こんにちは! ライターの佐々木ののかです。
皆さんは、「アセクシュアル」という言葉を聞いたことがありますか? 恋愛感情・性的欲求を持たないセクシュアリティであり、異性愛、同性愛に対して「無性愛」とも呼ばれます。
イギリスの調査では100人に1人程度と決して少なくない人数がいると言われているアセクシュアル。LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字をとった、セクシュアルマイノリティの総称)と同様、セクシュアルマイノリティの部類に属しますが、恋愛感情を持たない点で「L・G・B・T」の4つのセクシュアリティとは少し異なっており、まだまだ認知がされていない状況です。
恋愛感情を持たないって、どういう気持ちなのでしょう......?
アセクシュアルの人は普段の生活でどういうことが困るの......?
今回は、アセクシュアルであるうつせみさん(仮名)にご協力いただき、お話を伺いました。
「病気かと思って心配した」
ーーうつせみさんが恋愛感情を持たないことには、何かきっかけがあったんですか?
いいえ、元々恋愛感情を持っていなかったんです。高校の頃、告白されてお付き合いしたこともあったんですけど、恋愛感情に発展したことは一度もなくって。
ーーお付き合いされていたこともあるんですね。そのときは、どんな気持ちでOKしたんですか?
異性でも同性でもすごく仲の良いお友達っていますよね。「親愛」のような気持ちに近いんじゃないかなと思います。付き合って別れるを繰り返すうちに、自分は同性愛者なんじゃないかと思って、女性と付き合ってみたこともありました。それでもうまくいかないので、自分は病気なんじゃないかと......。
ーー自分だけみんなと違うと不安になりそうですね......。アセクシュアルについて知ったのはいつ頃ですか?
大学1年生の頃ですかね。病気だと思って心配になって、インターネットでいろいろ調べてみたんです。そしたら、「アセクシュアル」っていう言葉が出てきて......すごく、ほっとしました。
ーー自分の気持ちが言語化されて、安心したんですね。
はい。言葉や概念があるということは、自分と似たような人が他にもいるってことなので。「なんだ、私だけじゃないなら、全然OKじゃん」って思えて、今まで以上に生きやすくなりましたね。
――思春期って恋バナとかで盛り上がることが多いと思うんですけど、アセクシュアルという言葉を知るまでに苦しかったことってありますか?
恋愛の話題になると興味がない分、話に入っていけないことはありましたが、自ずと恋愛の話をしないグループにいたので、特に苦しかったことはないですね。ただ、自分の気持ちに共感してくれる友達がいたらいいなとは思ってました。
「まだ運命の人と出会ってないのよ」というあるある
――実際に、他のアセクシュアルの方とお会いしたことってありますか?
ありますよ! インターネットで知り合って。
――おお! 現代的ですね。
アセクシュアルは「L・G・B・T」のいずれにも当てはまらないセクシュアルマイノリティなので、団体活動やイベントなどのリアルな場で出会うことがなかなか難しいんです。だからネットを介して出会うことがあるのですが、その機会がものすごく貴重で......。今でもたまにお茶やランチをするアセクシュアルの友達が何人かいます。
――アセクシュアルの方々と集まったときは、どんな話をするんですか?
ドラマやマンガ、ラブソングなんかもそうですけど、「世の中全体が恋愛中心で動いていることへの違和感はあるよね」という話はよくしますね。
――少女マンガは9割9分恋愛ものですしね。ラブソングを聴いてもあんまりピンとこないなって感じですか?
メロディーが好きだったら聴きますけど、歌詞に共感することはないですね。......あ、あと、これは「アセクシュアルあるある」なんですけど、アセクシュアルの人は、ほぼ100%「運命論者」に出会ってますね。
――運命論者?
はい。「恋愛に興味がないんです」って話をすると、「あなたはまだ運命の人に出会ってないだけよ」って言われるっていう......(笑)。
――そういう人か(笑)! たまに見かけますね............。
そうなんです。「何かトラウマになっているんじゃないの?」って聞かれたり、「それはまだ、あなたが子どもだから」って言われたりします。あと、印象的だったのは「男性にも女性にも興味ないです」って言ったときに「え、じゃあ動物?」って(笑)。
――そう来るか! って感じですね......。
はい、さすがにちょっと笑っちゃいました。なので、普段の生活ですごく困ることはないんですけど、説明しても伝わらないのはもどかしいなと思います。
母へのカミングアウトは"近況報告の延長線"で
――説明しても伝わらない中で、カミングアウトした人っているんですか?
