結婚式場探しならマイナビウエディング > 結婚式準備最強ノウハウ > マイナビウエディングPRESS > 小説 記事一覧 > Vol.8 家族が生まれる日 #翔太(しょうた)
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ヨーロッパの大聖堂を思わせるチャペルは、ステンドグラスが美しく、白く清らかな光が降り注いでいる。ロイヤルブルーのバージンロードの両側、花で飾られた参列者席には、両親や親戚のほか、学生時代からの友人、勤め先の同僚や上司がいる。
そんな厳かな空気の中、祭壇の前に立つと、柄にもなく緊張して脚が震えそうになり、翔太はゆっくりと深呼吸をした。
もうすぐチャペルの扉が開き、新婦の彩が父親にエスコートされてバージンロードを歩いてくるだろう。
新婦の準備が整うのを待つ間、翔太は閉ざされたままの扉を眺める。
(結局……お義父さんには最後まで祝福の言葉をもらえなかったなぁ……)
半年前、結婚の挨拶をするために彩の両親に会いに行ったときのことを思い出す。
『二十三歳で結婚なんて早すぎるだろう』
彩の父は険しい顔でそう言った。彩とは高校時代からの付き合いだが、彩は昔から両親と折り合いが悪かった。
『ですが、彩さんを想う気持ちは何年経っても変わらないと誓えます。彩さんと毎日一緒にいたいんです。どうか僕たちの結婚を認めてください』
翔太は気持ちを込めて頭を下げた。けれど、返事はない。居心地の悪い沈黙が続いて顔を上げられずにいたら、彩の父が低い声で言い捨てた。
『勝手にするがいい』
『えっ』
翔太が驚いて顔を上げたときには、彩の父はソファを立っていた。その後ろ姿が客間のドアの向こうに消えて、彩はイライラした口調で言う。
『あの人、いつもあんなだから気にしなくていい』
『彩、お父さんって言いなさい』
彩の母はたしなめるように言ってから、翔太に気遣わしげな笑みを向けた。
『翔太くん、せっかく来てくれたのにごめんなさいね』
『あ、いえ……。また日を改めてご挨拶に伺います』
翔太は彩の母に言ったが、母が答えるより早く彩が口を開く。
『あの人、勝手にしろって言ったんだから、私たち勝手に結婚したらいいんだよ。文句は言わせない』
『それでも、祝福されて結婚する方がいいだろ?』
高校時代の翔太は真面目とは程遠く、親にも反抗ばかりしていた。だが、成人して社会に出て働くようになると、親や先輩や上司など、周囲の人との関わりを強く感じるようになった。そうした人とのつながりを大切にしたいと思うからこそ、彩の父にも祝福してほしいのだが……。
彩の母は小さくため息をついて翔太を見る。
『お父さん、彩が翔太くんと一緒にいるのを何度か見かけてね、『彩は家では笑わないのに、翔太くんと一緒だと笑うんだな』って言ってたの。だから、翔太くんのことは認めてると思うんだけどねぇ』
そうは言ってくれたものの、そのあと何度か彩の家を訪れたが、結局、彩の父が認めてくれることはなかった。
心残りを強く感じたとき、司会者の声がチャペルに響いた。
「新婦様とお父様のご入場です」
直後、チャペルの扉が大きく開いて、彩と彼女の父の姿が現れた。二人はゆっくりとバージンロードを歩いてくる。彩の左手は父の右腕にしっかりと回されていた。
つい先日も、彩は『お父さんの腕に掴まって歩くとか最悪』と言っていたが……今は穏やかな笑みを浮かべている。
温かな拍手の中、二人は祭壇の前で翔太に並んだ。薄いベール越しに、彼女の目が赤いのがわかる。
挙式前に両親と過ごす〝家族の時間〟に、なにかあったんだろうか。
心配になったとき、牧師の声が聞こえてきた。
「それでは、〝確認の儀〟を行います」
この式場では、新郎新婦が誓いの言葉を交わす前に、新婦の父に二人の結婚を祝福するか確認するのだ。
だが、これまで彩の父は、二人の結婚をはっきりとは認めてくれていない。そのことに不安を覚えたとき、牧師が彩の父に厳かな口調で問いかけた。
「新婦のお父様、あなたはお二人の結婚を心から祝福なさいますか?」
「はい」
返事は低い声だったが、力がこもっていた。
彩の父がようやく認めてくれたようで、翔太はホッとするとともに目の奥がじぃんとした。
そんな厳かな空気の中、祭壇の前に立つと、柄にもなく緊張して脚が震えそうになり、翔太はゆっくりと深呼吸をした。
もうすぐチャペルの扉が開き、新婦の彩が父親にエスコートされてバージンロードを歩いてくるだろう。
新婦の準備が整うのを待つ間、翔太は閉ざされたままの扉を眺める。
(結局……お義父さんには最後まで祝福の言葉をもらえなかったなぁ……)
半年前、結婚の挨拶をするために彩の両親に会いに行ったときのことを思い出す。
『二十三歳で結婚なんて早すぎるだろう』
彩の父は険しい顔でそう言った。彩とは高校時代からの付き合いだが、彩は昔から両親と折り合いが悪かった。
『ですが、彩さんを想う気持ちは何年経っても変わらないと誓えます。彩さんと毎日一緒にいたいんです。どうか僕たちの結婚を認めてください』
翔太は気持ちを込めて頭を下げた。けれど、返事はない。居心地の悪い沈黙が続いて顔を上げられずにいたら、彩の父が低い声で言い捨てた。
『勝手にするがいい』
『えっ』
