結婚式場探しならマイナビウエディング > 結婚式準備最強ノウハウ > マイナビウエディングPRESS > 小説 記事一覧 > Vol.6 恋人から夫婦になる約束の証 #航介(こうすけ)
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取引先の会社のビルを出て、航介はため息をついた。十一月上旬の銀座の空気は思ったよりも冷たくて、コートのポケットに両手を突っ込む。
「晩飯は……どこかで食べて帰るか」
先日ちょっとした言い合いをしてから、恋人の結月(ゆづき)と口を利いていない。付き合って七年、就職後に一緒に暮らし始めて五年が経ったが、こんなにも気まずいのは初めてだ。
『婚約指輪は恋人から夫婦になることを約束するためのものなんだよ?』
悲しそうな結月の言葉を思い出す。
(恋人から夫婦になることを約束するためのものっていうなら、結婚指輪で十分じゃないか)
学生でお金がなかった頃は、デートで公園をぶらぶらしたり、どちらかの部屋で、野球の試合をテレビで観ながら、ビール片手に応援して盛り上がったりした。社会人になって同棲を始めてからは、キャンプに行ったり、温泉に行ったり、一緒にいろんなことを楽しんだ。そんなふうに気が合って、一緒ならなにをしても楽しかった。ときどきケンカもしたけれど、さっぱりした性格の結月とはすぐに仲直りできたし、そばにいるのがとても自然だった。いい夫婦の日があると知って、ちょうどいい機会だから、その日に婚姻届を出せばいいと思ったのだ。
(結月も賛成してくれると思ったのにな……)
今まで通りあの部屋に一緒に住んで二人で暮らしていくのだから、なにも変わらない。プロポーズも婚約指輪もとくに必要ないだろう。そう思っていたが、結月は違ったようだ。
『……ずっと憧れてたのに』
結月の悲しげな声が耳に蘇った。
「憧れ、か……」
航介は地下鉄銀座駅に向かって歩きながら、ボソッとつぶやいた。お互い気心が知れていると思っていたから、結月の気持ちを改めて考えたことなんてなかった。
駅が近づいてきたとき、白と黒のシックな外観の建物が視界に入った。黒地に白抜きの文字で書かれた看板から、ダイヤモンドジュエリー専門店だとわかる。
(ちょっと……覗いてみようかな)
迷いながら足を止めると、ちょうど店内から人が出てきた。コンシェルジュに見送られながら、航介と歳の近そうなカップルが階段を下りてくる。女性は左手を街灯の明かりにかざした。薬指でまばゆい光がきらめき、彼女は嬉しそうに目を細めて隣の男性を見上げる。
「ありがとう。すごく嬉しい! 私たち、本当に婚約したんだね~」
女性に満面の笑みを向けられて、男性も同じように笑顔になった。
「これからもずっと一緒にいような」
「うん! もちろん!」
寄り添う二人の表情はとても明るく、幸せに満ちている。
(婚約指輪を贈る意味って、なんなんだろう……?)
