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Vol.12 二人の歴史を刻むもの #聡一郎(そういちろう)

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「えっ、この蔵は天保時代に建造されたものなんですか!?」

 醤油蔵の案内係の説明を聞いて、聡一郎の隣で恋人の梨子(りこ)が驚きの声を上げた。大きな木桶が並び、醤油の香りで満たされた蔵を、梨子は目を輝かせながらあちこち見る。
 友人の紹介で付き合って三年になる梨子は、こういう歴史や伝統のあるものが大好きだ。それに、見るだけでなく作るのも好きで、伝統的な織物の生地をアクセントに使ってスマホポシェットやクッションカバーなどを作り、副業としてネットショップで販売している。最近は売上も好調だと聞いた。
 大学で准教授として働く聡一郎とは価値観が似ていて、お互いのことをよくわかっていると感じている。

(梨子とこれからも一緒にいられたら……)

 ずっと募っていたその気持ちが、帰りの車中でふっと口をついて出た。

「お互い仕事も落ち着いてきたし、そろそろ一緒に住もうか?」
「あー……うん」

 梨子の返事を聞いて、ふと我に返った。
 聡一郎との将来に否定的ではない返事をもらえたものの、これでは梨子と一緒に育んできた大切な時間と想いを伝え切れていないような気がする。

(改めてきちんとプロポーズをしよう)

 そう決意した聡一郎は、梨子を彼女の部屋に送り届けた帰り道、ハンドルを握りながら、どんなエンゲージリングがいいだろうかと思案する。

(ブランドものは安心感があるけど……梨子は謂われやこだわりのあるものが好きだし、そういうものの方が俺たちらしいよな。長く使ってほしいから、何よりもダイヤモンドの品質を重視しよう。つけ続けるほどに愛着が湧くようなデザインはマストだな。長く使っていたら、傷がついたりサイズが変わったりするかもしれないし、アフターサービスが充実しているところがいいだろう……)

 大切な人のために納得のいくものを探そう。
 そう思うと、なんだか楽しみになってきた。


 二週間後、聡一郎は梨子と一緒に、二人で住む部屋のための家具を見に行った。その帰り、予約していたカジュアルフレンチのレストランに誘った。
 きちんとプロポーズをするつもりで、レストランにお願いして、小さなバラの花束を預かってもらっている。〝お互いに敬い、愛し、分かち合いましょう〟という花言葉を持つ六本のバラの花束だ。
 コース料理のデザートを食べ終えたとき、聡一郎は給仕係に視線で合図を送った。一度スタッフルームに姿を消した給仕係は、すぐにトレイに小さな赤いバラの花束をのせて出てくる。
 その給仕係が聡一郎たちのテーブルの横で足を止めたので、梨子は目を丸くした。

「えっ?」

 聡一郎は花束を受け取って梨子に差し出し、想いを伝える。

「梨子、これからもずっとそばにいてください」
「……は、い」

 梨子は驚いた様子ながらも、両手を伸ばして受け取ってくれた。表情がほころび、花束を嬉しそうに眺める。

「……こんなふうにしてくれるなんて思わなかった。ありがとう」

 聡一郎は黒い小箱を取り出した。蓋を開けると、十輪の小さな赤いバラの花に囲まれて、ダイヤモンドのリングが艶やかで美しい輝きを放つ。
 顔を上げた梨子が感嘆の声を出した。

「わぁ……すごくきれい」

 聡一郎は梨子に小箱を渡してから、テーブルに白っぽい半透明の小さな石のようなものを置いた。原石の厳選からカット、研磨、デザイン、販売までを一貫して行う世界的なカッターズブランドの、ダイヤモンドジュエリー専門店でもらったものだ。

「これはそのダイヤモンドの原石の3D模型だよ」

 聡一郎はスマホの画面を操作して、梨子に向けた。そこには、カラーやクラリティなど輝きの四項目の測定結果や原石の3D画像、最終的に仕上げられたダイヤモンドの画像などが表示されている。
 こんなふうにダイヤモンドの〝顔〟が見えるところに品質への自信を感じて、一生ものの大切な贈り物の店として選んだのだ。
 スマホを見せながら、こだわり抜いてそのダイヤモンドブランドを選んだ理由を明かす。

「ここは二百年以上の歴史があってね、今で七代目なんだ。アルティメイトという最高品質のダイヤモンドを扱っていて、ダイヤモンドと聞いて誰もがイメージするこの形にカットする技術は、百年以上前に四代目が発明したんだそうだよ。今でもそれ以上の輝きを出すカット技術は開発されていないんだ。それに、このダイヤモンドがどんな形をした原石だったのか、そこから職人の手でどんなふうにカットされ研磨されたのか……俺たちのところに来るまでにダイヤモンドがどんな旅路を辿ってきたのか、その歴史がわかるんだ」

 話しているうちに熱がこもって前のめりになっていた。聡一郎は小さく咳払いをして姿勢を正した。けれど、梨子は夢中でスマホの画面を見つめている。

「わぁ、すごいね……。作り手の思いと、選んでくれた聡一郎さんの気持ちが伝わってくる。これ以上ないくらい私たちらしいね。すごく嬉しい。ずっとずっと大切にするね」
「喜んでくれてよかった。このダイヤモンドの長い歴史に続けて、夫婦としての俺たちの歴史を刻んでいけたらなと思ったんだ」

 ちょっとクサイかなと気恥ずかしくなりながら言ったセリフに、梨子は満面の笑みで「よろしくお願いします」と答えてくれた。
 そうして今日は、二人が共に歩む人生の〝輝きの原点〟になる――。

(文/ひらび久美)
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