翔太が驚いて顔を上げたときには、彩の父はソファを立っていた。その後ろ姿が客間のドアの向こうに消えて、彩はイライラした口調で言う。
『あの人、いつもあんなだから気にしなくていい』
『彩、お父さんって言いなさい』
彩の母はたしなめるように言ってから、翔太に気遣わしげな笑みを向けた。
『翔太くん、せっかく来てくれたのにごめんなさいね』
『あ、いえ……。また日を改めてご挨拶に伺います』
翔太は彩の母に言ったが、母が答えるより早く彩が口を開く。
『あの人、勝手にしろって言ったんだから、私たち勝手に結婚したらいいんだよ。文句は言わせない』
『それでも、祝福されて結婚する方がいいだろ?』
高校時代の翔太は真面目とは程遠く、親にも反抗ばかりしていた。だが、成人して社会に出て働くようになると、親や先輩や上司など、周囲の人との関わりを強く感じるようになった。そうした人とのつながりを大切にしたいと思うからこそ、彩の父にも祝福してほしいのだが……。
彩の母は小さくため息をついて翔太を見る。
『お父さん、彩が翔太くんと一緒にいるのを何度か見かけてね、『彩は家では笑わないのに、翔太くんと一緒だと笑うんだな』って言ってたの。だから、翔太くんのことは認めてると思うんだけどねぇ』
そうは言ってくれたものの、そのあと何度か彩の家を訪れたが、結局、彩の父が認めてくれることはなかった。
心残りを強く感じたとき、司会者の声がチャペルに響いた。
「新婦様とお父様のご入場です」
直後、チャペルの扉が大きく開いて、彩と彼女の父の姿が現れた。二人はゆっくりとバージンロードを歩いてくる。彩の左手は父の右腕にしっかりと回されていた。
つい先日も、彩は『お父さんの腕に掴まって歩くとか最悪』と言っていたが……今は穏やかな笑みを浮かべている。
温かな拍手の中、二人は祭壇の前で翔太に並んだ。薄いベール越しに、彼女の目が赤いのがわかる。
挙式前に両親と過ごす〝家族の時間〟に、なにかあったんだろうか。
心配になったとき、牧師の声が聞こえてきた。
「それでは、〝確認の儀〟を行います」
この式場では、新郎新婦が誓いの言葉を交わす前に、新婦の父に二人の結婚を祝福するか確認するのだ。
だが、これまで彩の父は、二人の結婚をはっきりとは認めてくれていない。そのことに不安を覚えたとき、牧師が彩の父に厳かな口調で問いかけた。
「新婦のお父様、あなたはお二人の結婚を心から祝福なさいますか?」
「はい」
返事は低い声だったが、力がこもっていた。
彩の父がようやく認めてくれたようで、翔太はホッとするとともに目の奥がじぃんとした。

牧師が言葉を続ける。
「それでは、その印として彼女の右手を渡してください」
牧師に促され、彩の父は娘の手を取って翔太に向けた。翔太は神妙な面持ちで、義父に
なる人を見る。
「翔太くん、どうか……娘を毎日笑わせてやってください」
その声はかすかに震えていた。唇を引き結び、感情をこらえようとするかのように眉根を寄せる。普段と変わらない厳めしい顔つきに見えたが、目にうっすらと涙がにじんでいた。
それは、娘の幸せを願う父親の顔だった。
(そうだ。お義父さんにとって彩はたった一人の大切な娘なんだ……)
翔太の胸に熱いものが込み上げてきた。牧師は翔太と彩を見て、静かな声で問う。
「お二人の結婚に対する意思の確認をします。愛に満ちた結婚生活を、共に継続することを、心より望みますか?」
翔太は彩を見た。彩が口元に笑みを浮かべる。翔太は愛する人と声を合わせ、決意を込めて答える。
「はい」
そして彩の父に顔を向けた。新婦の父は相変わらず眉間にしわを刻み、唇を固く結んでいる。その人に、翔太は挨拶のときに言えなかった言葉を伝える。
「お義父さんとお義母さんの大切な彩さんを、必ず幸せにします」
頼むぞ、というように彼女の父が頷き、目元が緩んだ。それに気づいた瞬間、翔太は涙でなにも見えなくなった。
(文/ひらび久美)
「それでは、その印として彼女の右手を渡してください」
牧師に促され、彩の父は娘の手を取って翔太に向けた。翔太は神妙な面持ちで、義父に
なる人を見る。
「翔太くん、どうか……娘を毎日笑わせてやってください」
その声はかすかに震えていた。唇を引き結び、感情をこらえようとするかのように眉根を寄せる。普段と変わらない厳めしい顔つきに見えたが、目にうっすらと涙がにじんでいた。
それは、娘の幸せを願う父親の顔だった。
(そうだ。お義父さんにとって彩はたった一人の大切な娘なんだ……)
翔太の胸に熱いものが込み上げてきた。牧師は翔太と彩を見て、静かな声で問う。
「お二人の結婚に対する意思の確認をします。愛に満ちた結婚生活を、共に継続することを、心より望みますか?」
翔太は彩を見た。彩が口元に笑みを浮かべる。翔太は愛する人と声を合わせ、決意を込めて答える。
「はい」
そして彩の父に顔を向けた。新婦の父は相変わらず眉間にしわを刻み、唇を固く結んでいる。その人に、翔太は挨拶のときに言えなかった言葉を伝える。
「お義父さんとお義母さんの大切な彩さんを、必ず幸せにします」
頼むぞ、というように彼女の父が頷き、目元が緩んだ。それに気づいた瞬間、翔太は涙でなにも見えなくなった。
(文/ひらび久美)
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