航介は思い切って店内に足を踏み入れた。
それから二週間後、航介は結月が退社する時間を見計らってメッセージを送り、結月を 彼女の職場の近くにあるカフェに呼び出した。この二週間、一緒に住んでいるのにほとんど顔を合わせず、言葉も交わさなかった。お互い仕事が忙しかったからでもあったが、居心地のよかったはずの結月との暮らしを、窮屈で息苦しく感じた。
(手遅れでなければいいんだけど……)
窓の外の並木道はクリスマスのイルミネーションに彩られているが、不安と緊張のせいで、それを楽しむ余裕はない。視線を落として、膝の上に置いた両手の中の黒い小箱を見たとき、結月の声がした。
「航介、お待たせ」
顔を上げると、ちょうど結月が前の席に座るところだった。
「遅くなってごめんね。さっき仕事が終わってメッセージに気づいたの」
結月の声は明るかったが、表情は不安そうだ。無理をして明るく振る舞っているのだろう。航介は膝の上で小箱を握りしめた。二週間前にジュエリー専門店のコンシェルジュと話したことを思い出しながら、口を開く。
「……俺たちは学生の頃からの付き合いで……気が合うし、結月とはこのままずっと一緒にいるんだろうなって思ってた。だけど結婚ってさ、結月と俺だけのつながりじゃないんだよな。結月の家族や俺の家族……それに俺たちの新しい家族とのつながりが新たに生まれるんだって気づいたんだ」
航介は顔を上げて、まっすぐに結月を見た。
「ただ楽しいだけの恋人から、固い絆で結ばれた、苦楽を共に生きる夫婦になりたい。その一生に一度の特別な決意と約束を伝えるのが、婚約指輪なんだよな。ブライダルのジュエリーショップの人と話して、結月の気持ちがわかった」
「晩飯は……どこかで食べて帰るか」
先日ちょっとした言い合いをしてから、恋人の結月(ゆづき)と口を利いていない。付き合って七年、就職後に一緒に暮らし始めて五年が経ったが、こんなにも気まずいのは初めてだ。
『婚約指輪は恋人から夫婦になることを約束するためのものなんだよ?』
悲しそうな結月の言葉を思い出す。
(恋人から夫婦になることを約束するためのものっていうなら、結婚指輪で十分じゃないか)
学生でお金がなかった頃は、デートで公園をぶらぶらしたり、どちらかの部屋で、野球の試合をテレビで観ながら、ビール片手に応援して盛り上がったりした。社会人になって同棲を始めてからは、キャンプに行ったり、温泉に行ったり、一緒にいろんなことを楽しんだ。そんなふうに気が合って、一緒ならなにをしても楽しかった。ときどきケンカもしたけれど、さっぱりした性格の結月とはすぐに仲直りできたし、そばにいるのがとても自然だった。いい夫婦の日があると知って、ちょうどいい機会だから、その日に婚姻届を出せばいいと思ったのだ。
(結月も賛成してくれると思ったのにな……)
今まで通りあの部屋に一緒に住んで二人で暮らしていくのだから、なにも変わらない。プロポーズも婚約指輪もとくに必要ないだろう。そう思っていたが、結月は違ったようだ。
『……ずっと憧れてたのに』
結月の悲しげな声が耳に蘇った。
「憧れ、か……」
航介は地下鉄銀座駅に向かって歩きながら、ボソッとつぶやいた。お互い気心が知れていると思っていたから、結月の気持ちを改めて考えたことなんてなかった。
駅が近づいてきたとき、白と黒のシックな外観の建物が視界に入った。黒地に白抜きの文字で書かれた看板から、ダイヤモンドジュエリー専門店だとわかる。
(ちょっと……覗いてみようかな)
迷いながら足を止めると、ちょうど店内から人が出てきた。コンシェルジュに見送られながら、航介と歳の近そうなカップルが階段を下りてくる。女性は左手を街灯の明かりにかざした。薬指でまばゆい光がきらめき、彼女は嬉しそうに目を細めて隣の男性を見上げる。
「ありがとう。すごく嬉しい! 私たち、本当に婚約したんだね~」
女性に満面の笑みを向けられて、男性も同じように笑顔になった。
「これからもずっと一緒にいような」
「うん! もちろん!」
寄り添う二人の表情はとても明るく、幸せに満ちている。
(婚約指輪を贈る意味って、なんなんだろう……?)
