パリで起きた映画革命『ヌーヴェルヴァーグ』、恋愛映画の新しい波『オブセッション 災愛』
2026/07/09 更新
1950年代末のパリを再現した『ヌーヴェルヴァーグ』
フランス語で【新しい波】を意味する「ヌーヴェルヴァーグ」は、1950年代後半のフランス映画界で起きた。ジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリフォーら若い監督たちが中心となった自由な映画づくりの運動は世界へと広まり、やがて米国では「アメリカン・ニューシネマ」、日本では「松竹ヌーベルバーグ」が生まれている。
映画界で革命が起きている瞬間を捉えたのが、リチャード・リンクレイター監督の最新作『ヌーヴェルヴァーグ』(7月10日公開)だ。ゴダール監督の長編デビュー作『勝手にしやがれ』(1960年)がパリで製作されていく過程をみずみずしく描いている。
恋愛映画に革新をもたらしているカリー・バーカー監督のデビュー作『オブセッション 災愛』(7月17日公開)にも注目したい。若者たちの恋愛模様をホラータッチで描き、北米で大ヒットを記録している。
映画界で起きている“革命”をクローズアップしてみよう。
映画界で革命が起きている瞬間を捉えたのが、リチャード・リンクレイター監督の最新作『ヌーヴェルヴァーグ』(7月10日公開)だ。ゴダール監督の長編デビュー作『勝手にしやがれ』(1960年)がパリで製作されていく過程をみずみずしく描いている。
恋愛映画に革新をもたらしているカリー・バーカー監督のデビュー作『オブセッション 災愛』(7月17日公開)にも注目したい。若者たちの恋愛模様をホラータッチで描き、北米で大ヒットを記録している。
映画界で起きている“革命”をクローズアップしてみよう。
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『勝手にしやがれ』の製作現場をリアルに再現
映画の常識にとらわれず、『勝手にしやがれ』の撮影は進められた
その後、リンクレイター監督は運命的に出会った恋人たちのその後の人生を、キャストが実際に年齢を重ねるのに合わせて描き続けた。『ビフォア・サンセット』(2004年)、さらに『ビフォア・ミッドナイト』(2013年)へと続く「ビフォア」三部作には、フィクションであるはずの物語が、リアルな時間の流れの中で本物の記憶になっていくような面白さがあった。
リンクレイター監督は、フィクションに現実の時間を取り込むのがとてもうまい。
ヌーヴェルヴァーグの代表作『勝手にしやがれ』が製作される様子を追ったバックステージドラマ『ヌーヴェルヴァーグ』は、監督デビューのチャンスを狙うゴダールや後に大スターとなるジャン=ポール・ベルモンドに新人俳優をキャスティングし、彼らが自分たちのデビュー作を撮っているかのような初々しさがスクリーンから伝わってくる。
まるでタイムマシンに乗って、『勝手にしやがれ』の製作現場に立ち会っているような気分になる。映画好きなら、誰しも体験したくなるはずだ。
即興性を重んじたゴダール監督の独自スタイル
ゴダール役のギヨーム・マルベック(画像左)、ベルモンド役のオーブリー・デュラン
ゴダール監督が撮った『勝手にしやがれ』は、自動車泥棒を重ねる青年とフランスに留学中の米国人女子大生との束の間の恋愛感情を描いた実にシンプルな物語だ。脚本はキャストに事前には渡さず、その場の即興性を重んじた。高感度フィルムを用い、最小限の人数の撮影クルーで自由に屋外ロケを続けた。シーンの前後のつながりは気にせず、大胆な編集で仕上げていく。
今でこそ映画史に残る傑作として評価されている『勝手にしやがれ』だが、当事者たちはそこまでは思っていなかった。流行に敏感なジーン・セバーグは好奇心から出演OKするが、ゴダールが脚本を渡さないことには不満で、途中降板したいと駄々をこねる。兵役から戻って間もないジャン=ポール・ベルモンドは、映画が完成するとは考えておらず、その日その日の撮影現場を楽しむ享楽家だった。
新しい映画づくりに燃えていたゴダールだが、『勝手にしやがれ』は初めての長編映画で、無事に最後まで撮り切ることができるか不安もあったはずだ。劇中、ゴダールがずっとサングラスをしたままなのは、緊張した表情をスタッフやキャストに気づかれないためだったのではないだろうか。
ヌーヴェルヴァーグ、それは映画の青春時代
伝説となっている『勝手にしやがれ』のラストシーンも描かれる
ヌーヴェルヴァーグ、それは映画という芸術表現の青春時代でもあったのではないだろうか。
監督もキャストも自由気ままだった。そんな『勝手にしやがれ』の現場を、なんとかまとめた助監督の苦労も評価したい。劇中、クランクインの際に助監督のピエール(ベンジャミン・クレリー)が口にする言葉がシャレていて、いい感じだ。
