「家に帰ったときに誰かがいる安心感」シングルマザー専用シェアハウスのメリット

まじめ ピックアップ 新宿・中野・杉並

女性(男性)専用シェアハウスに、ショップやオフィスなどが併設した複合型シェアハウス......数年前から「テーマ」を持ったシェアハウスをよく目にするようになりました。

f:id:mynaviwedding:20160726175242j:plain

2014年秋に東京・浜田山にオープンしたシェアハウス「コドナハウス(codona HAUS)」も、そのひとつ。ここは「シングルマザー専用のシェアハウス」として、密かに話題を集めています。


f:id:mynaviwedding:20160726175248j:plain

事務連絡に必要な黒板を取りつけたり、壁をかわいく飾りつけたりと、子ども向けに一部カスタマイズされていますが、最大4世帯が入居できる一軒家をほぼそのまま利用して作られている同シェアハウス。家具家電付きのため、身軽な状態かつローコストで入居できることも魅力です。


f:id:katsuse_m:20160818124031j:plain

今回はコドナハウスの運営者である潟沼恵(かたぬま・めぐみ)さんに、様々な年代の子どもを抱えたシングルマザーが集まるシェアハウスを作った経緯や、彼女たちの暮らしについて、話を伺いました。



入居者に"地域の中で暮らす"ことを意識付けさせた

――ホームページに「シングルマザーの、シングルマザーによる、シングルマザーのためのシェアハウス」と書かれていました。潟沼さんご自身もシングルマザーでいらっしゃるんですね。


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「5年前、18年連れ添った主人と離婚しました。高2と中2だった子どもを連れて、家を出たんです。本当は下の子が18歳になるまでは父親がいたほうがいいと思っていたんですが、離婚が避けられない状況となりまして」


――当時ふたりのお子さんはまだ学生。お仕事はどうされていたんですか?


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「結婚していたときは、主人の会社で働いていたので、離婚と同時に仕事も失いました。子どもの学費を稼ぐ必要がありますから、すぐに新築の注文住宅の営業職に就いたんです。成果に比例して収入が高くなる、歩合制に近い給与形態でしたから、残業や休日出勤もだんだん多くなっていきました」

――そうなると、お子さんとのコミュニケーションがなかなか取りづらくなりますね。


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「中高校生になっていたとはいえ、寂しい思いをさせたと思います。とくに長期休みに入ると、子どもだけで1日3食とっていたこともありましたから。そのとき、ふと思ったんです。うちの子たちより幼い子どもを抱えながらハードに働くシングルマザーは、もっと大変なんじゃないか、と。それからシングルマザー向けのシェアハウスを始めようと、一戸建の貸家を探し始めたんです」

――この物件はすぐに見つかったんですか?


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「いえ、100軒以上物件を見て回りました。一戸建の貸家は数としては多いですが、あくまでも家族向けで、シェアハウスのような特別な用途では貸したくない、という大家さんがほとんど。この物件にたどり着いたとき、大家さんが快諾してくださったので、即決したんです」


――シェアハウスという形態自体、真新しさもありますし、加えてシングルマザー専用となると、なかなかハードルが高いんですね。近隣住民の方の反応はどうでしたか?


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「住宅街の中に建つ一軒家ですから、最初は『ここにシェアハウスができるの?』『しかも、シングルマザー向け?』『ひとりで子どもを育てるなら、実家に帰ったほうが安心なのでは?』みたいな反応はありましたね」


――やはり。そういったネガティブな反応をどう変えていったんでしょうか?


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「入居者に"地域の中で暮らす"意識を持ってもらうよう務めました。シングルマザーだろうがそうでなかろうが、子どもがいる以上周りの方に迷惑をかけること、協力していただくことは必須ですから。前に、新生児を抱えた方が入居してきたことがありました。家同士の距離が近いですから、当然赤ちゃんの泣き声が外にも漏れ聞こえて、近所の方としては『いつの間に赤ちゃんが!?』と驚くわけですよね。そこで、認知していただくよう、お母さんと赤ちゃんと一緒にご近所に挨拶して回るんです。もちろん挨拶は普段からきちんとすべきでしょうけど」