2人だけですね。アセクシュアルという言葉を知っている友人と、母だけです。
――お母さんには話していたんですね。......素朴な疑問なんですけど、カミングアウトをするってやはり緊張するものなんですか?
緊張はしませんでした。母も特に驚いた様子もなかったです。母は元々、私があまり恋愛に興味がないことや、LGBTの団体活動をしていることは知っていたので、近況報告の延長で話したら、「あ、そうなんだ」って。
――近況報告の延長! カミングアウトってものすごくハードルが高いものだと勝手に思っていました......。
LGBTの方で「自らの望む性別で生きていきたい」とか「同性のパートナーを両親に紹介したい」って言う場合は、ある意味カミングアウトの必要に迫られている状況だから緊張するかもしれませんけど、私の場合はそうじゃなかったので。
とはいえ、世の中に広まっていない分、理解してもらいにくいのは困っちゃうんですけど......。
――理解されにくい、というと、具体的にどんな反応をされるんですか?
「恋愛感情がない」ということに対して飲み会でしつこく聞かれるのは面倒だなって思います。好きなタイプの話になったときに、何て答えたらいいかわからないことも多いですね。好きな芸能人でもいたら質問をうまくかわしやすいんでしょうけど、芸能人にも詳しくないので。
――うつせみさん、お顔が綺麗だし、モテそうです。異性からのアプローチはどうやって断わっているんですか?
「興味がない」と言うと「可能性がある」と思われるので、「好きな人がいる」って言うようにしています。あとは、LGBT団体の活動に参加していることはオープンにしているので、「レズビアンなんだ」って勝手に解釈して諦めてくれます(笑)。
――何だかものすごく理解されにくいというか......。
そうですね。LGBTが約7.6%いるのに対して、アセクシュアルは1%って言われているんです。決して少なくない数字ではあるんですが、同じセクシュアルマイノリティの中でも、さらにマイノリティなので、なかなか理解してもらいにくいんですよね。
異性愛者であっても無性愛者であっても、結婚は個々人の自由
――現状ではなかなか理解してもらいにくいと思うんですけど、うつせみさんの中で理想的と思える状況はどんなものですか?
「アセクシュアル」という言葉の認知度を上げたいとは思っています。言葉や概念を知ってもらうことは、アセクシュアルが常識として理解されるってことですよね。余計な言葉を尽くさずに「私はアセクシュアルです」の一言でみんなが納得してくれるようになったら、だいぶ生きやすくなるなとは思いますね。
――言葉が浸透したら、セクシュアリティをオープンにすることもありそうですか?
そうですね。ゲイやレズビアンくらいまで浸透したら、恐らく話すと思います。一応、SOGI(Sexual Orientation and Gender Identity)っていうセクシュアルマイノリティを総称する言葉があって、LGBTと合わせてそっちも広がっていけばいいなと思います。
――アセクシュアルという言葉の認知のために、何か活動をされていることはありますか?
認知を広めるために取材を受けたり、記事の寄稿をしたりということはするようにしています。アセクシュアルのためでもありますが、LGBT全体の力になりたいと思っているんです。
――アセクシュアルだけでなく、LGBT全体の力になりたいと思うのは、どうしてですか?
私自身の立場からはすぐに変わって欲しい社会のしくみはないんです。ただ、多くのLGBTの方が、偏見や差別、
――最後に、「自分がアセクシュアルかも......」と悩んでいる方に一言お願いします。
アセクシュアルが直面する大きな問題としては結婚や出産を求める周囲の圧があると思います。でも、これは異性愛でも同性愛でも共通して個々人の自由ですよね。アセクシュアルの人がほかにもいる、という意味合いもありますが、「みんな同じ悩みを抱えているから大丈夫だよ」っていう意味でも「一人じゃないよ」って伝えたいです。
――お忙しいところ、ありがとうございました!
まとめ
今回、お話を伺ってみて、差別的な意味合いはなくとも普段の生活でとかく色々なものに線を引き、カテゴライズしてしまっていると気づかされました。
インタビューの中で「異性愛者の人にとっても、結婚は大きな悩みですよね」と語ってくれたうつせみさん。
「同性愛だから」「無性愛だから」何か特別な悩みがあるのではないかと先入観を持ってしまいがちですが、結婚や出産などのライフイベントはいかなるセクシュアリティでも悩むし、個々人の自由に決めていいこと。
決して生きやすくはない中、今ある現状を疎まずによりよく変えていこうとする姿勢。しなやかに生きる彼女に勇気をもらった気がします。
■あわせて読みたい記事