「聞いてくれ。『天才とは絶望的状況から突破口を生み出すこと』ジャン=ポール·サルトル。これでいい?」
劇中で再現された『勝手にしやがれ』は、『ヌーヴェルヴァーグ』の公開に合わせ、7月24日(金)から『勝手にしやがれ 4Kレストア版』、ゴダール監督とジャン=ポール·ベルモンドが再タッグを組んだ1965年の作品『気狂いピエロ 2Kレストア版』も7月31日(金)より劇場公開される。この機会に、ヌーヴェルヴァーグの傑作をぜひチェックしてみてほしい。
新しいことに挑戦したいと考えている人にとって、きっと背中を押してくれる作品になるはずだ。
恋愛をホラー視点で描き、北米で大ヒット
シャイな青年が「恋まじない」で恋愛を叶える『オブセッション 災愛』
最近の映画界では、「ホラー·ヌーヴェルヴァーグ」と呼びたい新しい波が起きている。アリ·アスター監督の民俗系ホラー『ミッドサマー』(2019年)、ヨルゴス·ランティモス監督が古典的怪奇小説『フランケンシュタイン』をジェンダー視点から再構築した『哀れなるものたち』(2023年)など、新感覚の映画が人気となっている。
従来のホラー映画がモンスターの恐ろしさを描いていたのに対し、特殊な状況に置かれた人間の心理そのものに焦点を当てたユニークな作品が増えている。倫理観の崩壊や社会不安を題材にした作品も多い。
人気YouTuber出身のカリー·バーカー監督のデビュー作『オブセッション 災愛』も、そんな新感覚ホラーの台頭を感じさせる作品となっている。片想いの相手と両想いになりたいという内気な男性の願いが、「恋まじない」によって叶ってしまう。しかし、「恋まじない」によって無理やり振り向かせた彼女は、以前とは性格がまったく異なる別人格となっていた。
恋とは相手を思いどおりにはできない感情だ。だが、「恋まじない」によって恋愛を強制的に成立させた瞬間、恋愛がもたらすはずの幸福感は「恐怖」へと変わっていく。『オブセッション』は恋愛に潜む「支配欲」をホラーとして可視化してみせた作品だと言えるだろう。
YouTuber監督たちが撮る新感覚ムービー
ヒロイン役のインディ·ナバエレッテの振り切った演技も話題に
フランスで始まったヌーヴェルヴァーグは、映画批評誌出身のゴダールやトリフォーたちが運動の中心となった。それに対し、ホラー·ヌーヴェルヴァーグはYouTube出身監督が多いのが特徴だ。人気YouTuber出身、弱冠21歳のケイン·パーソンズ監督のデビュー作『バックルームズ』(9月4日公開)も北米で記録的な大ヒットとなっている。
SNS世代の若手監督たちが、従来の映画とは異なる新感覚の作品を手がける時代が到来している。
映画はこれから撮影スタイルも上映形態も、大きく変わっていくに違いない。変わっていく映画というメディアは、これから人間をどのように描き出すのだろうか。そして、ゴダールたちが映画界で起こした新しい波は、今なお形を変えて広がり続けている。その行方を見届けたい。
文=長野辰次
作品DATA
監督/リチャード・リンクレイター 脚本/ホリー・ジェント&ヴィンス・パルモ
出演/ギヨーム・マルベック、ゾーイ・ドゥイッチ、オーブリー・デュラン、アドリアン・ルイヤール、アントワーヌ・ベッソン
配給/AMGエンタテイメント 7月10日(金)より公開
(c)JeanLouisFernandez
https://nouvellevague-movie.com/
『勝手にしやがれ 4Kレストア版』
原作/フランソワ・トリュフォー 監督・脚本/ジャン=リュック・ゴダール
出演/ジャン=ポール・ベルモンド、ジーン・セバーグ、ダニエル・ブーランジェ、ジャン=ピエール・メルヴィル
配給/オンリー・ハーツ 7月24日(金)より公開
『気狂いピエロ 2Kレストア版』
監督/ジャン=リュック・ゴダール
出演/ジャン=ポール・ベルモンド、アンナ・カリーナ、サミュエル・フラー、ジャン=ピエール・レオー
配給/オンリー・ハーツ 7月31日(金)より公開
『オブセッション 災愛』
監督·脚本·編集/カリー·バーカー 製作総指揮/ジェイソン·ブラムほか
出演/マイケル·ジョンストン、インディ·ナバエレッテ、クーパー·トムリンソン、メーガン·ローレス
配給/パルコ R15+ 7月17日(金)より公開
(c)2026 Focus Features LLC.
https://www.universalpictures.jp/micro/obsaiai
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