はじめまして。ライターの須永貴子と申します。
仕事、飯、仕事、酒、テレビの毎日を送っていたらいつのまにか40代ど真ん中に到達してました。
独身です。
結婚をしたいわけでも、したくないわけでもない。ただ、結婚というアクティビティが自分の人生において、選択肢として一度も意識化されなかった、という表現が正確なところでしょうか。
きっと、昭和の時代だったら、こんな私にもおせっかいな仲人さんが縁談のひとつやふたつ、持ってきたはず。しかし18歳で上京し、平成という時代を東京砂漠で過ごした私には、そんな機会はありませんでした。
時は流れ、現代の日本では「仲人士」という職業が注目を集めているといいます。昔の私がその存在に出会っていたら、もしかしたら人生は変わっていたのでしょうか。仲人士とはどんな仕事なのか、好奇心をむき出しにして、お話を伺ってきました。
【取材した人】
村上れ以子(むらかみ・れいこ)/ 成婚率東日本第1位のスーパー仲人士。2013~2015年に3年連続で成婚最優秀賞。慶応大卒。メーカー、サンケイスポーツ・産経新聞記者を経て、2009年から内閣府認証NPO法人全国結婚相談業教育センター認定仲人士として東京で結婚相談所を運営。ホームページ→http://nk168.club/
婚活は自分の「幸せ」と向き合うこと
「自分のなかの何かが大きく変わらなければ、結婚どころか、婚活すらありえないだろうと思っている私ですが、今日はよろしくお願いします!」
「いきなりですが、須永さんにひとつ質問をさせてください」
「な、なんですか!?」
「3年後、もしくは5年後の青空が広がる素晴らしいお天気の休日に、誰と何をしていたら幸せですか?」
「そうですね......まず、カフェのテラス席でスパークリングワインを飲んで、大衆居酒屋に移動して、もつ焼きをつまみにチューハイを。さらに立ち食いの寿司屋でもちょっとつまんで、それから......」
「昼酒! いいですよね。では、その場面であなたの隣には誰がいるイメージですか?」
「え? はしご酒は一人がベストですけど......」
「それがあなたの一番の幸せなのですね? であれば、須永さんに婚活は必要ありません。その幸せを実現し続けるように邁進すればいい」
「ちょ......え? あ、はい......」
「でも、そこにすてきなパートナーがいたらいいと思うのであれば、婚活をしましょう。婚活というのは、自分の幸せやアイデンティティを探る作業なんです」
「幸せ、アイデンティティ......ですか。思いのほかスケールの大きな話が展開しているような......!?」
「いやいや、大げさな話でもなんでもないんですよ。だって、自分自身と向き合わないと、幸せな結婚なんてありえないですから。私たちの仕事はその幸せを掴み取るためにちょっとしたお手伝いをさせてもらうこと。最後にすべてを決めるのは自分なんですよ」
仲人士はどうやって人をつなげているのか
「いや......まさかいきなり自分の幸せについて考えることになるとは思いませんでした。仲人というと、おせっかいなおじちゃんやおばちゃんみたいな存在を想像していたので。そもそも仲人士という仕事があることも、つい最近まで知らなくて」
「そうですよね。一般的にはまだまだ馴染みの薄い仕事だと思います。仲人は資格がなくてもできますが、実は仲人士というのは資格で、結婚希望者にとって安心の証なんですよ。これがその認定証とバッジです」
「資格! そうなんですね」
「はい。私は全国結婚相談業教育センターというNPO法人が2009年にはじめた資格試験をその年に受験した最初の世代です。そこで仲人士資格を取得して、日本仲人協会という組織に加盟しました。昔ながらの仲人というと、年頃の方に『いい人いるから会ってみない?』と持ちかけて、出会いをつなげるボランティア的なイメージを持たれている方も多いかもしれません」
「そうですね、まさに」
「でも、そういう出会いって今、特に都市部ではほとんどないですよね。個人情報を勝手に伝えることもできませんし、旧来の仲人がやってきたようなアバウトなやり方で、トラブルが起きてしまったら責任が持てません。それを防ぐために、個人情報保護法などの法律的な知識を持つ、私たち仲人士の存在が生まれたんです」
「なるほど。確かに適当に人をつなげて許されるような時代ではありませんよね。でも逆に言えば、個人情報保護が厳しくなっている時代でどうやって人と人をつなげているんですか?」
「すごく簡単に言うと、日本仲人協会に所属する会員さんが、個人が特定されない程度の情報が掲載されたリストを見て『この人に会いたい』と申し込みをしますよね。会員さんにはそれぞれ担当の仲人士がついていますから、申し込みを受けた仲人士はそれを相手の仲人士に伝えます」
「あ、自分が抱える会員同士をくっつけるのではないのですね。会員を抱える仲人士と仲人士が引き合わせるという。ボクシングの試合を組むプロモーターみたいな」
「そうですね。それでお相手が会うことを了承した場合、仲人士を通じて日程や場所を調整して、基本的にどちらかの仲人士さんが立ち会いのもと待ち合わせします。その後は、おふたりだけで、ホテルのラウンジで一時間半くらいお茶をしていただき、翌日までに自分の仲人に『もう一度会いたい』か『もう会わない』か、意志表示してもらいます。そして、お互いに『もう一度会いたい』となって初めて、携帯電話の番号を交換します。そこまでは一切相手の連絡先を教えません」
