ライターのカツセマサヒコです。
ある日、ふと思いました。
国民的アニメ『サザエさん』に出てくるマスオさんは、肩身が狭そうじゃないか、と。
昔から「嫁姑問題」はよく取り沙汰されていますが、旦那さんが奥さんの実家に入る「マスオさん問題」についてはそこまで頻繁に語られていません。「男ならうまくやるからでしょ? マスオさんも、磯野家に馴染めてハッピーそうだし」という偏見に次ぐ偏見。きっと世の中のマスオさんたちだって、奥さんの実家に入って「お義父さん! お義父さん!」と毎日晩酌することが楽しいと感じるときもあれば、しんどいと思う日もあるはずです。
そこで今回は、奥さんの実家で暮らしているリアル・マスオさんに取材して「マスオさんって、ぶっちゃけ大変じゃない?」と聞いてみることにしました。取材先は、東京・新橋の居酒屋「清水 KAKUREGA」。この店の経営者であり、奥さんの実家に住まいを持つ清水洋輔さんに話を聞きます。
【本日のマスオさん】
清水洋輔さん(35歳)。現在、奥さんの実家で、お義父さん、お義母さん、お義姉さん、甥っ子、奥さん(25歳)、お子さん(1歳半)と7人3世帯で暮らしている。お子さんができたタイミングで奥さんが里帰りしたことをきっかけに、ご家族との多世帯暮らしをスタート。マスオさん歴2年のパパ。
「さっそくですが、教えてください。
『マスオさん』って、しんどいときもありますよね......?」
「ありません」
「えー! 取材終わっちゃう! ないんですか!? 確かに偏見かもしれないですけど、でも奥さんのご実家にずっといるって、けっこう精神的にキませんか? 本当はしんどくないですか?」
「いや、ご家庭によってはそういうこともあると思うんですけど、僕は、ないんですよね。全然ないな。むしろ、気を使ってくれているのかな? って思うぐらい、自然に生活させてもらっています」
「サザエさんだと『波平さんの圧倒的権力』があるじゃないですか、そういうの、ないんですか。『晩酌には必ず付き合え!』とか、そういうやつです」
「ないなあ......。お義父さん、ひとりで勝手に飲むんですよね。夕飯すら、ひとりで食べるときもあるぐらいだから。付き合うこともほっとんどないんです」
「平和だなあ。いたって平和。平和が大渋滞起こしてる」
「なんで不服そうなんですか(笑)。あ、でも、テレビのチャンネル権だけはずっとお義父さんにありますよ。甥っ子が『テレビ見たい!』っていつも嘆いてます(笑)」
「あ、そこ! それ、『昔ながら』っぽい!! 『お義父さん』っぽい!!!」
「そんな興奮しなくても......(笑)」
「みんなで子どもを育てる」多世帯住宅のメリット
「今は奥さんのご両親と、義姉さん親子と、清水さんご家族の3世帯で暮らしていると思うんですよね? 多世帯で住むメリットって何かありますか?」
「うーん、義理の姉が甥っ子とうちの子を一緒にお風呂に入れてくれることがあるんですけど、そうやって兄弟感覚の子がそばにいて、世話をする大人もたくさんいることが、子どもの成長にいい影響がありそうかなと」
「『子どもはみんなで育てる』って、いい感覚ですよね」
「そうですね。みんなで助け合えるのは、核家族にはないメリットかも。いろんな大人に育てられるって、育児するうえでとても大事なことだと思うんです。価値観が広がりやすいし」
「現代、とくに東京にはあまりない、古き良き育児のかたちって感じだなあ......」
「あと、他力本願で恐縮なのですが、今、タイにお店を出そうとしていて、半年で7~8回、海外出張に行っているんです。家族を連れていけないときも、妻と子を家に置いていくよりは、実家に住んでもらっていた方が安全だし、ストレスも少ないかなって」
「ああー確かに。これは『男も家庭に入れ論』とぶつかりそうですけど、でもいざ家庭を離れて仕事するときには、相手のご実家住まいって安心できそうですよね......」
「そこに甘えちゃよくないとは思うんですけどね。事実、助けられているところが多いです」
「逆に、甘えてばかりじゃなくて、家庭のこともやらなきゃ! って思うときはありますか?」
「そうですね、そもそも居酒屋なので、17時以降になってようやく家を出ることも多いんですよ。だから昼間のうちは家にいて子どもと遊んだり、掃除をしたりすることもあります」
「おお、それは経営者って働き方をうまく使っているメリットかもしれないですね」
「逆に、みんなが帰ってきたくらいの時間から出社することもあるので、少し寂しいですけどね」
奥さんにも聞いてみた
