
準備の入り口で認識しておきたい! ふたりの『温度差』のこと
ご結婚式準備途中のおふたりから、お互いの『温度差』についてのご相談をいただくことがあります。『僕は結婚式必要だと思うけど、いまいち彼女が乗り気じゃない』『ふたりのことなのに、彼が全然一緒に考えてくれない』......同じ歩幅で、同じ温度で進むと思っていた準備がこの温度差のせいでうまく進めることができない、そんなお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか......?
◆あって当たり前! そもそも温度差とは?

結婚式に向けた温度差、それは、熱量やベクトルとも言い換えられると思いますが、そもそも、結婚式ではなくても人間と人間の感性の間にはほとんどの場合『温度差』は発生します。例えば仕事ひとつとっても、コミットの仕方、注力したいポイントの違い、人生の中でどの程度重きを置いて捉えるのかなどは、文字通り、人それぞれ。どれもあり方としては正解で、間違いはありません。
またそれが未経験の中でさまざまなことを決めていく結婚式となると、さらに温度差は広がりそうなものなのですが、なぜだか『ふたりが同じであること』を目指したくなってしまうのは、結婚というフィルターからふたりの相性への関心度が高まるからでしょうか。もちろん、自然とピッタリ共鳴できる! というのは幸せなことのひとつではあるのですが、そうでなければ結婚できないというものでもないはず。
だからまずは『温度差はあって当たり前』と理解すること。しかも、その差は少しでもたくさんでも全く構わない、大切なのは、その距離感と向いている方向を理解して、ふたりがどう混ざり合いながら『心地よい温度』を作っていくか。そのプロセスそのものが、結婚式準備であり、夫婦になる準備期間になるのではないか、私はそう捉えています。
◆お互いの気持ちを伝え合って解決! 温度差を乗り越えた事例
あるカップルさんの例をご紹介します。前撮り撮影の衣装(和装)選びに同行させていただいていたときのことです。ご新婦さまの衣装が先に決まり、その後、ご新郎さまの衣装を決める段階になって、シンプルで正統派の黒、渋めな柄入りの茶色、爽やかで華やかな白の3色から絞ることになりました。しかし、ご新郎さまからはなかなかご希望の色が出ません。
ご新婦さまは『彼が一番カッコよく見えるのは茶色、でも自分の着物とは釣り合わないかも』という観点で悩んでいますが、なかなか決定打になりません。確かに、そうなのです。茶色は彼には似合っていますが、ご新婦さまの着物と並んだときには若干ずれがあって、コーディネートとして一番完成度が高いのは、実は白でした。
そこで私はご新郎さまに伺ってみます。
『ご新郎さま的に、何も考えずにご自身でしっくりきている色はどれですか?』
すると、
『実は黒なんです。僕は弓道をやっていたので、黒が一番僕らしい。でもこの結婚式は彼女がやりたいというところから始まっているので、その気持ちを尊重してあげたくて......。丸投げしているとかのネガティブな意味じゃなくて、ただ、純粋に、彼女の希望をかなえてあげたいんです。それと、できれば自分を主張するのではなくて、彼女を引き立てられるものを着たい。』
と。彼にとっての結婚式とは彼女に寄り添う事であり、それが、彼の深い愛情なのだと感じた私は、
『それは、愛ですね。ではおふたりでこの前撮り撮影を未来にどんなふうに残っていたらうれしいか考えてみませんか? それぞれの今のベストショットを残すのか、またはふたりで創る「結婚写真」として残すのか。』
と提案しました。すると彼がそっと
『両方とてもステキな考え方だ。』
と、言いました。すかさず、彼女が答えます。
『確かにどちらもステキな考え方だけれど、私は結婚式はふたりで作りたい。だから、白がいいと思う。だってふたり並んだときに一番しっくりくるのは白だから。』
はっきりと、能動的に、彼女の想いが言葉になった瞬間でした。ふたりの心が交わったことにより、こうして最適解が生まれたのです。

写真:かねこりか(haco) プロデュース:フリースタイルウエディングアンレーヴ
彼の「彼女の意見で全て決めたい」という気持ちは、もちろん愛のひとつの形。でもそれは、そんなつもりはなくても、向き合うことに背を向けてしまうようにも見えがちで、実はその姿勢の理由が見えないから、これまでのコミット具合に物足りなさを感じていた彼女。前撮り撮影のときのふたりの笑顔は、どこか自信に満ち溢れているように見えました。それは、分かり合えたことが、ふたりの絆を強くしてくれたという証で、こうしてお互いにアウトプットしてみることで、解消できる温度差というのは、実は、結婚式準備の中にたくさんあるのです。
◆まとめ
温度差があるのはわかったけれど、自分達で解消しようとしても、ケンカになっちゃうし、なかなかうまくいかない、そんな声も聞こえてきそうです。実際に私の過去のお客さまたちも、昔はよくその温度差への理解が少しだけ足りなかったからか、よくケンカされていました。たくさん悩み相談に乗ったものです。
ところが、お打ち合わせにヒアリング(私はコンセプトミーティングと呼んでいます)を取り入れ始め、おふたりの言葉で想いをアウトプットし、それぞれの価値観に触れるという時間を作ったことで随分と解消されたような気がしています。夫婦になることの第一歩は、お互いを知ること。この『お互いの温度差を理解し合うためのアウトプット』を、私がそばにいなくてもおふたりだけでできるツールを実は今、開発しています。少しでもお互いの価値観を深く理解し、心地よい温度感の中でご準備を楽しく進められますように。お届けできるまでもう少しだけお待ちくださいね。
写真(メイン)/Marlgrafica 享丸桂大
写真(プロフィール)/Roots&Routes 小澤 彩聖



結婚式場に約15年勤務後、フリーウエディングプランナーとして独立。現在はウエディングプランナーと並行して、ブライダル関連企業にて人材育成コンサルティングのほか、ブランドプロデュースや商品開発、撮影のアートディレクション、イベントやショー、ライブステージの演出なども手がける。