「そうか、連絡先を知ってしまうと断りにくくなるから......」
「そうですね。断るときも相手に直接コンタクトを取る必要はなく、担当の仲人士にそれを伝えるだけでOKです。もし自分が会いたいと言ったのに、相手の仲人士から返答がない場合は断られたということになりますね」
「無言の意志表示......。でも、理由を詳しく伝えられてもショックを受けそうだからその方がドライでいいかも。では、村上さんが担当されている会員さんはどういった方が多いんですか?」
「30~50代の方が多いですね。女性は40代、男性は50代がボリュームゾーンかな。男女比は4:6で女性の方が多いですね。そのなかから、年間15人くらいの方がご成婚されています」
「ひと月に一人は結婚している計算になりますよね!? すごい......! じゃあ会員さんはそういった村上さんの仲人士としてのサービスに対して、どのくらいの費用を払っているのですか?」
「費用は仲人協会の規定のなかで、それぞれの仲人士が設定しているのですが、私の場合は初期費用5万円、月会費1万300円、成婚料が15万円。これがベースになります」
「お見合いをした人数に応じて金額が変わるとかは?」
「ありません。私はお見合い料を0円に設定しているので」
「それはまた良心的な」
「メーカーに勤めていた時代があるのでわかるのですが、たとえば一般的な仕事に就いている20代の女性のお給料ってすごく安いですよね。あのお給料から月会費1万300円とお見合い料を一回につき5000円だの1万円だのを払っていたら、都会で一人暮らしをする女性は生活に困窮してしまう。だから0円。一度のお見合いでダメでも『はい次!』と割り切って、たくさんの人に会ってもらいたいと思っているんです。実際、私の相談所の会員は、結婚に至るまでには短い人で2ヶ月、長い人で4年近くかかるので」
「おお、長期戦の人も......だから、鉄砲を撃ちまくった方がいいわけですね。確かに一回のお見合いでうまくいくほど簡単な話でもない気がするので、アタック精神は大事かもしれないですね。私にはその行動力がないかもしれないけれど......」
職業としての「仲人士」の今
「いろいろと興味が尽きないのですが、そもそも村上さんって、なんで仲人士になろうと思ったんですか?」
「私は約7年前に仲人士の資格を取りました。当時子どもが小学校に上がるタイミングで勤めていた新聞社が早期退職を募ったので、何の迷いもなく退職したんです。でもお母さん業をしながら就職活動をしてみると、やはり2人の子どもがいる40代の女性にとって再就職はむずかしい。そこで起業に切り替えて、いろいろと動いた結果、仲人士の存在を知ったんです。これなら自分でもできるかなと。だから自分でも不思議なんですよね。仲人さんにお世話になったこともなかったですから」
「そうだったんですね。それが今や東日本一の成婚率を誇るカリスマ仲人士に......やっぱり天職だったんじゃないですか?」
「どうなんでしょうね。今、仲人士の仕事って人気があるみたいなんですが、ある程度のバランス感覚があれば、誰でもなれると思うんです。今仲人士として活動している方々は、既婚女性が多いのですが、なかには男性もいますし、独身の方もいます。自宅で副業としてスタートできますし、初期投資もほぼいりません。ランニングコストもほとんどかかりませんし、在庫を抱えないので倉庫もいりません。資格取得も司法試験のようにむずかしくはないし、仲人協会のホームページ利用料も3万円で、加盟後は月会費1万円と、決して高い金額ではない」
仲人を仕事としたい方、仲人士に興味があるあなたへ | 結婚相談所の体験談
「へええ。自分の体一つで稼げる仕事なんですね」
「はい。ただ、やってみるとわかるのですが、意外とオールマイティーさが必要なんですよ。法律の知識、コミュニケーションスキル、会員さんのモチベーションを高めるコーチング力、スケジュール管理やマネジメント能力はもちろん必須。あとは集客力も大事で」
「今は婚活ブームという感じもしていますが、それでも集客ってむずかしいんですね。村上さんはどうやっているんですか?」
「私は元産経新聞の記者という立場から、Yahoo!個人のオーサーとして『婚活道』という記事を書かせていただいて、それを読まれた方からご依頼を受けることが多いですね。今はありがたいことに70人の会員さんを私と、私の会社に所属するスタッフの計3人で抱えているといった状況。極端に会員さんを増やしすぎてしまうと、一人ひとりのフォローが難しくなってしまいますので、集客のバランスは非常にむずかしいですね」
「70人の幸せを担うわけですから、責任も大きいですよね。それにしても、みんなが求めている結婚って何なんだろうなあ......」
自分の幸せは自分で掴み取る
「あの、こんなことを言うのもなんですが、私は結婚したことがないので、それがいいものなのかどうなのか、判断がつかないんです。仲人士のみなさんは、そもそも『結婚はいいものである』と思っているからこのお仕事をされているんですよね?
