っていらなくないですか? 蚊がいることでこの世になにかメリットでもあるんですか? 世界に貢献してるんですか? そもそも蚊ってなんなんですか!」

f:id:isoooo:20160901025317j:plain「木村さんは、蚊がお嫌いのようですね。でも、第一印象はよくなかったけど、内面を知ってみたら『意外といいヤツじゃん』みたいなことってあると思いますよ」

f:id:isoooo:20160901025429j:plain「内面を知るもなにも、わたしが蚊について知っているのは『血を吸うのはメス』ってことくらいです。『なんで吸われなきゃいけないの?』とは思ってますけど」

f:id:isoooo:20160901025317j:plain「そうですね。正確には、交尾を済ませたメスが産卵に備えて高度な栄養を確保するために血を吸うんです」

f:id:isoooo:20160901025429j:plain「自分が蚊の栄養になっていると想像しただけでさっそくちょっとイヤな気持ちになりました」

f:id:isoooo:20160901025317j:plain「でもそれって、人間も同じだと思いませんか。妊婦さんは赤ちゃんのために栄養を取らないと、とかバランスよく食べないと、って言われていますよね」

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f:id:isoooo:20160901025429j:plain「たしかに......。そう言われるとフクザツです......」

f:id:isoooo:20160901025317j:plain「それに、彼らにとっての産卵は一生に一度。一生のうちに二度も卵を産む個体はかなり珍しいです。また、これは昆虫全般に言えることでもありますが、蚊のメスは一生に一度しか交尾をしません」

f:id:isoooo:20160901025429j:plain「一生に一度ですか?」

f:id:isoooo:20160901025317j:plain「メスは最初に交尾したオスの精子を、生涯にわたって貯精嚢(ちょせいのう)という器官に保管しておくんです。産卵時は卵子がここを通過することで受精し、外にでてきます。つまり、メスは最初に交尾した相手の子どもしか産みません

f:id:isoooo:20160901025429j:plain「蚊のオスは相手がバージンである可能性にかけるしかない、ってことかぁ......。昆虫界がそんなシステムだなんてまったく知りませんでした......」



出会いがない"蚊界"ではオスが婚活パーティーを開く

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f:id:isoooo:20160901025429j:plain「一生に一度しか交尾をしないメスにとっては、運命の相手なワケですよね。ということは、やはり出会いのシチュエーションにもこだわるんでしょうか?」

f:id:isoooo:20160901025317j:plain「木村さん、『蚊柱(かばしら)』はご存じですか?」

f:id:isoooo:20160901025429j:plain「木の下とかにぶわぁーっとなってたり、『頭虫(あたまむし)』って呼ばれて人に着いてきたりするアレですか?」

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▲木の下とかにぶわぁーっとなってるコレ

f:id:isoooo:20160901025317j:plain「そうそう、木の下とかにぶわぁーっとなってるソレです。蚊柱を作るのは、主に血を吸わない『ユスリカ』という種類で、しかも集まっているのはほとんどがオスなんですよ」

f:id:isoooo:20160901025429j:plain「オスばっかり集まって、なにをしてるんですか?」

f:id:isoooo:20160901025317j:plain「オスがああやって集まることで、不思議とメスも寄ってくるんですよ。そしてメスは数多くのオスの中からたった一匹だけ、子孫を残す相手を選びます。出会いの場は蚊柱、男性比率がやたら高い婚活パーティーのようなものだと思っていただければ」

f:id:isoooo:20160901025429j:plain「出会いの場は婚活パーティー......ですか」

f:id:isoooo:20160901025317j:plain「蚊っ て、ものすごく小さいですよね。彼らがその辺を飛んでいて異性と巡り会うのは、とても大変なことなんです。だから蚊柱を作り、集まることで異性との出会い の確率を上げている、とされています。正直、蚊柱については発生のメカニズムや、どうやって集まってくるか、その役割についてなど、わかっていない部分が 多いのですが」

