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Vol.5 恋人から夫婦になる約束の証 #結月(ゆづき)

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「もう十一月になったんだねぇ。早いなぁ」

 結月は、晩ご飯にお好み焼きを焼いたホットプレートを洗いながら言った。水を軽く切って、隣で食器を拭いていた航介(こうすけ)に渡す。

「うまかったな~。でも、お好み焼きにはやっぱりあれがないとなぁ」

 航介は布巾でホットプレートを拭いて、残念そうに零した。

「航介がご飯の前に全部飲んじゃうからだよ。お好み焼きに合わせて買っておいたのに」

 結月が頬を膨らませると、航介はバツが悪そうな笑みを浮かべた。

「ごめんごめん。明日、仕事帰りに買ってくるよ」
「六缶パックのにしてね」
「おう」

 航介はホットプレートを棚に片づけた。ソファに移動して、辺りをキョロキョロする。

「なあ、結月、あれはどこ?」
「クッションの下にない?」

 結月は対面式のキッチンからリビングを見た。航介はソファの上のクッションを持ち上げる。

「ああ、あった」

 航介はリモコンを手に取り、ソファに座ってテレビをつけた。
 同い年の彼とは、大学生の頃から付き合い始めてもう七年になる。学生時代は互いの部屋を行き来する半同棲生活を送っていたが、就職後、この2LDKの部屋を借りて一緒に住み始めた。長く一緒にいたら、彼の言う〝あれ〟がなんなのか自然とわかる。

(でも、私が望んでいる〝あれ〟は、航介には伝わってないんだろうなぁ……)

 テレビでバラエティ番組が始まり、結月は航介の隣に座った。テレビ画面に女性司会者が大写しになる。

「さて、今月二十二日はいい夫婦の日です。それにちなんで婚姻届を出すカップルも多いそうで――」

 航介はアームレストに肘を突いて顎を支えながら、感心した声を出す。

「へー、いい夫婦の日なんてあるんだ。俺たちもその日に出そうか」
「出すってなにを?」

 結月が眉を寄せ、航介は肘を突いたまま結月を見る。

「婚姻届だよ。俺、仕事帰りに役所でもらってくるから」
「え、ちょ、ちょっと待って。それってもしかしてプロポーズ?」

 結月は目を見開いて航介を見た。

「うん、まあ、そうかな」
「そうかなって……もっとちゃんとしてよ」

 結月は航介のスウェットの袖を引っ張った。彼はきょとんとした顔をする。


「ちゃんとって?」
「だって、二人とも部屋着なんだよ? おまけに家のソファでテレビを見ながらなんて、ぜんぜんロマンチックじゃないし。婚約指輪だってもらってないのに」

 期待していた〝あれ〟――プロポーズ――とは大違いだ。

「婚約指輪は毎日つけるものじゃないし、結婚指輪があれば十分だろ?」
「婚約指輪は恋人から夫婦になることを約束するためのものなんだよ? 永遠に一緒にいようねって誓う愛の象徴なの! 一生に一度しかもらえない特別なものなのに」
「いやいや、付き合い長いんだから、今さら必要ないだろ」
「付き合いが長いからこそ、けじめが必要でしょ」
「そうかなぁ。今まで通りここに住むし、俺たち自身はなにも変わらないだろ」

 航介は素っ気なく言ってテレビに顔を向けた。

「航介のわからず屋っ」
「わからず屋はそっちじゃないか」

 航介は横目で結月を見たが、すぐに視線をテレビに戻した。そうしてテレビの中のゲストと一緒に笑い声を上げる。

「……ずっと憧れてたのに。航介なんかもう知らないっ」

 結月は悲しい思いでつぶやき、ベッドルームに入って布団を被った。


 それから航介とは平行線のままだ。朝は結月の方が早いので、一人で朝食を食べて家を出る。夜は結月が先にベッドに入り、遅く帰ってくる航介はリビングのソファで寝る。会話もなく、あんなに居心地のよかった部屋が、よそよそしさで息が詰まりそうだ。
 どうすれば自分の気持ちが彼に伝わるのか。悩みながらも答えが見つからない日々が二週間ほど続いたある日。仕事を終えて会社を出たとき、スマホに航介からメッセージが届いているのに気づいた。

【仕事が終わったら、ここに来てほしい】

 メッセージには会社近くのカフェのマップが添付されている。
 わざわざメッセージで呼び出すなんて。

(もしかして……別れ話……?)

 意地を張らなければよかったという後悔と、人生に一度きりのプロポーズを大切にしたいという気持ちが交錯する。
 通りではクリスマスのイルミネーションが始まっていて、街路樹が電飾で明るく彩られているのに、結月の心は少しも浮き立たない。
 重い足取りでカフェに入ったら、航介は窓際の席に一人で座っていた。どこか思い詰めたような表情をしていて、余計に不安になる。

「航介、お待たせ。遅くなってごめんね。さっき仕事が終わってメッセージに気づいたの」

 結月はわざと明るい声を出して、航介の前の席に座った。彼は膝の上に両手を置いたまま、うつむき加減で口を開く。

「……俺たちは学生の頃からの付き合いで……気が合うし、結月とはこのままずっと一緒にいるんだろうなって思ってた。だけど……」

 航介の言葉にますます不安を募らせながら、結月は続きを促す。

「だけど……?」
「結婚ってさ、結月と俺だけのつながりじゃないんだよな。結月の家族や俺の家族……それに俺たちの新しい家族とのつながりが新たに生まれるんだって気づいたんだ」

 航介は顔を上げてまっすぐに結月を見た。

「ただ楽しいだけの恋人から、固い絆で結ばれた、苦楽を共に生きる夫婦になりたい。その一生に一度の特別な決意と約束を伝えるのが、婚約指輪なんだよな。ブライダルのジュエリーショップの人と話して、結月の気持ちがわかった」

 航介が膝の上の手を持ち上げた。その両手の中に黒い小箱がある。彼が蓋を開け、結月は思わず息を呑んだ。箱の中では、十輪の真っ赤なバラに囲まれて、美しいダイヤモンドがまばゆい輝きを放っている。

「ダイヤモンドと合わせて十一輪のバラが表すのは……言わなくても結月に伝わっていると思い込んでいた俺の気持ち……〝最愛〟です。結月、恋人から夫婦になってください」

 ダイヤモンドがセットされたプレートには〝Marry me?〟の文字が刻まれていた。
 嬉しくて感動して、結月の目に涙が浮かぶ。

「はい! よろしくお願いします」

 航介はホッとしたように表情を緩めた。

「次の週末、このダイヤモンドに合うリングを一緒に選びに行こうな」
「うん」

 航介が小箱を差し出し、結月は彼の想いが詰まったそれを大切に受け取った。
 指輪ができたら、大事にずっとつけていよう。きっと左手の薬指を見るたびに、今日のことを思い出して、彼との絆を再確認できるだろうから――。

(文/ひらび久美)
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