「え!? 思ってるんじゃないかなあ? 自分にとっては当たり前のことすぎて、他の人に聞いたことなかった(笑)」
「ですよね。くだらないことを聞いてすみません」
「いえいえ、いいんですよ。私は結婚って、パートナーと運命共同体になることだと思っています。私の場合は、この仕事をまっとうするための、子供を一人前に育てるための運命共同体。でも、これは私たちが幸せを求めた結果にたどり着いた結婚のひとつの形であって、その形は人によってそれぞれ違います。だから、自分が『結婚してよかった』と思えればそれが正解なんです」
「答えは自分のなかにしかないと」
「そうです。そして、自分が幸せになるためにするものが結婚であり、自分の思い描く幸せを一緒につくっていける相手を見つけることが婚活なのです」
「ということは、自分の幸せをイメージしなきゃダメってことですか?」
「ダメですよ!」
「わー! 一度もイメージしたことがないかも......!」
「結婚はまずそれを意識化することから動き始めるものなんです。ですから、唯一私と合わない会員さんのタイプが、『村上さんがいいと思う人を紹介してください』という方」
「え。それって村上さんを信頼してるからってことじゃないんですか?」
「違います。それは自分の幸せを他人に委ねようとしているだけ。そういう方は、何かトラブルが起きたときに『なんであんな人を紹介したんですか!?』と人のせいにしがちなんです。人間なので、私がいいと思う人と、その人がいいと思う人は違います」
「そうか。そこが私が漠然とイメージしていた旧来の仲人的な何かとの違いですね。与えられるのではなく、掴み取ることを良しとする考え方というか」
「何度も申し上げますが、自分の幸せは自分で掴まなくちゃダメなんです。相手を自分で選ばないと、将来何か問題が起きたときに、すべて他人のせいにしてしまう。そうならないように、自分で幸せを掴めるように、その人を導いていくのが、私の仕事なんです」
「仲人士、すてきなお仕事ですね。私は今の今まで、自分の幸せやそれにくっついてくるかもしれない結婚というものをまったく意識化せずにここまできました。今、44歳ですが、まだいけると思います?」
「はい。今からでもお相手は見つかります。自分に向き合うためにも、一度婚活をしてみるのは有意義だと思いますよ」
「そうかあ......ちょっと考えてみます! ありがとうございました!」
まとめ
独身の友人と話していると、「親より上の世代は、私たちにとって働くことが当たり前のように、結婚するのが当たり前だったんだろうね」「結婚しない人は今でいうニート扱いされていて肩身が狭かったんだろうね」なんてことに行き当たります。だから、当時は仲人さんがもってきた縁談を、断りにくかったんだろうなと想像します。
昔の仲人さんの動機はもちろん善意なのでしょうが、そこには実は「いつまでも独身の娘が家にいるのは恥ずかしいでしょ」という、世間体を前提とした同調圧力が働いていたんじゃないでしょうか。
でも、今の時代の仲人士さんは、世間体や一般的な価値基準は関係なく、会員さん個人の幸せを何よりも重視していることがわかりました。
「婚活とは自分の幸せやアイデンティティーを探る作業」という村上さんの言葉は、結婚はもちろん、幸せな人生を送るための大きなヒントになりそうです。
【著者紹介】
須永貴子(すなが・たかこ)/ライター・インタビュアー。映画やドラマを中心に、俳優や監督、お笑い芸人、アイドル、市井の人までインタビュー仕事が日課の晩酌と同じくらい大好物。 @sunagatakako
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