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f:id:isoooo:20160901025429j:plain「でもたしかに。あの小ささでこの世界中からパートナーを探すのって、田舎でポケモンGOやってカイリュー見つけるのと同じくらい難しそう」

f:id:isoooo:20160901025317j:plain「......まあそんな感じかもしれません。中には、あまりに出会いがないものだから、水辺でサナギから羽化して出てくるのを待つようになったものもいます」

f:id:isoooo:20160901025429j:plain「それって羽化したてのメスを、すぐ自分のものにしちゃうってことですか!?」

f:id:isoooo:20160901025317j:plain「まさにその通り。さらにサナギのうちから目をつけ、抱きかかえて確保するものまでいますよ」

f:id:isoooo:20160901025429j:plain「そんな小さいうちから......なんだか源氏物語に通じるところがありますね」

f:id:isoooo:20160901025317j:plain「紫式部に怒られますよ?」



"存在価値ゼロ"の蚊が、それでも存在し続ける理由

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f:id:isoooo:20160901025429j:plain「ここまで話を聞いておいて恐縮ですけど、結局、蚊がこの世に存在する理由ってなんなんでしょう?」

f:id:isoooo:20160901025317j:plain 「端的に言うと、蚊がこの世に存在する価値はゼロだと考えていいですよ」

f:id:isoooo:20160901025429j:plain「うわ~~~~~! 蚊の研究者が認めるって、相当価値ないんですね!? やっぱり蚊ってただの厄介者じゃないですか! 勝手に血吸うし、そのうえいろんな病気を媒介するし。はやくやっつけちゃいましょうよ。この世から滅しましょう!滅!滅!!」

f:id:isoooo:20160901025317j:plain「......では、ちょっと考えてみてください。アリやゴキブリがこの世に存在するメリットってあると思いますか?」

f:id:isoooo:20160901025429j:plain「え......。うーん......食物連鎖のバランスが保てる?」

f:id:isoooo:20160901025317j:plain「特 に個体数が多い昆虫に関しては、絶滅したからといって生態系になにかしらの影響を与えることはまずないですね。よく『蚊が絶滅したらカエルが困るので は?』ということも聞かれるのですが、ほかの昆虫を食えばいいだけの話なので。蚊が存在しないことで死んでしまうような上位の生態系は、おそらく存在しません」

f:id:isoooo:20160901025429j:plain「よし。蚊の存在価値はほぼ皆無、っと。

そうなると、そんなヤツに血を吸われて、めっちゃかゆくなったり腫れたりすることに、やっぱり納得できません。ちゃちゃーっと絶滅させることってできないんですか?」

f:id:isoooo:20160901025317j:plain「それは無理ですね。蚊って、1回の吸血で約100個の卵を産むんですよ。木村さん、今年は何箇所くらい刺されましたか?」

f:id:isoooo:20160901025429j:plain「かるく20箇所以上は......」

f:id:isoooo:20160901025317j:plain「と いうことは20箇所×100個で、約2000個の卵が産まれたことになります。つまり、木村さんがおひとりでこの夏に2000匹の蚊の誕生に手を貸したこ とに。10人いれば2万匹、100人いれば20万匹......東京都だけで、人口はどれくらいでしょうか? もはや、蚊を完全に絶滅させるのは不可能だと考えた ほうがいいでしょうね」

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「木村さん1人でこの夏だけで2000匹!」と笑う嘉糠先生。

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どんな顔をすればいいかわからなくなる私。

f:id:isoooo:20160901025429j:plain「先生、最後にもう一度だけ聞かせてください。たとえば、人類の科学力を総結集したら蚊を絶滅させることは............?」

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「ん~............」

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「やっぱ、無理かな」

f:id:isoooo:20160901025429j:plain「ありがとうございました」



まとめ

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インタビューの最後に嘉糠先生が「蚊はドラキュラと一緒で『血しか栄養にならない』。それ以外のものを摂取しても栄養にならず、血を飲まないと子孫が残せない、と考えると儚いよね~」とおっしゃっていたのが印象的でした。

嘉糠先生によると、蚊の活動期間は秋頃まで続くそうで、「冬を越す前にもう一度駆け込み産卵のピークが来るからね、10月くらいまでは血を吸いにくるよ!」とのことでした。

まだ少し先ですが、10月といえばハロウィン! 街でドラキュラの仮装をしている人を見かけた際は、「蚊と同じで儚い生き物、一生に一度のチャンスを狙っているんだな」と、優しく見守ってあげてくださいね。

それでは!




【書いた人】

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木村衣里(きむらいり)

プレスラボ所属の編集者/ライター。
実家はちいさなパン屋で、三人姉妹の末っ子。
この世で一番愛らしい動物はカバだと思っている。
Twitter:@i_s_ooooo






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