航介は思い切って店内に足を踏み入れた。
それから二週間後、航介は結月が退社する時間を見計らってメッセージを送り、結月を 彼女の職場の近くにあるカフェに呼び出した。この二週間、一緒に住んでいるのにほとんど顔を合わせず、言葉も交わさなかった。お互い仕事が忙しかったからでもあったが、居心地のよかったはずの結月との暮らしを、窮屈で息苦しく感じた。
(手遅れでなければいいんだけど……)
窓の外の並木道はクリスマスのイルミネーションに彩られているが、不安と緊張のせいで、それを楽しむ余裕はない。視線を落として、膝の上に置いた両手の中の黒い小箱を見たとき、結月の声がした。
「航介、お待たせ」
顔を上げると、ちょうど結月が前の席に座るところだった。
「遅くなってごめんね。さっき仕事が終わってメッセージに気づいたの」
結月の声は明るかったが、表情は不安そうだ。無理をして明るく振る舞っているのだろう。航介は膝の上で小箱を握りしめた。二週間前にジュエリー専門店のコンシェルジュと話したことを思い出しながら、口を開く。
「……俺たちは学生の頃からの付き合いで……気が合うし、結月とはこのままずっと一緒にいるんだろうなって思ってた。だけど結婚ってさ、結月と俺だけのつながりじゃないんだよな。結月の家族や俺の家族……それに俺たちの新しい家族とのつながりが新たに生まれるんだって気づいたんだ」
航介は顔を上げて、まっすぐに結月を見た。
「ただ楽しいだけの恋人から、固い絆で結ばれた、苦楽を共に生きる夫婦になりたい。その一生に一度の特別な決意と約束を伝えるのが、婚約指輪なんだよな。ブライダルのジュエリーショップの人と話して、結月の気持ちがわかった」

航介は箱を持ち上げると、結月の方に向けて蓋を開けた。箱の中では、十輪の真っ赤なバラに囲まれて、心を込めて選んだダイヤモンドがまばゆく輝いている。そのダイヤモンドがセットされたプレートに刻まれているのは、彼の決意を表す〝Marry me?〟の文字だ。
「ダイヤモンドと合わせて十一輪のバラが表すのは……言わなくても結月に伝わっていると思い込んでいた俺の気持ち……〝最愛〟です。結月、恋人から夫婦になってください」
結月の顔が明るくほころび、嬉しそうな笑みが広がっていく。
「はい! よろしくお願いします」
結月の返事にホッとして、航介の肩から力が抜けた。
「次の週末、このダイヤモンドに合うリングを一緒に選びに行こうな」
「うん」
航介が小箱を差し出し、結月は手を伸ばして大事そうに受け取った。目を潤ませながら嬉しそうにバラとダイヤモンドを眺める結月を見て、航介の胸に熱いものが込み上げてくる。
あの日、思い切ってジュエリー専門店に入り、コンシェルジュの話を聞いてよかった。また一つ絆が深まった気がして、航介は頬を緩めた。結月は顔を上げて、嬉し涙に濡れた目をいたずらっぽく輝かせて言う。
「それから、あれにも行かなくちゃね」
結月の言う〝あれ〟がなんなのか、当然わかる。
「おう、あれだな。もちろん! 一緒に婚姻届を出しに行こうな」
生涯を共にするという航介の決意と結月への想いを形にしたダイヤモンド。それが入った小箱を大事そうに持つ結月の両手を、航介は大きな手のひらで大切に包み込んだ。
(文/ひらび久美)
「ダイヤモンドと合わせて十一輪のバラが表すのは……言わなくても結月に伝わっていると思い込んでいた俺の気持ち……〝最愛〟です。結月、恋人から夫婦になってください」
結月の顔が明るくほころび、嬉しそうな笑みが広がっていく。
「はい! よろしくお願いします」
結月の返事にホッとして、航介の肩から力が抜けた。
「次の週末、このダイヤモンドに合うリングを一緒に選びに行こうな」
「うん」
航介が小箱を差し出し、結月は手を伸ばして大事そうに受け取った。目を潤ませながら嬉しそうにバラとダイヤモンドを眺める結月を見て、航介の胸に熱いものが込み上げてくる。
あの日、思い切ってジュエリー専門店に入り、コンシェルジュの話を聞いてよかった。また一つ絆が深まった気がして、航介は頬を緩めた。結月は顔を上げて、嬉し涙に濡れた目をいたずらっぽく輝かせて言う。
「それから、あれにも行かなくちゃね」
結月の言う〝あれ〟がなんなのか、当然わかる。
「おう、あれだな。もちろん! 一緒に婚姻届を出しに行こうな」
生涯を共にするという航介の決意と結月への想いを形にしたダイヤモンド。それが入った小箱を大事そうに持つ結月の両手を、航介は大きな手のひらで大切に包み込んだ。
(文/ひらび久美)
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