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Vol.1 伝えたい時が伝える時 #茉莉花(まりか)

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「今日ね、私の企画が通ったんだよ!」

 茉莉花はソファに座ってクッションを抱えながら、スマホのビデオ通話に映る純弥(じゅんや)に、嬉しい出来事を報告する。付き合ってもうすぐ三年になる純弥は、同じ文房具メーカーの二年先輩。彼の勤務先は隣県の研究施設だ。

「〝かわいい癒やし〟がコンセプトでね、オフィスで働く女性をターゲットにしてて――」
 ずっと温めていた企画がようやく実現する。その喜びを嬉々として語る。
「自分で言うのもナンだけど、売れるんじゃないかな~って」
「ああ」
「手触りもいいんだよ?」
「んー」

 純弥の反応に、茉莉花は眉を寄せた。彼はもともと口数が少ない。話すのはだいたい茉莉花で、彼が聞き役なのはいつものことだけど……今日の純弥はいつにも増してリアクションが薄い。スマホの画面に映る純弥は、どこか違うところを見ていて、ぼんやりしている。

「ねえ、疲れてるの?」

 茉莉花が心配して訊くと、純弥はハッとしたように茉莉花の方を見た。

「え?」
「なんかボーッとしてない?」
「そんなことないよ」

 純弥は慌てたように首を横に振った。

「でも、私と話してても楽しくなさそう」
「そんなことないって」
「……じゃあ、どう思うか聞かせて?」
「なにを?」

 純弥が怪訝そうな表情になり、茉莉花は頬を膨らませた。

「やっぱり私の話、聞いてなかったんだ」
「……ごめん」

 純弥はバツが悪そうな顔をした。

「疲れてて話したくないんなら、そう言ってくれたらいいのに」
「だから、そんなことないってば」
「さっきからそればっかり。言いたいことがあるならちゃんと言ってよ」

 茉莉花の声につい不満が混じった。

 隣県で働く純弥とは、会おうと思えば会える距離だ。けれど、お互い忙しくて最近では会うのは月に一、二回。寂しくて、もっとそばにいたいと思うからこそ、週に一度のビデオ通話の時間はとても大切なのに。
 純弥がなにも言わないので、茉莉花は素っ気ない声を出す。

「もういいっ。いつも私の話ばかり聞かせて悪かったねっ」
「だから、そうじゃなくて」

 純弥の言葉を遮るように、茉莉花は早口で言う。

「明日は土曜日だし、一人でゆっくり休んだらいいよっ。じゃあねっ!」

 茉莉花は純弥の返事も待たずに通話を終了した。クッションを抱えたままソファにごろんと横になる。自分の声が消えたワンルームの部屋は、急にしんと静かになった気がする。

(私たち、これからどうなるんだろう……。これからなんてあるのかな)

 茉莉花は横になったままスマホを操作した。検索窓に〝結婚までの交際期間〟と入力したら、読者の経験談を取り上げた情報サイトの記事が見つかった。交際期間はカップルによって違うが、三年未満で結婚したカップルも多く、羨ましくなる。

(彼は私とずっと一緒にいたいって思ってないのかな。ロマンチックなプロポーズに憧れてたけど、そもそも普通のプロポーズすらしてもらえないかも……)

 夜景を見ながらのプロポーズ、レストランでのサプライズプロポーズ、観覧車の一番上でのプロポーズ……。読者の経験談をいくつも読んでいるうちに、寂しさが募ってきた。
 ふと気づけば、窓越しに雨の音が聞こえる。
 本当はさっきの電話で、明日会おうよって誘いたかったのだ。それなのに、あんな切り方をしてしまった。

(一緒にいられるなら、私はおうちデートでもよかったのに……)

 切なくため息をついたそのとき、インターホンが鳴った。立ち上がってモニタを見たら、なんと純弥の姿が映っている!
 茉莉花は驚いて玄関に走り、ドアを開けた。純弥は髪が雨で濡れ、走ってきたのか肩で息をしている。

「どうしたの!?」

 茉莉花が問うと、純弥は背中に隠していた左手をさっと前に出した。目の前に真っ赤なバラの花束が差し出され、茉莉花は目を見開いた。
 純弥は頬骨の辺りを赤くしながら、ぼそぼそと言う。

「……十二本のバラは、感謝とか愛情とか永遠とか……十二の言葉を表すんだって」

 茉莉花は驚きが冷めやらぬまま、口を動かす。

「え?……ああ、たしかダーズンローズって、言うんだよね。聞いたことが……」

 感謝、誠実、幸福、信頼、希望、愛情、情熱、真実、尊敬、栄光、努力、永遠という結婚生活で大切にしたい言葉を表すのだと、以前、雑誌のプロポーズ特集で読んだことがある。

「さっきはごめん。実はどうやって気持ちを伝えようか悩んでて、上の空だった」

 純弥の言葉を聞きながら、茉莉花は両手で花束を受け取った。甘やかな香りに包まれ、喜びと期待で胸がドキドキする。純弥を見ると、彼は緊張した面持ちで、ジャケットのポケットから紺色の小箱を取り出した。彼が蓋を開けると、プラチナ色に輝くダイヤモンドリングが姿を現す。中央で輝くダイヤモンドの両側に小さなダイヤモンドが寄り添う、優しく華やかなデザインだ。

「この指輪を見た瞬間、茉莉花の笑顔が思い浮かんだんだ」

 彼の言葉に、茉莉花は目頭がじわりと熱くなった。純弥は小さく咳払いをして、改まった口調で言う。

「白川(しらかわ)茉莉花さん、君がいつも笑顔でいられるように、十二の言葉を誓います。これからもずっとそばにいてください」

 心のこもった言葉に茉莉花は胸がいっぱいになった。嬉し涙で視界がにじみ、指輪は雨に濡れた花のようにキラキラと輝く。

「はい。私もずっとあなたと一緒にいたいです」

 ずっと抱いていた想いを言葉にしたら、純弥は嬉しそうに微笑んだ。彼が茉莉花の左手を取って、薬指に指輪をはめた。ひんやりとしたその重みから、彼の気持ちの揺るぎなさが伝わってくる。
 この人と一緒なら、きっと幸せになれる。そんな予感に包まれた。

(文/ひらび久美)

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