――一軒家の並ぶ街にはマンションよりも濃密な人間関係がありますから、ご近所と適度に交流して、信頼を勝ち取る必要があるんでしょうね。私も子どものころは住宅街の一軒家に住んでいたので、なんとなくわかります。


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「そうなんです。あと、ここの裏に民生委員さんが住んでいるので、その方を通じて近所の方に話していただいたこともありますね」

※民生委員とは

厚生労働大臣から委嘱され、それぞれの地域において、常に住民の立場に立って相談に応じ、必要な援助を行い、社会福祉の増進に努める方々であり、「児童委員」を兼ねています。
児童委員は、地域の子どもたちが元気に安心して暮らせるように、子どもたちを見守り、子育ての不安や妊娠中の心配ごとなどの相談・支援等を行います。また、一部の児童委員は児童に関することを専門的に担当する「主任児童委員」の指名を受けています。

民生委員・児童委員について |厚生労働省



「未婚のシングルマザー」が3割を占める

f:id:mynaviwedding:20160726175321j:plain

――ここからは、コドナハウスについて詳しく伺っていきます。2014年9月にオープンされて、現在は何世帯が住まれているんですか?


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「現在は、小学生と保育園児を抱えたシングルマザーと、現在保育園を探しているシングルマザーで構成される、2世帯5人の家族が住んでいます」


――スタート当初、シングルマザー向けということで、かなり話題になったんじゃないでしょうか?


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「今日までの約2年間で、入居希望者を含め、約30名から問い合わせをいただきました。びっくりしたのは関東近郊だけではなく、かなり遠方の方からも、ご連絡いただいたことです」


――遠方って、たとえばどこでしょうか?


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「メキシコですね」


――メキシコ!?


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「仕事の関係でメキシコに住んでいた女性で、帰国するころにはシングルマザーになる予定で、住まいを探し中だと言うんです。メキシコでは会社の独身寮に住んでいたそうで」


――独身寮、ということは未婚の方ですか?


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「そうですね。ここで暮らし始めて出産し、昨年4月まで育休をとっていました。未婚の母は増えている印象がありますね。ここに入居される方でいうと、割合的に離婚したシングルマザー:未婚のシングルマザー=7:3くらいだと思います。子どもがいても働き続けられるし、ひとりでも子どもを育てられる、という世の中になってきているのだと思いますよ」


――確かに「夫はいらないけど、子どもはほしい」と言う未婚女性、私の周りには結構いる気がします(笑)。


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「それはおすすめします(笑)。もちろん大変なときもありますけど、私は経験的に、母+子どもは絶対的に信頼できるチームでいられると思っているんです。もちろん、良い夫がいるに越したことはないですけどね(笑)」



「家に帰ったときに誰かがいる」安心感がメリット

f:id:katsuse_m:20160725225804j:plain

――ちなみに、入居時の審査ってあるんですか? 入居可となる人と不可となる人との違いも知りたいです。


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「配偶者からDVを受けて家を飛び出す方が近年多いです。ここにもそういった事情で来られる方がいますが、ご主人が追いかけてきそうな方は、私たちが守りたくても守れない。あくまでここは普通の一軒家で、強固なセキュリティシステムやガードマンがついているわけではないからです」


――そういった方が訪ねてこられた場合は、どう対応していますか?


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「行政にお任せしたり、特殊なサービスがついていて安心して暮らせる施設をご紹介したりしています。入居希望の方と面談をする際に『できるだけ早く入居したい』というような、緊急性を匂わせる方には、綿密にヒヤリングします。よくよく話を聞いてみると『夫が怖くて......』と打ち明けられることもあるからです」


――単純な面談というより、カウンセリングのような要素もあるんですね。そうやって面談を経てコドナハウスで暮らすようになった方にとって、一番のメリットってどんなことでしょう? 