取材中の様子を奥さんである里佳さんとお子さんの結斗くんが見に来てくれたので、一緒に話を聞いてみることに。
「里佳さんから見て、ご結婚されてからの2年間はいかがでしたか?」
「1年半前には子どもが産まれたし、あっという間だったかなあ」
「今日は『マスオさん』として清水さんからお話を伺っているんですけど、旦那さんはいい『マスオさん』してますか? 実はご家族から不平不満がたくさん出ているとか、ないですか?」
「うーん、ない、かな?」
「おお! じゃあ本当にうまくいってるんですね」
「信じてなかったんですね......」
「でも、たまに口調がキツいかなあ(笑)」
「ええー!? キツい言い方してる? してるかなあ? たまーにでしょ?」
「たまにだけどねー(笑)。でも、普段は人あたりがいいし、家に馴染むのもすごく早かったし、ストレスなかったな」
「清水さんの人柄あってのものなんでしょうねえ」
「甥っ子ぐらいじゃないですか? 僕がいることで、ストレス抱えてるの(笑)」
「え、なんで甥っ子さんが?」
「甥っ子は5歳なんですけど、膝を立ててご飯を食べたり、食べ物で遊んでいたりすると、厳しく叱るようにしているんです。甥っ子にお父さんがいないこともあって、僕以外にそういうことを注意する人がいないので。だからストレス溜まってるかも(笑)」
「ある意味、父親代わりなんですね」
「そこまで大げさなものでもないんですけどね。あとは甥っ子が叱られているのを見て、自然と自分の子どもも、そこから学んでくれるかな、とも思っています。子どもって、親のことを本当によく見ていますからね」
「そこまで考えてのことだったんですね」
愉快なマスオさんライフを過ごすためのコツ
「最後に、未来のマスオさんたちにアドバイスありますか? 注意したほうがいいこととか」
「......ないなあ......(笑)」
「清水さんはご本人の人あたりの良さと、ご家族の寛大さがあったから、とくにルールや制限、ストレスもなかったんでしょうねえ」
「そうですねえ......。あとは、あたりまえですけど、『できることは、手伝う』ですかね? 一緒に生活しているから、自分をお客さんだと思わないで、どんどん家事とかやったほうがいいかなあって思いました」
「確かに、とくにキッチンなんて奥さんの聖域とかにされがちですけど、遠慮がちなところにあえて踏み込むってことは、壁を取っ払うには早いですよね」
「あとはアレだ、『食べ物の好き嫌いを把握する』」
「お、それっぽいやつ、きましたね」
「僕はずっと飲食店をやっているからたまに料理もするんですけど、妻のご家族は、食べ物の好き嫌いが本当に多いんですよ(笑)。お鍋を食べるにも、みんなは牡蠣が好きなのに、お義父さんだけ食べられないってなると、ベースは一緒で、お義父さんだけお肉の鍋にするとか、そういう工夫してますね」
「それはちょっと感動する。お鍋まで別メニューってすごい」
「相手の味の好みを把握することは、心の距離を近づけるためのいいきっかけになるんじゃないですかね?」
「よく『男をつかむなら胃袋をつかめ』って言いますけど、あれは男女関係だけじゃないってことですね」
おわりに
完全に偏見を交えたうえでリアル・マスオさんの実態を知ろうとしたのですが、清水さんはご自身の性格とご家族の寛大さに恵まれて、とても快適なマスオさんライフを過ごしているようでした。
とはいえ、これはあくまでも一例。みなさんの周りにもひっそりと暮らすリアル・マスオさんは、もしかするとストレスを抱えているかもしれませんし、清水さんのように夫婦だけの暮らしよりも伸び伸びしているのかもしれません。
また、意外とこういった話は、結婚すれば誰にでもあることなのかもしれません。奥さんや旦那さんは選べても、そのご家族までは選ぶことができないのですから、どうにかよい関係性や距離感を築くため、お互い前向きに検討していくことが大切なようです。
そのうえで、どうにもうまくいかないと思ったときはぜひ、「胃袋をつかんで」みてはいかがでしょうか。もしかしたら突破口になるかもしれません!
「ちなみに、本家マスオさんの特技は、『お中元の中身を当てられること』らしいんですけど、清水さん、これ、できますか?」
「できません」
やっぱりアニメや漫画と現実は、なかなか一致しない!!!
【書いた人】
カツセマサヒコ
下北沢の編集プロダクション「プレスラボ」のライター/編集者。
趣味はTwitterとスマホの充電。
Twitter:@katsuse_m
【取材協力】
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