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「『家に帰ったときに誰かがいる』安心感だと思います。帰宅して玄関の灯りがついているだけで、ひとりぼっちじゃないと思える、とおっしゃる方もいます。シングルマザー家庭はとかく閉鎖的になりがちですので、自分たち親子以外に他の人間が出入りする開かれた環境は孤独感を感じにくくすると思います」


――困ったときに家族同士で助け合うこともあるんですか? たとえば、Aさん一家のお母さんが忙しいときに、Bさん一家のお母さんがAさんの子どもの面倒も見てくれる、とか。


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「ないこともないですが、それぞれの子どもの年齢が離れていると、交わり合う機会は少ないと思います。以前、同じくらいの年の子どもを持つお母さんが入居していたときは、2家族で出かけているところも見ました。生活スタイルは様々なので、入居者の組み合わせ次第、といったところでしょうか」



おおらかな気持ちで暮らしてほしい

f:id:mynaviwedding:20160726175345j:plain

生活する上でのルールは決めているんでしょうか? とくに共有スペースの利用に関するルールが気になります。


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「全13項目のルールを明文化しています。たとえばキッチンの使用だと、『キッチンを使ったあとは元通りにしておいてください......』と記載しています」

f:id:katsuse_m:20160726164425j:plain


――比較的ゆるっとしたルールなんですね。


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「『現状復帰しておきましょう』というレベルにとどめていますね。というのも『食器を片づける』と一口に言っても、洗った食器を伏せて乾いてから食器棚にしまいたい人もいれば、洗った食器をすぐに拭きたい人もいるわけです。ここは学校でも会社でもないですから、ガチガチに定義されていたらイヤでしょう(笑)?」


――おうちですもんね(笑)。


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「子どもを抱えていると出かける間際や予想もしていない瞬間に、突発的な事件(?)が起きることもあります。あまり細かくルールを定めていると、それをできないときにストレスがたまってしまうと思うんです。ルールの最後に、以下のような一文を書いています。

『ルールは共同生活を送る上で複数の家族が気持ちよく生活するためのものです。あまり神経質になると、人の些細なことが気になってストレスや争いのものになるため、シェアハウスに住む以上おおらかな気持ちで、お互いに譲り合う気持ちが大切です。他人との新しい人間関係を築くことを楽しめるかがシェアハウスで生活するカギとなります』

この部分が、私が入居者の方に一番伝えたいことなんです」


――「人に対して寛容になって」いうメッセージですね。

f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「はい。おおらかな気持ちで暮らしてほしいなって。大人だけではなく、子どもたちも生きていたらイヤなこと、不条理なことに遭遇することはあります。寛容さやおおらかさを身につけるとイヤなことへの耐性ができますし、いいトレーニングにもなると思います」


――最後に、今後の目標を教えてください。個人的には、シングルファーザー向けのシェアハウスを作るなど「横展開」されてみては、と提案したいです。


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「いいですね。ニーズがあれば作ってみたいです! 今はシングルマザー、シングルファーザーだけではなく、ファミリー向けのシェアハウスも増えているみたいですね。自分の両親だけではない、いろいろな両親を見ながら育つので、素晴らしい環境だと思いますよ。『自分の親はごく普通』だと思っていたら、実はとても変わっている......と気づくこともあるかもしれません(笑)」


――あはは(笑)。でも確かに、幼少期のうちにたくさんの大人を見て育つことはプラスになりそうですよね。常識の幅が広くなる、というか。


f:id:katsuse_m:20160818124843j:plain「そうですね。今後もそういったシェアハウスを増やしていきたいです。いろいろなエリアに作りたいですし、中には高度なセキュリティを搭載した物件があってもいいと思います。今増えている空き家を活用して作るのもアリでしょうね。私は現在、ここのオーナーをやりながら、週5日、大手ハウスメーカーのリフォーム部門に勤めています。営業で東京都市部のお宅に伺う機会もあるのですが、子どもが独立してしまって、ものすごく大きなおうちに夫婦ふたりで住まれているケースをよく目にするんです。ここをシェアハウスにできないかなぁ、なんて妄想すると、夢が広がります(笑)」



おわりに

f:id:katsuse_m:20160726173949j:plain

シェアハウスにおける複数の家族は、決して濃密な関わり合いをしているわけではありませんでした。しかし、帰宅すると玄関や居間、個室に灯りがついているのを見てあたたかい気持になったり、共有スペースで顔を合わせてホッとしたりする。そんな程良い距離感とゆるやかな関係性が築かれているのが印象的でした。家族の新しい住まい方を垣間見たような気がします。





■あわせて読みたい記事


■シングルのマザーもファーザーも人生エンジョイ!